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これが私の最善手

作者: 赤崎幸

これが私の最善手。


祝賀パレードが終わろうとしている。

彼を筆頭に私たちは結果的に英雄と崇め立てられている。

でも、彼にとってこの戦いではあまりにも大切なものを失ってしまった。

それは彼にとってかけがえのない存在。

安易な言い方だと恋仲だと言ってしまってもいいかもしれない。


私にとっても彼女の存在は大きかった。時に仲間としてあるいはライバルとして。

戦中にありながらそんなやりとりは不謹慎だという人もいるかもしれない。でもそんな中だからこそ、彼らにとっては必要な時間だったと今になって思う。

彼女が彼の話をしている時は、少し、嫉妬していたかもしれない。

彼女の無垢な笑顔が苦しかった。

ふいの休息に何気なく談笑する時にも彼の隣が定位置になっていることにも。

分け隔てなく仲間と接しているように見えても、彼は明らかに彼女特別扱いしていたことにも。

彼女から相談されるたびに私は笑顔を取り繕っていたかもしれないけれど、それは少し、バレていたかも。


でもそんな彼女はもういない。

戦いの最中、彼女は命を落とした。

それは呆気なかった。

勇気ある行動に出たのではなく、私たちが今まで敵にしてきたことと同じようにあっさりと死んでいった。


彼はしばらくの間落胆して、それから鬼神のごとく戦果を上げていった。

まるでこの世の憎しみの全てが相手にあるように。

それは私怨と言ってもいいかもしれない。

戦いなんてどちらが悪いわけでも、良いはずでもないのに。

自分のことながら性格が悪いとも思いつつ、私にチャンスが訪れたとも思った。

でもそれは大きな間違いだった。

彼の瞳には私は映っていなかったから。

あぁ少し、悔しいな。

きっと思い出になったあの人にはどうやっても敵わないんだ。

だからこれが私にとっての最善手。

これだけが、彼が私を見てくれる唯一の手段。

彼の中で一番になれないなら。彼に忘れられないようになろう。


パレードが終わって私は彼にこれまでの思い出話をしようと持ちかけた。

彼は笑顔で了承した。もちろん作り笑顔で。

他の仲間も呼ぼうかと彼は提案したが、私は古参だけで話せる話もあるだろうからと断った。


私は着々と準備を進める。

私が持っているドレスの中で一番白くて綺麗なものを選んで。いつ以来していないのか分からない化粧をして、髪を綺麗に結って精一杯着飾った。そして彼を待った。


しばらくして彼が部屋を訪れた。

彼の手にはお酒が握られていた。

それは戦いの途中で私たち一行が無事に帰還できた時に飲もうと誓いを立てていたものだった。

彼が気さくに手を上げて声をかけてくれているのに、相変わらず彼の瞳には何も映っていなかった。


あぁやっぱりそうだよね。


私は彼の目をまっすぐに見つめながら隠していた短刀を使って自分の首に突き立てる。首を切り落とす勢いで。

赤い飛沫が辺りを染める。

上手くいった。赤い血は止まらない。

彼は驚いたように私に駆け寄ってくる。


彼は大声を出して助けを呼んだ。

なぜこんなことをしたのか。何か辛いことがあったのか。彼は聞いてくる。

それを聞いてくるなんてなんて残酷なことなんだろうか。


彼の言葉がだんだんと遠くなってくる。

最期まで私が聞きたかったことは彼は言ってくれない。

まぁ当然か。

不意に彼の目を見た。

彼の瞳には間違いなく、私が映っていた。


これで彼は私のことを忘れられなくなった。


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