犯人の名は・・・
深夜。
シン・・・ッ とした病院の通路を ヒタヒタッ と歩く影があった。
その影の手には、鉄パイプのような長物が握りしめられている。
「・・・」
不意に、通路の真っ暗な闇を切り裂くように光が瞬いた。
ライトだ。スマートフォンのライトが照らされたのだ。
照らしたのは、もちろん影の人物。
影の人物は、スマホのライトで病室の部屋番号を順番に照らしていく。
「314・・・315・・・316・・・」
ぽつり ぽつり と照らし出された部屋番号を読み上げていく影の人物。
そしてーーー、
「ーーーッ。317室。ここ・・・」
とうとう目当ての病室ーーー、堀沢が入院している317病室へ たどり着いた。
影の人物は 堀沢の病室を確認すると、持っていた鉄パイプ確かめるようにを ぐっぐっ と握りなおす。そして、扉の取手に手を掛けて、迷いなく堀沢の病室へと入り込んだ。
「・・・」
どうやら、堀沢の317室は個室らしい。
それを確認するや否や、影の人物は「ーーーチッ」と苦々しく舌を打ち鳴らした。
「・・・クソ告げ口野郎の分際で個室とか・・・生意気」
深夜・・・当然、就寝時間であるため病室の電気は消されている。
影の人物は、持っていたスマホのライトを頼りにベッドで寝ているであろう堀沢の元に近寄っていく。
だが 次の瞬間ーーー、
「ーーーッ!!!?」
就寝時間であるはずの病室に電気が灯った。
暗闇に目が慣れていた影の人物は、咄嗟に眩んだ目を覆う。
「ぅ、、何??」
「やっぱり来たか。待ってたぜ」
「!!?」
光に目が眩み、あたふた としている彼女の耳に、聞き覚えがある声が聞こえてきた。
そう、文立学園大学A棟2階・・・学生課前のエントランスで聞いた女性の声だ。
「誰だ・・・お前っ!?」
徐々に見えて来た目を、声が聞こえて来た方へ向ける彼女。すると、数人の影が堀沢の病室に佇んでいた。
その中の1人・・・だるんだるん のスウェットの上下を着込んだ だらしの無い女が彼女の質問に答えた。
「私は足立 一華。文立学園大学の《探偵サークル》の部長兼紅一点をしている者だ」
「《探偵サークル》の足立!? 噂の文立の問題児か!? なぜ、そんな奴がここに!?」
「それはね・・・君の親友から依頼があったからさーーー、辻 リサ」
「ーーーっ!!?」
足立から名前を呼ばれて、辻は思わず身構える。
「今回、堀沢を狙った通り魔事件の犯人はアンタだな」
***************
時間は、15時間前に遡る。
堀沢が通り魔犯に襲撃された翌日。文立学園大学内にあるカフェテリアで、足立と田中は今回の事件について話し合っていた。
「堀沢の容体はどうなんだ?」
「昨日、知り合った警察の人に聞いた限りでは、命に別状はないらしいですよ。目も覚まして、意識も しっかり しているそうです。ただ、頭を殴られているから、色々と検査があるそうで、まだ入院してますが・・・」
「そか。まぁ、無事ならいいや」
「それで先輩。そろそろ話してもらっても良いですか? 今回の事件の真相と犯人を」
「気がハエーな。今まで働いてたんだから、少しゆっくりさせろよ」
「アンタ、ずっと このカフェでダラダラしてただろうが。原チャリの持ち主の特定を俺に押し付けて」
「持ち主の特定なんて、私が教えたステッカーの登録番号を学生課に聞けば 1発だったろ」
「ステッカーの番号も一応 個人情報なんですからね・・・それを学生課の北郷さんから聞き出すのが、どれだけ大変だったか・・・ぶつぶつぶつ」
よほど策を弄したのか、疲れた顔を見せて ぶつぶつ と独り言ちる田中。そんな田中を見ながら、カフェテリアで注文したコーヒーを一気に飲み干した足立は、ゲプッ と溜め息のように小さなゲップを繰り出した。
「分かったよ。この後、犯人に罠を仕掛けて、掛かった時に謎解きをしようと思ってたが、田中には先に真相を話しておいてやる」
「ーーー! 本当ですか!」
「あぁ。まず、単刀直入に言うと、今回の犯人は原チャリの持ち主である辻 リサだ」
「辻 リサ・・・天宮さんの依頼メールでは、堀沢と不貞を働いていると書かれていた彼女ですか」
「そうだ。今回の依頼の厄介なところは、その天宮が辻を庇って、偽った依頼を私たちにして来たところにある」
「・・・!」




