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《2》魔女と天魔と不離の約束

 

 静寂が訪れた。

 不思議なくらいに、何も聞こえない。

 不気味なくらいの、静けさが訪れた。


「…………」


 秀兎は困惑を隠せない顔で、神の亡骸を見る。

 恐らく、あの中に、光の姫君はいるのだろう。

 感じるのだ。

 光の力を。

 光の呪を。


 白宮ヒナが。


 ヒナ・ラヴデルト・フリギアが。


 ヒナ・ラヴデルト・ライトキスが。


 そこにいると、秀兎は確信する。

 秀兎はゆっくりと立ち上がる。


「秀兎!」


 そこに聞き慣れた声が届く。上からだ。秀兎は天井を見上げる。そこではぱっくりと天井――いや次元が裂けており、そこから黒い髪をポニーで結い上げている幼馴染が急降下してきていた。


「ようシャリー」

「……っと、シャリー・クシャーただいま推参!」


 とふざけた様に手を広げて着地するシャリー。

 しかし直ぐに周囲を見回し、真剣な表情で秀兎を見る。彼女は、神様の亡骸を指差し、


「ね、これって……」  


 それに、秀兎は頷く。


「ああ、これが神様だってよ」

「すごいね秀兎!一人で倒しちゃうなんて!」


 嬉しそうにシャリーは笑うが、秀兎は苦笑。


「いやぁ……実は違うんだなこれが」

「え、そうなの?」


 そうなのだ。神様を殺したのは彼ではない。


「ま、それを詳しく説明してる時間はねぇやな」


 そう言って、秀兎は紅い球体を見る。

 徐々に紅く光だしている、神の亡骸を見る。


「シャリー、エルデリカ、紅葉、萌黄さんたちは?」

「分からない。まだ戦って――――なかったみたい」


 シャリーは苦笑しながら秀兎の後ろを指差す。秀兎もつられて、後ろを見る。

 そして思わず苦笑する。


「……よぉ、お疲れさん」


 それに、彼女たちも苦笑する。


「「「ただいま戻りました」」」


 声を合わせて、そう言う。しかし萌黄は、直ぐに真剣な表情で紅い球体を指差した。


「秀兎、それって、秀兎がやったわけじゃないよね?」


 それに、秀兎は目を見開いた。驚愕の表情。彼女は何かを知っているようである。


「あれ、萌黄さん知ってんの?」

「あぁ~、やっぱりかぁ……」


 萌黄はしくじったと言わんばかりに右手で顔を隠す。その仕草は妙に男らしい。

 その遣り取りに、他の三人は首を傾げる。

 

「どういう事?姉さん」


 紅葉が尋ねるが、萌黄はうんうん唸り、


「いや、まぁ、う~ん説明しにくいんだよねぇ」

「とにかく」


 秀兎は強引に話を始めようとする。


「これでまぁ、殆ど問題は片付いた。んでもって、最後の最後の問題が……」


 そして指差す。

 そこでは、紅い球が光輝いていた。




 ◇◆◇




「単刀直入に言う。あの中にヒナがいる」


 それに、四人が頷く。

 

「助けに行くんだね!」

「ご武運を!」

「頑張って!」

「…………」


 即答だった。萌黄以外。彼女は何かを思い悩んでいるようである。


「待て待て、早まるな。一応噛み砕きで説明するから」


 四者四様の応答に、秀兎は手でそれを制する。


「いいか。今、この神の国、《月》は、俺たちのいた地上に向かって絶賛降下中だ」


「うん」

「知ってます」

「同じくー」

「…………」


「俺はそれを止めなくちゃいけない」


 そうしなくちゃ、世界が終わるのだ。紅い月に喰われて、全てが喰われて、闇に消える。


「そうだね」

「そうですね」

「そうだねー」

「…………」

 

