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《11》矛盾戦。

今回も長いです。すいません。

 

 ――凄惨に笑った萌黄は、すぐさま駆け出した。

 目の前にいる栗色の髪の女に対し、萌黄は距離を詰め、アッパー気味に拳を繰り出しす。

 女は後退――素早いバックステップで避ける。


「萌黄ぃ、気ぃ早く無い?」

「もう二度と私の前に出てくんなつったよなぁ!?」


 萌黄はもう、なりふり構わず相手に蹴りかかる。

 頭部狙いの右足ハイキック。女はそれを素早く膝を曲げて避けた。


「落ち着きなさいよ」

「無理だっつーの!」


 ハイキックにて空を切った右足を身体を一回転させて勢いを付け、さらにもう一蹴り放つ。高速の二連蹴撃。

 女はそれをバック宙返りで避けた。栗色の髪が綺麗な弧を描いく。その行動は萌黄の神経を更に逆なでする。


「一々行動が芝居臭すぎるわ!」


 萌黄は素早く間合いを詰めて掌底アッパーを繰り出す。


「ざんね~ん」


 しかし当たらず、女は首を後ろに曲げて掌底をかわしバックステップ。

 ――そこで萌黄は笑う。


「そっちこそざんね~ん」


 女のバックステップは――壁によって阻まれた。


「死にさらせやクソ女ァー!」


 萌黄は疾走、その勢いを殺さず拳に乗せ、躊躇う事無くそのまま右ストレートを女の顔に向かって繰り出した。


 ドゴンッ!という、爆発音にも似た音が炸裂する――!


 コロシアムの壁に、巨大な亀裂が入った。

 萌黄の拳は、完全に手首まで陥没している。

 ――けれど女は、それを避けていた。


 二人は近距離で睨みあう。


「うもぅ積極的なんだからぁ萌黄はぁ」

「おいコラ、猫撫で声上げてんじゃねぇゾクズ」

「きっびし~」


 女は跳躍。萌黄を飛び越しコロシアムの中心へ。

 萌黄は陥没していた拳を壁から引き抜く。彼女の拳に、傷は無かった。


「アンタの拳は何で出来てんのよ?」

「アタシが知るか!」


 萌黄はもう一度疾走、女との距離を詰め右足を軸に左足で回し蹴りを放った。ビュバっ!と高速で振るわれた剣の様に鋭い蹴りが女を襲う。――が、やはりそれも女は避ける。女は萌黄に再度話しかける。


「うもぅ、久しぶりの親友の再会で挨拶も無し?」

「これがアタシなりの挨拶だから。それと親友とか何言っちゃってんのふざけってっと殺すぞクソ女」

「辛辣過ぎる……」

「私が冷静なうちにさっさと失せろ」


 女は笑う。妖艶に笑う。

 

「何笑ってんのマゾ女はやくおッちね」

「なぁんでそんな毛嫌いするのよ」

「そりゃ毛嫌いもするわ」


 彼女は、萌黄の、――――最も関わりたくない人物だった。

 最も関わりたくないし、最も嫌いで最も殺したい、モンスターだ。

 理由は数え切れない程にある。

 中でも最大の理由は、この女を目の前にすると萌黄は尋常ではない程のストレス、怒りを感じるという事だ。これは、お互いの身体的な面での反応であり、血の反応でもあった。


「帰る!」萌黄は理性が残っている内に彼女から遠ざかろうとする。

「待って」彼女は彼女で、萌黄を引きとめる。

「やだ」萌黄が反発しても。

「それじゃぁ私が教祖に怒られちゃうじゃない」何かと理由を付けて彼女は萌黄と相対する。


 それが彼女だった。何時になっても、彼女の萌黄に対する行動は変わらない。

 ――ともあれ。

 

「……足止めか」

「そう」


 足止め。萌黄を、この世界に閉じ込めておく。

 足止めをして、彼女は何をするのか?

 足止めをして、彼女は何を得るのか?

