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《13》欲張り悪魔と偽勇者

今回は4000字くらいです。

 

「よぅ親友」


 ミランは朗らかに笑いながら手を挙げた。その仕草が懐かしくて、笑えてしまう。

 だから俺も軽く手を挙げた。


「おす親友。調子どうよ?」


 それに、ミランは疲れた様な顔で笑う。


「最悪。もう死にたい位に」

「へぇ、死んじゃえば?」

「酷いなぁ。俺、頑張ったんだぜ?世界をさぁ、平和にしようとねー、頑張ったわけよ」

「知ってる知ってる。世界中に喧嘩吹っかけて、中央大陸制覇だぜッ!って感じで猛進していたよな」

「中央大陸制覇したんだぜっ!」


 ミランはビシィ!と俺を指差す。顔が美形なだけに、無駄に恰好良かった。

 がしかし突然の振りに対応しきれない俺。


「…………いやごめん。いきなりの振りに対応しきれなかったよ」

「中央大陸制覇したんだぜ!」

「リトライ!?何故意味の無い事に敢えて再びのチャレンジ!?」


 ミランは天井に向かって拳を突き上げる。これまた無駄に様になっていた。


「中央大陸、制覇、したんだ、っぜ――――!」

「意味不明で理解不能で唐突で暑苦し過ぎる!」


 天才キャラなのに!才色兼備の天才キャラだったのにッ!!もはや原形を留めて無い感じ!これも神の呪いの所為なのか……ッ!?


「安心しろ、俺は昔のまま変わらずに生きてきた。そう!今の俺はあの世界に平和を夢見る少年だった頃と一緒だ!」

「……いや、あん時のお前、限りなくダークサイドな野郎だった気がする」


 闇討ちとか考えていた気がする。その為に狩り用のナイフ磨いてた気がする。


「てかお前さりげなく思考を読むなよ!」

「秀兎、……月並みだけど普通に喋ってたぞ?」

「嘘?マジ?」


 俺は今そんな馬鹿な事していたのか。


「むむ、今お前、俺を馬鹿にしただろ?」

「……当てずっぽうかよ!!」


 なんだろうこれ。何してるんだろう俺。


「まぁ過去の事は気にするなよ。だいじょーぶ、神の呪いとかで性格が変わる事は無いからさ」

「本当か?本当なのか?俺はお前の事一応信用してるけど、けどやっぱ、疑っちゃうぜ?」

「なんだそれ、どっちかにしろよ。相変わらずお前の言動は理解し難いな」

「お前にだけは言われたくねぇ!お前の言動の方がよっぽど理解不能だよ!」

「はっ!高尚な俺の言動はやはり常人には理解できない域に達していたのか……」

「何今さらみたいな顔してんだよ!昔からだよ!」


 昔から訳のわからない言動を標準装備していた。今は幾らかマシになっていたけれど。


「それに高尚なんてもんでもねぇぞ、お前の言動は低俗かそれ以下だ!」

「なんというテンプレートなツッコミか。全く、俺はお前のそんなん風に鍛えた覚えは無いぞ!」

「叱られた!?無意味な部分ツッコミで叱られた!?」


 ていうかこの会話自体が無意味だった。雑談の一段階下を行くくらいには、無意味だと俺は思う。そもそも「昔から」って、回想ですら触れて無いよなコイツの過去の人格。さらっと大胆告発してしまった。

