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塩対応とは、こういう事・・・

「まずは聞き込みでもします? 今のところ、学長像を壊した犯人を水谷イズミと証言しているのは、軽音サークルの人たちだけですし・・・」

「・・・いや」


 田中の提案を首を振って否定する足立。


「まず行ってみたい場所がある」

「行ってみたい場所?」


 そう言って、足立が向かったのは・・・、


「D棟ですか」


 入学式や卒業式などの学校行事を行う劇場があるD棟だ。足立は、この建物の中にある演劇部部室に用がある。

 足立と田中はD棟の裏手に周り、裏口から建物の中に失礼する。


「お! ラッキー開いてるぜ」


 どうやら、今日は演劇部が活動中らしく、わざわざ学生課から鍵を借りる手間が省けた。

 そもそも、今現在 学生課の北郷が、足立を鬼の形相で追っているため、のこのこ鍵を借りに行ったところで、おロープ頂戴の後、指導室でコッテリお説教コースまっしぐらだ。


「いいンスか、勝手にはいって?」

「ここの部長の草野とは知り合いだし、別にいいだろ。勝手知ったる他人の部室だよ」

「怒られても、俺フォローしませんからね」


 ため息混じりに、そう言った田中と躊躇いなくD棟奥に進んでいく足立。

 細い階段を登り切り、舞台裏手に出た。


「あれ? 誰もいねーな」


 舞台には、少しの照明が照らされていただけで、部員は居なかった。


「奥の部室じゃないっすかね?」

「あー、なるへそ」


 舞台の裏手にある部室に向かうふたり。

 相変わらずの、細い通路を歩き、演劇部部室に到着。年代を感じされるような軋みを上げて、部室の扉を開いた足立。

 と そこにはーーー、


「な、なんだアンタら!? 勝手に入ってきて!」

「え? 誰!?」


 田中の言葉通り、演劇部員がふたり居た。パーティションで区切られた応接室のような一角で、難しい顔をしながらソファーに腰掛けていた。


「えーと、私ら草野さんの知り合いなんスけど・・・」

「は? 部長の?」

「ええ。部長の草野さん」

「ぶ、部長なら今日休みだ! 体調不良で」

「ええー! 大丈夫スか? つか、なんで?」


 首を傾げる足立に、田中は耳打ちする。


「多分、いろいろと問題かさなって寝込んでんじゃないっスか? 演劇部での盗難事件に続いて、部員の水谷さんが銅像壊しの犯人に挙げられたんですから・・・」

「ぁ! なるほど・・・」


 正直、演劇部部長 草野が哀れに思えてくる。

 二度も続けて、学内で起こった事件に巻き込まれたのだから。寝込むのもわかる。

 だが、足立に草野を心配している暇などない。

 彼女は今、自分にかけられた疑いを晴らすことで精一杯なのだから。


「ちょっくらごめんよー」


 演劇部部室にお邪魔する足立。そのまま壁に架けられた時計を手に取る。

 一般的なかけ時計だ。今も正確な時刻を刻んでいる。


「ちょっとアンタら、一体なんなんだ? 部長に用があるのか?」


 演劇部員のひとりが田中に食ってかかる。


「あ、いや・・・そういう訳じゃ」

「どうでもいいから出てってくれ! 今、大事な話をしてたんだ!」

「大事な話し? 部活のこととかですか?」


 田中の言葉に、息を詰まらせる演劇部員。

 よく見たら、田中に詰め寄った部員も奥にいるもうひとりの部員も疲れ切った顔をしている。


「ぁ、あぁ・・・そうだよ。アンタらには関係ないけど、うちの部 今大変なんだ。部員が問題起こしてな・・・」


 どうやら、この2人の部員は演劇部の副部長らしく、演劇部が巻き込まれた事件の対応を、今まさに話し合っているところだった。

 部活内での盗難事件と、別件での部員の不祥事。

 彼らも、部長の草野同様、頭を悩ませていたのだ。


 と 次の瞬間ーーー、バタリ と足立が倒れた。


「はぁ? 先輩、どうしたんスか!?」


 驚く田中は、足立を抱き抱える。

 どうやら、貧血を起こしたようだ。


「先輩、アンタ・・・潜ったな?」

「ちょっと気になることがあってな・・・」


 この症状は、足立一華が“能力”を使った時に起こるものだ。

 《42時間以内なら、意識を過去に移せる》。その能力の副作用。


「いきなり潜るのはやめてくださいよ」

「すまんすまんす」

「で、なんか分かったんですか?」

「んー、ちっと気になることを調べただけだしな・・・微妙」

「なぁ。その人、大丈夫か?」


 突然の出来事だったので、起こっていた演劇部員も心配してくれた。


「あー、大丈夫です。ただの貧血なんで」

「なぁ、おい・・・お前らってもしかして、《探偵サークル》か?」

「え?」

「薄汚いスェットの上下の女に、腰巾着の男のふたり組・・・やっぱ《探偵サークル》だよな!」

「あー・・・いや、その・・・」


 口ごもる田中。

 このパターンは、非常にマズイことだと彼は知っている。

 何としてでも、()()()()()()ならない。

 だが、足立は田中の心中など、お構いなしにーーー。


「いかにも! 私は《探偵サークル》部長にして紅一点の足立一華! そして、こっちの男は私の腰巾着にして、助手の田中ーーー」

「やっぱり!!」


 足立の言葉が終わる前に、演劇部員のひとりが叫ぶように言葉を発した。


「こいつら、大学の問題児《探偵サークル》のふたりだ!」

「《探偵サークル》って、あの事件捜査とか言って、いろんな部活動を活動停止に追い込んだりしてる極悪集団だよね!?」

「あぁ! やべー連中だ! ちょ、追い返すぞ! こんな奴ら!」

「が、学生課にも連絡した方がいいよね!!」

「ぃーーー、ちょっと待って」


 学生課に連絡しようとする演劇部員を田中が制止する。だがーーー、


「いっ! ちょっと触るな!」

「《探偵サークル》に触れられると、悪霊がついて事件に巻き込まれるって噂だよ!」

「やべーって、塩! 塩まいとけ!」


 演劇部員の2人は、どこから出したのか、お清めの塩を撒き散らした。


「うわっ、ぺぺっ!」

「どっから出した!? その塩!?」


 追われるように、貧血の足立をおぶって演劇部部室を後にした田中。

 演劇部員のお清めの塩は、田中がD棟を出るまで続いた。


「くそー! だから《探偵サークル》だってバレたくなかったんだ!」


 嘆く田中。


「まじで、着実に学校中から嫌われてる気がする・・・」

「安心しろ田中」


 そう言った田中の背中でおぶられている足立が優しく声をかけてくれた。


「少なくとも、私はお前のこと好きだぜ」

「ーーーっ!? せ、先輩!?」

「私より嫌われてるいる奴を見ると、心が豊かになからな・・・」

「テメェも一緒に嫌われてんだよ!!」


 むしろ、足立一華の方が嫌われている、と言っても過言ではない。

 田中などおまけに過ぎない。

 ・・・はずだ。多分。


「しっかし、塩まかれるとは・・・本当に悪霊あつかいというか、嫌われているというか・・・」

「これが本当の塩対応だな」

「言ってる場合か!!」


 田中は背中の足立に、きつめに突っ込んだ。

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