 知る必要は、当然無い。


「帰る」

「駄目」


 女の制止に構わず、腕を振るう。次元を裂こうとする。

 ――が。


「っ!」


 バチッ!と巨大な電撃が萌黄の周りで迸った。萌黄は少しだけ痺れた右手を擦りながら女を睨む。


「アイギスの壁は絶対だって」女はやれやれと肩を竦める。「これ、前にも言わなかった?」


 その言動と挙動が一々芝居染みていて、萌黄の怒りのボルテージはさらに数値を上げる事となった。

 女は笑う。嬉しそうに笑う。


「貴方って本当にキレ症ね。小皺が増えるわよ」


 頭の血管が膨張するという錯覚を、萌黄は如実に感じていた。

 破裂しそうである。

 ……しかしそこで、一度深呼吸。


「もう一度言うけど、今すぐ私の前から失せろ。失せないって言うんだったら、消す」


 女は笑う。妖艶に唇を曲げ、微笑む。


「貴方が?消せるもんなら消してみなさいよ。武神リコルベットの巫女」

「はッ!心配すんな、お望み通り消してやる。後悔すんなよ護神グラウコの巫女」


 化物同士の戦いが、幕を開けようとしていた。




 ◇◆◇




 また、先手を打ったのは萌黄だった。

 いやこの場合、彼女は先手を打たざるを得ない状況だった。

 怒りがマックスをぶっ超えていたのもある。――が、しかし目の前の女と殺り合う場合、どうしてもこちらが先手を打たなければならない。それが女の戦闘スタイルだからだ。


「ウラァ!」


 萌黄は地面を蹴り疾走。一瞬にも近い間で女との距離を詰め、勢いを乗せた拳を女の肩に叩きつけようとする。女はそれを、避ける。

 

「よっと」


 長い髪を綺麗に回したその行動は後方転回――バク転だ。余計な、過剰なパフォーマンスと言えるそれは、萌黄を更に苛立たせた。――アアイウチョコマカシタ動キヲ見テイルト、本気デ潰ツブシタクナル――萌黄の本能がそう叫ぶ。


「その過剰なパフォーマンスがうぜぇっつーンだよッ!!」


 萌黄は先ほど砕いた床の破片を拾い、素早く投擲。彼女の周りで空気が弾けた。見事に無駄のないフォームから投げられた石つぶてはもはや弾丸と言っても過言ではないかもしれない速度で女に向かう。


「ハァ!」


 女はそれを、高速の石つぶてを、右手で『止めた』。

 いやよく見れば、つぶてと女の手の平の間に、薄らと青い波が立っている。

 萌黄は、それを知っていた。その存在を、『青い波』の正体を知っていた。勿論飛び道具が彼女にとって無力なのも。


「……チッ」 


 ――盾だ。それは彼女の『盾』だ。

 アイギス、である。


「飛び道具なんて無粋な真似しないで、ほら、カモンカモン」

「カモンじゃねぇぞ腐れアマぁ!」


 疾走。怒りをそのまま脚力へと変換したかの様に、その疾走は力強く、そして速い。

 そのまま彼女は女の首にラリアっトをヒットさせた。

 女は後ろへ倒れる。萌黄は勢いのまま駆け抜け、その場を離れた。素早く振り向き現状を確認する。

 女はゆっくりと、後ろへ倒れていく。


(嘘!?決まった!?)


 驚愕する萌黄。


(防げなかった?……いや防がなかった!?なんで?)


 ――しかし。


「うん、なかなか」


 女はそのまま後ろへ倒れるかと思った矢先、グルリと一回転し元の場所へと元通りに着地した。

 それに萌黄は安堵する。


「よかった、なんかの策かと思ってビビったわ」

「今のラリアットは結構強かった。でもまだ本気じゃないでしょう?」

「ったりめーだ!」


 萌黄は女に殴りかかる。女はそれを、手で止める。

 

