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《7》開戦/分散

 

 紅い。

 見渡す限り紅い空の下。

 優しい緑が一面に広がる草原。


「…………」


 鬨の声が、聞こえる。

 いやそれは、鬨の声というほど美しいものではなかった。

 醜い。醜過ぎる、聞くに堪えない声。悲鳴、絶叫、怨嗟、その全て。そんな声がする。


「あれが……」


 魔物。

 世界じゅうの罪人の成れの果て。

 心が腐って、体も腐って、ドロドロになって、それらが集まって出来た、悲しい化物。

 

 そんな化物が、恐らく百万くらいの数で神殿の入り口を護っていた。

 

 さすがに物凄い光景だ。

 気味が悪い。


「さて陛下、どう致しますか?」


 魔王と魔女と四側近は最前線で佇んでいる。

 

「どうするって、まぁ、あいつらぶっ殺すしかないんじゃね?」

「近付きたくないよーあれ絶対臭いってー」とシャリー。

「陛下が臭いんですよ」

「俺じゃねえだろ」

「でも秀ちゃん。ここでこの臭さなら、近付いたらもっと凄いと思うよ」

「うーん、だよなー……」


 秀兎の見る方向には、黒い魔物がうようよと蠢いている。その距離ざっと四キロメートル。

 その距離ですら漂ってくる腐臭。これが近付けばどうなるか、想像しただけで鼻が痛い。

 本来、魔物を殺す最も効果的な方法は一つだ。

 光の力を使えばいい。

 全ての魔を祓う事の出来る光を使えば、魔物は一瞬にして消滅する。

 そもそも魔物とは、世界の罪人、心が腐った人間の魂と肉体をグジュグジュにして、仮の命を与えた不定形生命である。

 言うなれば、闇である。

 という事で。

 

「……ルシア、頼める?」

「………………うぅー」


 デレ期に入った彼女でさえ葛藤中であった。

 まぁデレたとはいえ元の性格が傲慢でプライドの高い彼女があのおぞましい物体に能力を使うかどうか、考えればすぐに出そうなものだが。


「……無理ッ!」


 満を持しての×マーク。腕を交差させて顔を魔物から背ける。見るのも嫌らしい。

 

