フルフェイス原付ライダー。鉄パイプ装備
学校が終わった後も、堀沢 コウスケの浮気調査を続けた《探偵サークル》の足立と田中だったが、その後の堀沢の行動にも怪しいところはなかった。
文立学園大学から出ている無料バスに乗車した堀沢は、そのまま大学最寄り駅に降り立ち、駅内にあるラーメン屋で早めの夕食を 1人で済ませる。その後は、駅に直結している商業施設をぶらつき、最後は近場の本屋に寄って帰路に着く。
それだけだった。
堀沢の恋人である雨宮 テンセイが指摘する 辻 リサとの不貞行為はおろか、女性の影すら見えない地味な生活を送っている。
「なかなか尻尾を見せませんねぇ〜・・・はやく帰って 課題やりたいのに」
時刻は すでに午後7時を回っていた。
夜の帳が完全に降りた道すがら、帰路に着く堀沢の後を こっそりと付ける田中は、誰に言う訳でもなく ぐちぐちと呟く。
「レポート、、レポート、、レポートやりたいのになぁ〜・・・」
「オメェなぁ〜、さっきからうるせぇよ。なんの課題があんだよ?」
「哲学のレポートですよ。哲学はテストがないから レポートで評価が決まるんです。未提出だと単位もらえない」
「哲学って、三好のか?」
「あぁ、はい。三好教授の哲学です」
「その授業なら 私も去年取ったからな。私が提出したレポートやろうか?」
「バレるでしょ、そんなの。去年の今年で出したレポートが同じなんて」
「いや、バレねぇって。三好はレポート見ない事で有名だもん。かくいう 私が去年提出したレポートも、代々 文立の学生に受け継がれてきた “三好レポート” というモノでな。幾度となく先人たちに提出されて、哲学の単位を取得してきた至極の一品だ」
「マジでか・・・」
「まぁ、使い回しが嫌だってんなら、もうテキトーに文字羅列したモン提出したらいいよ。私の友達は ボカロの歌詞羅列したレポート提出して単位もらってたし」
「もう何でもアリか・・・哲学ってなんなのさ」
「ーーーきっと、それは永遠の謎なんだろうな・・・と、堀澤を見失っちまう」
脇道に逸れた堀沢を追って足立が走り出す。それに追従する田中は 急ぐ足立を諫めた。
「ちょ、、先輩。あんまり近づくと気づかれちゃいますよ! ここら辺、ぜんぜん人いないんですから」
田中の言う通り、堀沢が行く道は住宅街の奥まった場所にあり、帰宅時間であるのに人の姿は全く見当たらなかった。
周囲に人がいない状況での尾行は危険がともなう。不用意に近づけば怪しまれるし、最悪、尾行に気づかれる事だってある。
だが足立はーーー、
「大丈夫だって。もう暗いし、ちょっとくらい近づいても気づきゃしねぇよ」
田中の忠告を笑い飛ばして、どんどん堀沢に近づいていく。
「先輩!!」
だが その時だーーー。
堀沢が十字路に差し掛かった辺りで、突如 振り返った。
「ーーーっ!!」
「ヤバっ」
咄嗟に動きを止めてしまう足立と田中。
“だるまさんが転んだ” でもない限り、前の人間に振り替えられて動きを止めるなど怪しさMAXだろう。
だがしかし、堀沢の意識は後をつけてきた足立や田中には向いてはいなかった。
「・・・なんだ?」
次の瞬間、シンッ とした夜の静けさを引き裂く、ヴィィーーーッ という、けたたましい音が響き渡った。
「なんの音だ!?」
「分かんないです!?」
突如として響き渡った音に肩を震わせて驚いた足立たち。調査対象の堀沢も同様だった。
次の瞬間、バッ と堀沢にライトが照らされた。さほど強くない光だ。原付か自転車のライトだろうか。
だがしかし、暗がりでの突然の点灯だ。
この場にいた全員の目が眩んだーーー、と同時に、ヴィィーーーッ!! と先ほど聞こえた音が再び響き渡った。
ここまで来ると、この音の正体には みんな気づいていたはずだ。
これは、原付のエンジン音だ。
「ーーー! 危ねぇ!!」
刹那、足立が声をあげる。
それとほぼ同時だ。横道から1台の原付が堀沢に向かって突っ込んで来た。
「ーーーっ!!?」
原付に乗っていたのは、フルフェイスを被った異様な人物だ。
彼は、速度を上げて突っ込んで行きーーー、手にしていた鉄パイプを 堀沢の頭めがけて振り払う。
瞬間、ゴッ!! という歪な音が響き、堀沢が勢いよく倒れる。そして、フルフェイスの原付は速度を落とさずに走り去ってしまった。