「……ッ」

「ほらほら」


 萌黄はすぐに拳を戻し左で殴る。それも阻まれるが、今度は右で。また左。右。左。右。

 しかしやはり、その全ては女の手、――盾に、阻まれてしまう。

 女は唇を尖らせ、言う。


「アンタ、まだ我慢してるの?」

「!」

「理性で抑えつけるものじゃないんだけどねぇ」

「うるせぇ!」

「中途半端なのよ。拳も、威力も、全部中途半端。そんなんじゃあアタシの盾は壊れるどころかヒビ一つ入らないわ」

「んな事は判って――」

「判ってるなら我慢は止めにしない?我慢して皺が増えてもつまらないだけよ?」


 ちなみに、こうしている間にも萌黄の鋭いパンチやキックが炸裂しているのだが、女はそれを盾で防いでいる。


「貴方が本当にしたい事を我慢して、我慢して、我慢し続けて、そうして生まれたストレスなんて、発散する方法が無いじゃない」

「……………」


 そうなのだ。萌黄だって本当は純粋に心の底から戦闘を楽しみたいと思っている。

 それは、あの狂った戦神と契約を交わしたその日から湧きあがっていた欲望だ。

 彼女は、戦闘狂だった。

 それも、他に類を見ないほどの戦闘狂だった。

 欲望が湧けば、戦いたいと欲望が生まれれば、そう思った瞬間から彼女の身体は勝手に反応してしまう。

 殴る。

 蹴る。

 潰す。

 絞る。

 折る。

 裂く。

 割る。

 断つ。

 殺す。

 そんな欲望が、萌黄の中には渦巻いている。

 そして目の前にいる女が現れると感じるストレスは、『その欲望を我慢している自分』に対してのストレスだった。『欲望に従いたい自分』が、『我慢している自分』に対して感じている、怒り。

 ――しかし。


「まぁ一理っつうか、その通りっつうか、そりゃそうなんだけどさぁ、なんつうの、その戦闘衝動に従うと、まぁ理性を戻すのに結構時間がいるわけよ」

「わからなーい」

「そりゃお前はそっちが素だから何ともないかもしれないけどさ、私の素はマジでやばいっつーか、品性が無いっつーか、コミュニケーション性に劣るからさ、――だから私は我慢してんだよ!」


 萌黄は右掌で女の腹を思いっきり突っ張った。

 当然『盾』で防がれるものの、女自身は突っ張りの衝撃を吸収しきれなかった。萌黄は盾ごと女を吹っ飛ばしたのだ。女は30m程後退。


「そんなに我慢してちゃ私には勝てない。この世界からは抜け出せない。貴方の主がどうなってもいいのかな?」

「はっ!ウチの主は聖竜ごときにやられるほどやわじゃないんでね。アタシが行こうが行くまいが、あの子は絶対に神を殺……」


 しかしそこで、萌黄は女の表情に違和感を感じる。

 女が『必要なまでに唇を曲げてニヤニヤしている』事に、違和感を感じる。


「……お前、まだ何か隠してんな」

「別に。そっかやっぱりそっちはまだ気付いていないみたいね」

「…………」


 気付いていない?何に?神は、まだ何かを隠しているのか?


「一応言っておくけど、私たちって別に神が死のうが悪魔が死のうがどうでもいいんだよね」

「…………」

「それにこのまま行けば恐らく悪魔が死ぬと私は思うんだけどねぇ?」


 女は笑う。ニヤニヤと笑う。


「……秀兎が、死ぬ?」

「シュウト。『秀』でた『兎』で『秀兎』、ね。漢字なんて正直どうでもいーとは思っていたけれど、なんていうかまぁ、皮肉というか何というかねぇ?」

「何が言いたい?」

「『玉兎』の伝説ー」

「……月には兎が住むっていう、あれ?」

「そう。貧困に喘ぐ老人に化けた神が、動物の良心を試すって話。知っているでしょう?」


 確か、兎が老人に自分の身を焼いて差し出した話だ。そして神はそれにいたく感動し、兎を月に住まわせた。

 けれどそれが、何だというのだろう?


「似てるわねぇ、自己犠牲精神旺盛な所とか」

「…………」

「あっはっはっは、これだけじゃ判らない?そうだよねぇ。って事でヒント一。玉兎の伝説には続きがありますが、さて兎が月に住んだあと、神様どうなったでしょうーか?」

「……続きが、あるの?」

「月の魔力を吸収した兎にぶっ殺されたらしいよ」

「なっ!」


 そんな無茶苦茶な!