「んでもって、この《月》を止める方法なんだけど……」


 そこで、今までずっと黙っていた萌黄が、確信した表情で、秀兎に問う。


「ヒナちゃんを、殺さなくちゃいけないんでしょ」


 それに、他の三人が目を見開き、声を切らす。


「――ぇ」

「――なっ」

「――嘘」


 秀兎は、頷く。


「そう。……らしい」


「らしいって、そうなんでしょ?」


「…………教祖が言うには、あ、教祖っていうのは……」


「知ってるよ」

「知ってます」

「知ってるー」

「分かってる」


「……その教祖が言うには、今の月の支配者、依り代である所のヒナを殺す事で、月の衝突を止める事が、世界を救う事が出来るらしいんだ」


「…………」

「…………」

「…………」

「……秀兎は」


 萌黄は言葉を選ぶように、慎重に、丁寧に、言う。


「秀兎はどうしたいの?」


 それに三人は頷く。結局、決めるのは王――彼自身なのだ。だから余計な口は挟まず、萌黄は単刀直入に、秀兎に問う。そして秀兎はその問いに、少しだけ黙る。考えるように、黙る。



「……………………………………何も言わずに、聞いてほしい」



「……うん」

「はい」

「りょーかい」

「わかった」


 秀兎はため息を吐く。そして一度、深く呼吸する。


「……正直、いつかこういう選択を迫る時が来るなぁ、っていうのは、なんとなく予想できてた」


「……うん」

「…………」

「…………」

「…………」


「大事な物が同じ天秤に乗せられて、どうしようどうしようって。そういう選択って、やっぱ人生に一回はあるんだよなぁ。で、俺にもその機会が回ってきたわけだ」


 秀兎はそこで、笑う。悪どい笑みを浮かべる。


「ぶっちゃけ、俺はもうこの選択でどうするかを決めてる」


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 四人は頷く。その答えを期待する。彼がどんな答えをだそうが、自分たちはそれに従う。そう心に決める。

 しかし。


「……待て」


 しかしそこで、無粋にも、か細い制止の声が入った。

 五人は素早くその声のした方向を見る。すると、


「……ルシア」


 そこには闇の魔女が立っていた。闇の巫女に肩を貸してもらいながら、だが。


「ルシア、大丈夫か?」

「ははっ、心配ない」魔女は弱弱しく笑う。「ちょっこと自我を封印されただけだ。まだ感覚がおぼろげだが、何とかなっている。それより……」


 ルシアは、秀兎を糾弾するように指差した。真剣な表情で、詰め寄る様に。


「私はお前と力を共有していたから、お前と意識を共有していたも同然だった。だからその時の経験で、今お前の考えている事がなんとなくわかる」

「はぁ、そんなら話は早いよな」


 秀兎は歩き出す。もう、止まらない。しかし魔女は、それでも魔女は、彼の背中に、必死で訴える。


「止めろ!お前だってどうなるか分からないんだぞ!それは私がやる!」

「…………」

「秀兎!」


 しかし秀兎は止まらない。だって、もう決めたのだから。絶対に止まらないと、決めたのだから。


「秀兎!」


 しかしそれでもルシアは呼ぶのだ。彼を。ルシアは感覚の戻り始めた足で踏みだす。一歩二歩三歩。近づき、しかし最後の方でよろめく。そしてそのまま、秀兎に抱きつく。


「秀兎!止めろ……。止めて、くれっ……」

「……ルシア」


 彼女は、泣いていた。秀兎の背中で、涙を流していた。


「もう、もうお前を、失いたくないんだっ……。お前に、不幸になってほしく、ないんだっ……」

「…………」


 秀兎は胴に回されているルシアの腕を、優しく解く。解き、振り向く。


「ルシア……」

「お前は、今まで、ずっと、不幸を背負ってきた」彼女の瞳からは、涙が流れている。「ずっと、ずっとそうだ。異端として、禁忌としてこの世に生を受けて、それから、神に目を付けられて、何度も心の傷を負って、この世界でも、怨嗟と、憎悪をぶつける対象として持ち上げられて、何度も殺されそうになって……」

「…………」

「お前は、不幸を受け入れる事に、何の抵抗もっ、感じなくなってしまって…いるんだ。大きさも、度合いも関係なく。だが、今回は、違う、だろう?お前が、背負わなくても良いだろう?」