 ――ともあれ。


「はぁ、正直こんな無駄話してる場合じゃないんだよ、ミラン」


 俺は、一刻も神を斃したいのだ。雑談に興じているほど暇ではない。


「まぁまぁそう急ぐなよ。大丈夫大丈夫」

「何が大丈夫なのか全然わかんねぇよ。用事が無いなら行って良いよな?」

「待て。その前にさ、二、三質問したいんだけど、お前は……」


 ミランは慎重に、ゆっくりとした口調で、俺に尋ねてくる。


「お前は、神を殺したいんだよな?」

「……?……ああ、そのつもりだけど?」


 そうしなければ、世界が終る。またやり直し。俺はまた人間に戻り、ルシアは幽閉されて、ヒナとの間を引き裂かれてしまう。

 今がこの時が、神を、この幾度となく繰り返されてきた戦いを、決着へと導くチャンスなのだ。


「そしてお前は、光の姫と、闇の姫を、助けたい?」

「そうだけど」

「それは、何に引き換えても?」

「…………」

「例えばこの戦いで、お前の仲間を全て失ったとしても、それでも、神を殺したい?」

「……ッ!」

「殺したくないはず無いよな。世界の全てをリセットできる神様を、殺したくないよなあ?」

「…………」

「ちょっと意地悪な質問だったか。そうだな、んじゃちょっと変えてみようかな」

「…………」

「光の姫と闇の姫、お前はどちらを救いたい?」

「……、…………無駄な質問は」

「おっとここでどっちも救うなんて野暮な答えは返さないでくれよ。究極の二択なんだ、お前はどちらを選ぶ?」

「……ッ」


 思わず舌打ちする。


「答えられないだろう?どちらも大切で、どちらも好きだから。全くお前は弱点ばっかだな」

「…………」

「だんまりかよ、参ったな。んじゃもう少し優しく行こうか。お前は、あの滅びゆく世界と二人、どっちを捨てる?」

「……くだらねぇな」

「くだらない?くだらなくねぇよ。大事な話だぜ」

「お前、俺の性格知ってるだろう」

「全部欲しい?」

「…………」


 ………………。俺は、ゆっくりと、自分の右の掌を、見詰める。そして強く、強く握る。


「……そうだ。俺は、全部……欲しい」


 それは、罪の告白に近い行為だった。

 自分の本性を、告白する。


「欲張り」

「欲張り、だな」


 自分の手の届く位置で。

 全てを守りたいと、全てを救いたいと、全てが欲しいと、そう思う。

 何も失いたくないと、誰も傷ついてほしく無いと、誰も死んでほしく無いと、そう思う。

 人の温もりが欲しくて、愛とか、喜びとか、そういう物に飢えていて。

 それを与えてくれる全てを、自分に関わってくれる全てを、自分は護りたいと、そう思っている。

 その所為であの二人が狂ってしまって、神が異常おかしくなってしまった。

 だから最初は、人間の頃は、無関心だった。

 もう誰も狂ってほしく無くて、異常しくなってほしくないと、潜在的に思い込んでいるから無関心。

 消極的な振りをして、無気力に生きて、誰とも関わりたく無くて。

 

 けれどやっぱり目覚めて、色々な物に飢えて、欲して、結局周囲を巻き込んで、ここまで来た。

 

 ヒナやルシアや、シャリーやエルデリカや紅葉や萌黄や、魔王城の皆まで巻き込んで、俺はここまで来た。


 それが俺、黒宮秀兎の本質だ。

 手の届く位置で欲し、周囲を巻き込んで、底なしに飢えていて、その癖諦めが悪い。

 全く酷いにも程がある。

 そしてそれが剥がれてしまえば、俺は、ただの力の塊になってしまうのだ。


「……でも、欲張りなのは悪い事か?」


 本当はこんなことしてる場合じゃないのに。雑談に興じている場合じゃないのに。俺は、ミランに問う。尋ねてしまう。尋ねずには、いられなかったから。


「俺は悪く無いと思う。人間だって、動物だって、魔女だって女神だって神だって、皆欲張りだと、俺は思う。それは、決して悪い事じゃないと思う」


 それに、ミランは笑う。それも苦笑。

 彼は、首肯する。


「……そうだな。人間は、欲張りだ。動物だって、欲張りだ。、魔女もそう、女神も神もそう。皆、皆欲張って欲張って生きてる」

「だろう?」

「俺もそれが悪いとは思わない。でも上位と下位の欲張りは違うんだぜ?」

「……?」

「下位は、いっつも上位の欲張りに振り回されてばかりだ。だからたまには譲る事も必要だ」

「……それは俺が自己中心だって言いたいのか?それを言うなら神の方だろう」


 自分が危険だから俺を排除しようとして、そんでもって失敗したから世界を何度も創り直す。

 欲張りだ。神は、欲張りだ。


「違う。…………でも神は……、欲張りだ」


 ミランは、神を侮蔑するように、唾棄する。それは予想外の反応だった。


「……?」

「神の都合で、世界は何遍も創り直され、俺は呪いを背負い、お前は何度も振り回された。俺もお前も何度も涙を流した。何度も、何度も何度も。苦痛や、悲しみや、絶望で、何度も心を傷付けた」

「…………」

「確かに神は、傲慢で業突く張りだ」

「……お前」


 ……変だ。こいつなんで、こんなに自我を保っているんだ?