 女は、まるで祝詞を読み上げるような澄んだ声で、言う。


「神が言うにはね、『月の力纏いて兎は再臨、月の力神の如し、神は成す術無く、暗黒の地に堕つ。兎は荒れ狂い、世界を喰らいて呪いを振り撒く』。だってさ」

「そんな話、聞いた事が無いな」

「だろうねぇ、教祖も言ってた。恐らく改竄されているんだよ、神様の都合の良いように」

「…………」

「『不幸な魔王の物語』と、『寂しがりの魔女の物語』と、『罪滅ぼしの姫の物語』。この三つの物語と並列して考えてみるならば、恐らく玉兎伝説の《兎》は《悪魔》だね。そう考えると、結末も共通してくるよね?」

「世界の、終焉……」


 不幸な魔王の物語も、寂しがりの魔女の物語も、罪滅ぼしの姫の物語も、結果は終焉だ。

 終わり。世界の終り。

 そしてどれもこれも悪魔が終焉を齎している。実際は神が終わらせているのだが、改竄されている。

 

 今回、悪魔は神を殺す事になった。それは前例の無い、神と悪魔の全面戦争と言っても過言ではない程の、過去最大のシナリオ上のイレギュラーだ。今までのシナリオで行くなら、悪魔と姫が紅い月の所為で死に、神がまた世界を創り直すというイタチごっこの様な小競り合いがまた繰り返されるはずだった。

 しかし今回、悪魔は、魔女と邂逅し、姫と添い遂げ、神をも超えてしまえる本来の段階までに覚醒している。イレギュラーに次ぐイレギュラーで、悪魔は神を殺せるほどになっている。だから、今回の戦いでは、絶対に負けは許されない。

 負ければ、悪魔は完全に消滅するだろう。何故なら今彼の傍らに姫はいなからだ。なので紅い月による世界崩壊で姫が死ぬ事はない。結果神は姫を手に入れ、世界の再生は行われなくなる。

 そして彼女は言った。恐らく悪魔が死ぬ、と。

 秀兎が、神に負けてしまうのか?神はまだ何かを隠しているのか?そしたら、そしたらもう、もう本当に、誰も居なくなってしまうではないか。

 

「ぶっちゃけこの誰が死のうがもどうでもいいんだよね」

「……?」

「私たちの目的はさぁ、もっと別にあるのよねぇ。だから世界が死のうが悪魔が死のうが神が死のうが、はいはいどうでも良いですよ~って感じなの」

「…………」

「まぁ、私たちの目的こそ貴方にとってはどうでもいい話なんだろうけどね」

「……いや、お前たちの目的は、一体何なの?お前達が神とは別勢力である事は判った。じゃあお前達は一体何者なの?何が目的で私たちと相対し、神に媚を売っているの?」

「うーん、別に話しても良いけどねー。タダで話すのはなんか癪だなぁー」

「…………」

「貴方が私を、私の盾を破る事が出来たのなら、話してあげても良いかなぁー」

「…………」


 萌黄は俯く。

 これはあからさまな挑発だった。乗れば、恐らく彼女の術中に嵌まるであろう事は、火を見るよりも明らかだった。

 今萌黄には、二つの選択肢がある。

 一つは何も聞かずに、理性を保ちながら戦う事。

 もう一つは、本気で戦って盾を破り、目的を聞く事。

 しかし後者の場合、かなりの確率で相手を殺してしまう可能性がある。それでは本末転倒だ。

 

 考える。思案する。

 そして――萌黄はゆっくりと微笑んだ。二つの選択肢、そのどちらが大切か、あまりにも明らか過ぎて。


 

「いいよ、本気で行こう。お前の盾を破ってやろうじゃない」



「やった。その気になった」


 女は嬉しそうにはしゃぐ。


「あ、でも盾を破くだけじゃつまらないから追加ルールね」

「何よ?」

「私の衣類及び身体に傷を付けられたのなら、話してあげても良いよ」

「さりげなく難易度を上げるんじゃねえよ」

「言っておくけど生半可な攻撃じゃ私の盾は破れないから。それに全方位全自動防御だから不意打ちは意味無し。だからもう全身全霊の攻撃で来てよ。私避けないから」


 それは、女の余裕であったし、願望だった。

 力を手に入れた瞬間から、自分を傷付ける者が居なくなった女の、願望だった。

 痛みを忘れた女は、痛みを欲していた。

 痛みが無いとはつまり、刺激が無いという事。身体的刺激が無い女の日々は精神的苦痛と何をしても無意味と感じてしまう脱力感に満ちた日々だった。痛みが無いから、刺激が無いから、女の心は腐ってしまった。だから女は、痛みを、身体的刺激を欲していた。腐った心を、直したかった。