「だよねぇ」


 では俺よりもすんげぇパワーを持っていそうな彼女は……。


「無理」


 萌黄は即答。


「大体あんなキモいのにパンチキック効くわけないし」

「……そうだよねぇ」


 聞くわけがない。飛び散るだけである。 


「てことはエルデリカも……」

「無理です」

「紅葉は」

「生憎遠距離武器は持ってないよ」


 秀兎は振り返り、シャリーを見る。満面の笑みだ。断るに違いない。でも一応ね。


「……じゃ、シャリー、頼んます」

「任された!」


 ……え。


「マジで?」

「いいよー」


 近付きたくないと言った張本人なのに。


「こんな時のためのトッテオキがあるのだよ」

「とっておき?」

「はいいきまーす」


 シャリーは天を指差す。するとその指先に、淡く赤い光が宿る。

 魔力の光。その光が五つに分かれて、飛び立つ。

 そしてその五つの光が増幅する。

 どんどん膨らんでいく。

 膨らみながら、踊る。秀兎たちの頭上で回るように踊って、光の軌跡を残していく。

 そして。


「…………」


 それは、魔法陣になった。

 赤い魔法陣だ。属性は恐らく炎。

 しかしそれは、秀兎も見た事がないような巨大で、複雑で、新しい魔法陣。

 シャリーは、言霊を吐き出す。



 《灼熱界を統べる者、紅蓮の炎を燈す者、契約に従い我が召還に応えよ》



 それは。


「魔神、召還……」


 魔神召還。

 次元を超えた世界に存在する、強大な力を持った化物を屈服させる事で使用が可能になる、召還魔法の最高峰。

 それを、彼女は使う。



 《太陽王バリアルート》



 太陽王バリアルート。

 秀兎は知っている。この世界の伝説にも、その名前は残っている。

 全てを燃やす尽くす絶対の炎をその身に宿す、究極の火炎龍。

 魔法陣が、一際輝きだす。



 ≪オォオォオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ≫



 まるで地鳴りのような、雄叫び。

 炎が溢れる。

 熱風が溢れる。

 そして、太陽王が光臨する。



 ≪オォォォアァアァアアアアアアアア―――!≫



 巨大魔法陣から出たのは、まず火柱だった。

 その火柱が消えると、そこには一匹の巨大な龍の首があった。

 

 それが、その龍こそが、太陽王、バリアルート。

 

 鋭利な角は灼熱色に熱せられ、真っ白な甲殻や顔面の形は骸骨を連想させる。

 それも当然、太陽王は元々死龍だからだ。

 死龍とは高位な龍が死してなおこの世に留まりたいと願い、結果永遠の命を手に入れた龍の事だ。

 代償として肉体が削げ落ち、以前よりも強固な骨だけで生きていく。

 バリアルートは、死龍になり、そして炎を喰らい、太陽王となった魔神だった。

 甲殻の間からは炎が漏れ出ている。炎の霊素が有り余っている証拠だ。

 バリアルートは首を曲げ、おぞましい魔物の群れを見つめている。

 そしてシャリーは太陽王に命令する。


「あの醜い生き物を一匹残らず焼き払え!!」


 太陽王は口を閉じ、力を溜め込む。溜め込む。

 周囲から、空気中に混じった炎の霊素を、溜め込む、溜め込む。

 全てを、世界の全てを灰燼に帰す最悪の炎を燈す。

 口から、炎が溢れる。

 

 ――そして。



 ≪――――――――――――――アアァッ!≫



 放たれた。史上最悪の暴君の炎が、全てを焼き尽くす。

 



 ◇◆◇

 



「………………すっげぇー」 


 そこは、完全に焼野原だった。魔物はもういない。暴君の爆炎に焼かれたのだから。


「……いやぁーあのクソジジィ、手加減知らないねー」


 シャリーは煉獄の暴君をクソジジィ呼ばわり。

 彼女も彼女で化物だった。

 

「で、まぁ、本隊の登場ですか……」


 天使の軍勢のお出ましである。

 その数、ざっと五千。

 魔物の大群よりは少ないものの、それでもやはり、威圧感があった。


「んー、やっぱり、なんかこう平和的解決策はないものかね?」

「無いんじゃいの?だってこっちは神様を殺そうとしてるんだから」

「まぁ、そうなんだけどねー……」


 これから、ぶっ殺し合いが始まる。

 正直言ってそんな事はメンドクサイのでやりたくないよ~という感じなのだが、まぁ早くしないと世界が滅びちゃうので頑張る事にする。

 なので。


「……んじゃ、行きますか」


 魔王軍は、王を先頭に進軍を開始した。

 




  

 ざっと五百、両軍の距離が縮まった時だった。

 両軍が激突し、混戦になった。

 先に仕掛けたのは、天使の軍勢だった。






 声が聞こえる。

 悲鳴、雄叫び、金属の擦れ合う音。

 その中を歩く。ゆっくりと進む。






 魔王の配下が、真っ直ぐに道を作る。

 神の城へ通じる道だ。

 そこを歩く。ゆっくりと進む。






 門まで、ざっと二百メートルの場所で、空間が裂ける。

 そしてそこから、鮮やかなクリーム色の髪の少女が現れた。

「私が行くね」

 紅葉が前に出る。

「……死ぬなよ」

「行ってきます」

 少女と紅葉は、懐から取り出したナイフを互いにぶつけ、すぐに裂け目に消えた。

 そして裂け目も消えた。

 

 




