始り
少年はオイルサーディンの缶詰を握りしめショッピングモールの片隅に佇んでいた。
しなびた野菜が腐敗臭を放ち、鼻をつく異臭は嗚咽せざるを得ない状況だ。
にもかかわらず少年は缶詰のタブに手をかけ一口で食べる。
味わうようなものではなく、摂取するために食しているにすぎなかった。
「お父さんはどこにいったの」
そうひとり呟くと、事務室につながる通路から音がした。
一抹の不安が少年の心に過る。
うめき声と共にゾンビが徘徊するスーパーを俊敏に駆け抜け、父親を探し続ける。
ウォーカー(歩く死人)は音に反応する習性をもち群がる。
缶詰を商品棚に投げつけ音をたてることでゾンビの挙動を操作する。
空いたスペースを縦横無尽に駆け回り自分にとって必要な備品を揃えていく。
アウトドアコーナーにあった花火を設置して騒ぎを起こす。
花火に群がるゾンビをよそめに父親をさがしはじめる。
事務室にはいなかった。調理場にも。
しばらくするとフードコーナーに見覚えのある顔をしたウォーカーがいた。
「とうさん!」
だきつく少年に嚙みつこうとする。
涙をながしながら—―。
「いやだああああああああ」
「父さん!父さぁん!」
唸りながら少年に襲い掛かるウォーカーは膝がおれてうまく歩けない。
ポケットにいれていたサバイバルナイフで抱きしめながら頭部を刺す。
血に塗れた手をみながら少年は父親をだき下ろすと決意をきめて
広場へとかけだす、母さんが待ってる。強くならなきゃ。