 自殺願望に近いその願望を叶えられるのは、恐らく全世界で萌黄だけだろうと、女は信じている。

 それが、女が萌黄を引きとめる理由。


「あっそ。んじゃ行かせてもらうわ、全身全霊の武術」

「いつでもこーい」


 萌黄は一度ピッと背筋を伸ばし、足を揃える。華麗なまでに地面と垂直になった萌黄は一度深呼吸。眼を閉じ深く息を吸い込み、吐き出す。肺の空気をある程度吐き出したら瞳を開ける。そして足を縦に開き、膝を曲げる。右手を手刀にして女に対して手の甲を向け、左手を拳にして脇腹に添える。

 素人から見てもそれは、何かしらの武術の構えである事がわかるだろう。

 そして萌黄は、――名乗る。


「魔王軍侍給仕使用人長兼料理長兼総合武術特別顧問兼側近長、柊萌黄、參る」


 彼女の周りで、空気がうねる。


「礼儀をわきまえる事は良い事ね。ただ言っておくけど、どれだけ真っ向勝負をしようが私の盾を破る事は――」




 しかしそこで、女は、言葉を失ってしまった。




 もう既に、目の前に萌黄が居ない事に。




 硝子が割れるような音に。



 

 身体を走り抜ける、――痛みに。




「――――え……?」


 そしてやっと絞りだせた言葉は、それだけだった。何が起こったのか、女には理解できない。グラリと視界が揺れる。


「まぁ、これにて決着って事で」


 女の後ろで、萌黄は言う。

 

「技に名前付けるってのも恥ずかしいけど、一応。てことで――――《瞬華閃撃絶拳》っと」


 そういって萌黄は左掌に右拳を当てた。

 

 瞬華閃撃絶拳――それは人体各所に拳と手刀と蹴りを当てる、ただそれだけの技だ。

 

 しかし萌黄の尋常ではない脚力は瞬間移動の様な動きを可能にする。そしてありとあらゆる武術に精通する萌黄は衝撃を上手く各所に伝え、頭部や頸部に至ってはその衝撃が上手く脳を刺激し、数秒前の物事を忘れさせてしまう。だから女は萌黄の動きを捉える事が出来ない、そして何をされたのか判らない。

 ――だがそれだけでは、『女神の盾』は破れない。


「矛盾の話があるでしょう?なんでも貫ける矛となんでも防ぐ盾、この二つで戦ったらどうなるのかって話」


 では何故貫けたのか。何故女神の盾は破れたのか。


「普通に考えるなら出来の悪い方が負けるよね。でもアンタのアイギスは完璧というに相応しい硬度と防御性を持っていた。ならなんでアンタのアイギスは負けたと思う?」


 それは簡単な話だ。


「アタシが完璧な矛で貫いたからよ」


 萌黄の拳には、真っ黒な籠手が付けてあった。

 それは、狂ったイクサガミの籠手。魔神の凶器。三種の神器の一つ。

 ――八重垣剣やえがきのつるぎ

 それが、ひび割れて、砕ける。


「最強同士の結果は引き分け。そして単純な力では、アンタより私の方が強かった」


 守られているから、最強というわけではない。

 強固過ぎる殻の代わりに、中身は柔らか過ぎる。

 女は今まで盾に護れらて受ける事の無かった刺激を一度に受けて、完全に意識を失っていた。

 

「……てま、もう聞こえて無いか」




 こうして化物同士の戦いはあっさりと、一瞬にして幕を閉じたのだった。

こうやって作品の雰囲気がころころ変わるのは、なんていうか、読者の皆さんに申し訳ないです……orz

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