 門まで、ざっと百五十程の場所で、空間が避けた。

 裂け目から、和装の男が現れた。腰には、長い日本刀と短い脇差が差してある。

「私が行きます」

 エルデリカが前に出る。

「……死ぬなよ」

「心配無用です」

 男が誘い込むように手を招き、裂け目に消える。エルデリカも続いた。

 裂け目は消える。






 門まで百程。次元が裂ける。

 裂け目から、栗色の髪をした女が現れた。

「んじゃ、今度は私が」

 萌黄が前に出る。

「死なないよね?」

「あらら心配はなしっすか……。ってまぁ死ぬわけないけどね」

 萌黄はゆっくりと歩く。女も、ゆっくりと裂け目に消える。萌黄も続く。

 裂け目が消える。






 門まで五十。次元が裂ける。

 裂け目から、水色の髪の女が現れる。

「ありゃりゃ魔力が高い。んじゃ私ね」

 シャリーが前に出る。

「死ぬなよ」

「あいあいさ~」

 シャリーはゆっくり進む。女もゆっくり裂け目に消える。シャリーも続く。

 裂け目が消える。






 そして辿り着いた。

 目の前には馬鹿みたいにデカイ門。神の城、ルナヘルヘイムの入り口だ。

 シミ一つない綺麗な大理石で荘厳な装飾が施された、見上げるように大きい入り口を閉ざす門。

 秀兎はそれに手をつく。

 

「さて、開けるかね……?」


 試しにぐぃっと押してみると。


「お、なんだ軽い」


 まるで羽毛のような軽さだ。有って無いような、そんな感じ。

 少しだけ開いて、メンドクさくなった秀兎は、


「どーん」


 殴った。右手で握り拳を作って、片方の門に叩きつける。もう片方も、そうする。

 すると門は素早く、呆気なく開かれる。バァンと壁に激突する。

 門をくぐり神の城へ。

 

「中まで真っ白じゃねぇか」

「知ってるか秀兎」

「?」

「この城は、全部神が屠ってきた種族の亡骸、つまり骨で出来ているんだ」

「……悪趣味ー…………」


 俺だってそこまでしねぇよ。と内心で毒づく。

 そんな感じで、神の城を進む。

 すると。


「…………………………………………………」

「……使徒のお出ましか」


 そこには、美しいまでの蒼色だった髪を真っ白に染めた、金瞳の勇者と薄紫色の髪をした女が立っている。

 後ろには、小さな扉。


「どうする?私にはビーチェがいるから、お前は先に……」

「いや、あいつとは、先に決着を付けておかなくちゃいけない。だからお前は先に行ってくれ」

「……判った」


 ルシアは腕を振る。

 すると闇が膨れ上がり、そこに、一人の少女が立っている。


「お久しぶりですルシア様」

「後は任せたぞ」

「判りました」


 ルシアはまた腕を振る。次元が裂ける。


「じゃぁな、ルシア」

「また後で」

 

 裂け目に中に消える。

 するとすでに、もう扉の前に彼女はいた。扉を開けて、彼女は消える。

 秀兎は、ビーチェを見る。

 

「久しぶり」

「久しぶりね」

「急にで悪いけど、お前はあの薄紫の方を頼む」

「私に命令?」

「ルシアじゃくて悪かったな」

「あっははウソうそ。ルシア様が使える貴方からの命令ですもの。喜んで受けるわ」

「笑えねぇー」


 勇者は剣を抜く。血に染まった、絶望の剣。


「さて、やりますか」















 そして。

 そして彼女は、辿り着いた。

 神の城の中心。月の頂点。

 そこには。


「……久しぶりだな」

「…………」




 本当の聖女が、そこにいた。

ふぅ、今回は中々書き易かった……。

でも前も少し触れたとおり、この作品は私の実験作というか、練習作と言いましょうか、そんな感じなので、技法とか文法がまた少し変わるかもしれません。

こんな作者でよければ、最後までお付き合いください。

誤字脱字批評等ありましたら、どしどしお願いします。

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