真犯人の名はーーー?
「えー、おほん。では、今回の《ハゲたおっさん像破壊事件》の真相にーーー・・・」
「初代学長像ですね」
「《初代学長像破壊事件》の真相についてお話します」
足立は、「ーーーまず」と前置きをして、今回の《初代学長像破壊事件》の あらましを語り出した。
「ーーー今回の事件は、5月14日 午後2時に、文立学園大学 本校舎前にある初代学長の像が、何者かに破壊された事が始まりです。本校舎前は人通りが少なく、講義中ともあり、当初 目撃者は居ないと思われました。ですが、幸運にも事件の目撃者が現れます。それはーーー」
言いながら、足立は《軽音サークル》の面々に鋭い目を向けた。瞬間、揃って、ビクンッ と肩を震わした《軽音サークル》。
「ここに集まって貰った《軽音サークル》の方々です。彼らが学長像を破壊した現場を目撃してくれていました。そうだな、北郷」
「! あぁ・・・」
突如、会話を振られた学生課の北郷は、足立同様に《軽音サークル》の面々を順に見る。
「確かに、ここにいる3人だ。私が直接 話を聞いたから間違いない」
「この3人で いいんだな」
「ーーー?」
足立の確かめるような言葉に、北郷は眉を寄せる。だが、北郷の意見は変わる事はなくーーー、
「ーーーあぁ、間違いない。そこにいる池田、峰打、高津の3人だ」
先ほど言った言葉を繰り返すだけだ。
北郷の その一言を聞いた足立は、何かを悟ったように、スゥ と瞳を閉じると「分かった」と、ぽつり と呟いた。
「話を戻しましょう。《軽音サークル》の3人に目撃された犯人・・・それは幸運にも、彼らと顔見知りの人物でした。彼女の名はーーー、水谷 イズミ。《軽音サークル》と《演劇部》に属する学生です」
足立に名前を呼ばれた瞬間、水谷も、ビクンッと肩を震わした。
「犯行を目撃された水谷さん は、そのまま銅像破壊犯として捕まるはずでした・・・だがしかし、ここで問題がひとつ」
足立は、自らを指差してーーー、
「ーーー私たち《探偵サークル》です」
短く そう言い放つ。
「事件が起きたのは、5月14日の午後2時ちょうど。これは、目撃証言と 本校舎の自転車置き場に設置されている防犯カメラが証明しています。ですが・・・この時間、犯人とされている水谷さんは、《演劇部》の部室があるD棟で、我々《探偵サークル》と会っているのです。ーーー田中!」
「はい」
足立に呼ばれた田中は、ポケットから1枚の紙を取り出した。これは、文立学園大学のホームページから印刷した大学内の見取り図だ。
文立学園は、無駄に土地が余っている田舎の大学だ。学部も多くて、教室や学部棟の移動に自転車を使う学生も居るくらい広い。
足立たちが今いる本校舎は、学園が創設されてはじめにできた建物であり、山を背にして建つ学園の中で、1番山側にある。
対して《演劇部》の部室があるD棟は、山から最も離れた場所に立っていた。
つまり、本校舎とD棟は、学園内でも最も遠くに位置しているのだ。
足立は、田中が広げた学園内の見取り図を指し示しながら説明する。
「見ての通り、本校舎とD棟は、それぞれ離れた位置に建っています。この2つの建物を移動するには、少なくとも5分は必要でしょう」
この“5分” という数字は、実際に田中が走って測ったので間違いがない。
「つまり、2時ちょうどに本校舎で銅像を壊した水谷さんが、同時刻にD棟で私たち《探偵サークル》と会う事は不可能なのです!」
意気揚々と水谷のアリバイを主張した足立。
だが、そんな足立に言葉を返す者がいた。学生課の北郷だーーー。
「ーーー言葉を返すようで悪いが、足立。お前の話には穴があるぞ」
「ーーー!」
「水谷が2時ちょうどに犯行を行ったのは間違いない。防犯カメラの時刻が証明している。だがな、お前たち《探偵サークル》が2時に水谷と会った・・・というのは、お前たちの主観でしかない」
「私たちが水谷さんを庇うために嘘をついてると?」
「その可能性もあるし、そうでなくとも、2時に出会ったというのが お前の勘違いである可能性がある。例えば、D棟の時計が5分ズレてあったとしたならば・・・水谷の犯行は充分に可能だろう」
「D棟の時計は正確だった。確かめたから分かる」
「それは事件後に確かめたんだろ? 事件を撹乱するために、水谷が犯行後にズレた時計を直したのかもしれないぞ」
「・・・っ」
北郷の指摘はもっともだ。
実際は、水谷 イズミに時計の時刻をズラす意味など無いはずなのだが・・・。
「北郷さん。結果的に見れば北郷さんの指摘はもっともですけど、事件当日の犯人の行動を考えれば、それは おかしな事ですよ」
「ーーーむ! なんだと田中」
足立に助け舟をだしたのは、もちろん田中だ。
「事件当日に僕たちが D棟で水谷さんと会ったのは偶然なんです。僕たちが《演劇部》からの別の依頼でD棟を訪れていたから合っただけなんですよ」
「む・・・」
「しかも当日、《演劇部》は事件の調査で、部長の草野さん が休みにしていたんです。仮に水谷さんが事件発生時のアリバイを作る気でいたのなら、誰もいないはずのD棟になんか来ますか?」
「むぅ・・・確かに・・・」
「おそらく、その時間に水谷さんが学内で人と会うのは、想定外の出来事だったんですよ」
「想定外の出来事? 誰にとってのだ?」
「ーーー真犯人に決まってんだろーが」
「!」
田中の言葉を引き継いだ足立は、さらに続ける。
「水谷さんを貶めようと目論んだ真犯人がいるんだよ・・・それも、この中にな」
「「「「「「ーーー!!?」」」」」」
足立の一言に、田中を除く本校舎前に集まった7人が息を呑む。
「・・・っ。それは いったい誰なんだ!?」
「・・・」
堪らず 北郷が尋ねると、足立は「ーーーふぅ」と溜め息を ひとつ吐いて、ゆっくりと真犯人に向かって指を突きつける。
そう、彼女の名前を呼んでーーーだ。
「それはーーー、水谷 イズミ。アンタだ」