 こいつにかけられた呪いは、自我を抑え込んで従順な神の人形にする為の呪いだと、ルシアは言っていた。

 だが何故、こいつはこんなにも自我を保っているんだ?

 神の呪いがかけられているにも拘わらず、何故こんなに神を侮蔑できる事が出来る?

 呪いがかけられていれば、そんな事は起こらない。起る筈が無い。

 では何故それが起きている?

 何故?


「…………」

「不思議か?俺がどうしてここまで自我を保っていて、神を馬鹿できるのか」

「…………」

「傲慢で業突く張りの神の呪いの所為で自我を保てない筈の勇者が、どうしてここまで神を蔑ろにできるのか、判らないか?」

「……まさか」

「お?思い至った?多分正解だよ。――――ん?」


 そこでミランは、扉の方を振り返る。

 少し睨みつけるような表情で、扉の方を、そしてその先を、見詰める。

 そしてミランはまた、俺の方を見る。肩を竦め、やれやれとした表情で笑う。


「丁度良い感じで終わったみたいだ。本当はここで化物同士の怪獣大合戦をしてみたかったんだけど、まぁそれは本来の流れに沿っちゃうみたいだから、敢えて乱しておこうかね」

「…………」

「おいおいそう睨むなって親友。別に騙してたわけじゃない。言う必要が無いと思っただけだ」


 だがそんな言葉で、秀兎は睨む事を止めたりはしなかった。

 別に、ミラン・アルノアードを憎んでいる訳じゃない。睨んでいる訳じゃない。

 その先。

 彼の扉の、その向こう側にいるであろう神を、彼は睨む。

 

「行きたければ行けばいい。行って真相を暴いてこい。今回の物語が誰の脚本で動いていたのか、知ってみるがいい」


 ミランは突き放すような態度で、表情で、口調で、そう言った。

 俺は、呼ぶ。


「…………ビーチェ!」

「叫ばなくてもここにいるわよ」


 すぐ横で、彼女は佇んでいた。静かにひっそりと、佇んでいた。


「何?」

「行こう」

「あら、化物同士の血みどろ合戦は無し?」

「残念ながら無いみたい。ミラン、俺は行くから、邪魔すんなよ」

「はいはいおーけい。行ってこいよ欲張り悪魔」

「黙れ腐れ偽勇者。お前なんか嫌いだ」

「俺もお前嫌いだから」


 そう言って、二人は笑った。不敵に微笑んだ。

 秀兎は歩き出す。ビーチェはふわふわと浮きながらも彼に続く。

 勇者の横を通り過ぎ、扉に手をかける。

 と、


「あ、そうそう悪魔」


 ミランは言う。


「さっきも言ったけど、欲張りは程々にしておけよ」

「…………」


 それに秀兎は、笑う。


「聞こえね」


 そして悪魔は、神殿の深部へと、侵入した。




 ◇◆◇




「さて……」


 やるべき事を終え、ミランは一息。彼の横に、天使が舞い降りる。


「いっちゃったね」

「ああ」

「良いの?貴方としては、怪獣大決戦を繰り広げられる方が楽しかったんじゃない?」

「いいよ別に。だって俺、あいつに勝てる気しないもん」


 それに、エレアは笑う。


「またまたー、謙遜しちゃって。貴方だって悪魔と対等に渡り合えるくらいには力があるんだよ?」


 そうなのだ。彼もまた、悪魔と対等なくらいの力を持っている。

 でも、勝てるかと言えば、そうでもない。


「だーから、別にいいんだって。それに、本気でやり合うのなんていつでもできるから」 

 

 だって悪魔は飢えているから。

 底なしの欲望を抱えているから。

 だから、狂っていない自分と戦っても、勝てる気がしないのだ。



「…………ま、アイツが選択を間違えなければの話だけど……」



 そう言って、彼は見る。開け放たれた扉の向こうの、親友の後ろ姿を。

 これから待っているであろう「試練」とも言うべきあれに、彼はどんな答えを出すのだろうか。


「うし、んじゃ俺たちは一足先に『教祖』の所に行こうかね」


 ミランは右手で、次元を裂く。それにエレアが嬉しそうに笑って、


「うん」


 そして二人は次元の裂け目に消えた。

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