「……ルシア」

「私が背負うからっ、私がっ!」

「ルシア。これはお前の背負うもんじゃないだろう?アイツが、自分で決めようとしているだけだ」

「……っ!……そ、そうだ、では私がアイツと話を」

「ルシア」


 秀兎は、見詰める。

 優しく、丁寧に、慎重に。


「アイツは、一度決めた事をそう簡単に、話し合いごときで曲げたりはしない奴だ。知っているだろう?」

「……だから、私が背負うと……!」



「俺は、お前を失いたくない」



 秀兎は、ルシアの、その鮮血の瞳を見詰める。涙に濡れた瞳を、見詰める。


「俺は死ぬほど欲張りだから、何処まで行っても欲張りで、底なしの強欲だから、だから、お前を失いたくない」

「私だって、お前を……!」

「俺は消えないよ」


 秀兎は、彼女の瞳を見詰めて、言う。



「俺は消えない。約束したろ?絶対にお前を嫌わない。離れない。見捨てないから」



「…、………」


 もうぐずぐずの顔を見て、秀兎は笑う。目一杯笑う。爽やかに、朗らかに。


「……、……で、でも」


 秀兎は真剣な表情で、ルシアを見る。


「でもじゃない。俺が誰か知ってるだろ?」

「……黒宮秀兎」

「そう」

「職業、魔王」

「そう」

「種族、悪魔」

「そうそう」

「……十歳になるまでオネショが治らなかった男」

「そぅ――――ちがーう!ちげぇちげぇ!十歳じゃねぇ!五歳の頃には治ってたよ!」

「…………」


 え、何この空気……。お、遅いかな、五歳って……。


「……と、とにかく!」


 秀兎は強引に話を戻す。


「俺は底なしの強欲野郎で、諦めが悪くて、悪運が強くて、「オネショの治りが遅い」遅い!?やっぱり!?――ってそうじゃなくて!……あぁもうとにかく!俺は、行く!俺が行く!オッケー?」

「……だがっ」

「だがじゃねぇぇぇえええ…………てはぁ、叫んだら疲れた……」


 秀兎は瞳を緩める。長い間真剣な顔をし過ぎて、ぴくぴくしている顔面筋を休める。

 そうすると、秀兎の顔は一気に脱力する。眠そうな表情になる。


「俺は、俺の所為で誰かが傷つくとか、誰かが死ぬとか、なんだよ。やられたら絶対泣いちゃうし、泣いちゃう男とか、嫌いになっちゃうだろ?」


 眠そうな顔で、そんな事を言う。ていうかホントこの表情、しっくりくるなぁ。


「……お前は、なんでいつもそう……!」

「俺は、全てを統べる王なんだろう?」

「っ」

「お前は、俺の事を支えてくれるんだろう?」

「……だが!」

「お願いだルシア。帰ってくる。信じてくれ。帰ってきたらなんでも言う事聞くから。お願いだ」


 そういって、秀兎はルシアに抱きつく。優しく、丁寧に、安心させるように。


「…………」

「…………」

「…………」

「……ふ、ぅぅ」


 そこでルシアは、もう諦める。


「……やはりお前と話していると、調子が狂うな……」


 この男が、言って止まる器でない事を、悟る。


「……何故かお前に主導権を譲ってしまう」


 だからルシアは笑う。嬉しそうに笑う。安心しているように、笑う。秀兎の背中に手を回す。


「……ごめん。それも、俺の力が、そうさせるから――――」


 そういう風に笑う事しか、出来ない自分が歯痒い。

 彼を安心させることしかできない自分が、悔しい。

 だがここで、その気持ちは、表に出さない。

 もう自分には、彼を安心させて、彼を見送り、そして彼の帰りを待つしかできないのなら。

 せめていつもの調子で、彼を送り出そうと、魔女は決意する。

 だから魔女は、極めて平静を気取り、秀兎を安心させようと、耳元で囁く。

 彼の言葉に、自責の念に被せる様に、主導権を譲ってしまう事なんか気にしてないと、伝える様に。


「……馬鹿が、こういう時ぐらい愛していると囁いてみろ……」


 しかしその声が震えてしまって、我慢しているのが、彼に伝わってしまう。

 だがしかし、それに秀兎は笑った。

 なんとか、なんとか説得する事が出来た様だと、笑った。

 好きな人に我慢させている自分が情けなくて、笑った。

 秀兎はルシアを解放する。



「恥ずかしいから、『また今度』な」



 そう言って、秀兎は歩き出す。紅い球、神様に、近づく。

 そしてそれに、ゆっくりと触れて、




 そして、彼はその中に一瞬で引きずりこまれて、消えた。

レイアウト変えました。こっちの方が読みやすいと思いますが、どうでしょうね?

で、はい次にやっと、やぁぁぁっと、あの人が登場です。

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