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《8》血塗れ二重奏

遅れました~。その分文がたっぷりです。どうか最後まで読んでくださいまし。


「…………は?」


 俺は、あまりにも間の抜けた、そんな返事をしてしまった。

 それほどに、彼女の言い放った言葉が、理解できなかった。

 

「では私はこれにて」


 ビーチェは闇に消える。闇の眷属たちも、闇に消える。

 取り残された二人。白い世界で、二人きり。


「…………」


 彼女は笑いながら、手を伸ばす。すると、


「……ぁ!?」


 体から。

 体から何かがずるりと這い出た。

 いや、そういう感覚があった。何かが、自分から出ていった。


 彼女は腕を伸ばし、手の広げる。

 彼女の周りで、濃厚な闇が、べっとりとした闇が舞う。

 彼女の手で、何かが生成されていく。

 

 剣。


 暗黒の剣。

 それをこちらに向けて、言う。


「……死ね」


 それだけ。

 それだけ言って彼女は、こちらに突進してきた。

 暗黒の剣の先を、自分に向けながら、綺麗な漆黒と金のドレスをはためかせて。


「!」


 咄嗟に身体能力を上げる魔術を無声詠唱で発動、剣の突進を避ける。

 こちらも闇を使って剣の生成を行い応戦しよう。

 完全復活した闇の女神、アイツに敵うかどうかではなく、理由を聞かなければならない。

 納得できないまま死ねない。そう思って手を伸ばす。

 

 が、


「……!?」


 それ、以前の問題だった。

 闇が、闇を操る手応えが、ない。


「無駄だ。お前に宿っている闇の力はもう無い。私が全て奪った」

「……なんで!」

「お前は知らなくていい。ただ殺されるだけでいい」


 ルシアの攻撃。それを避ける。だが避け続けるだけでは意味が無い。

 話し合いの余地を作ろう。その為にはまず、牽制だ。


「《散雷さらかずち》!」


 高速で魔法陣を形成、短縮詠唱で魔法を起動。

 いくつもの雷が、ルシアに向けて放たれる。


「…………無駄だ」


 それをルシアは避ける。避けた場所に雷。

 それをまたルシアは避ける。雷は遅すぎる。


「…………」


 また別の魔法を形成。シャリーが創ってくれた、雷系魔法。


「《万堕雷まだら》!」


 さっきとは比べ物にならないほどの量の雷が、ルシアに向けて放たれる。


「…………」


 ルシアは闇の壁で防ぐ。


「ルシア!」


 それを隙と見て、話しかける。

 真意を、知りたいから。彼女の気持ちを、知りたいから。


「……なんでだ?」

「……答える必要は、ない」

「答えろよ」

「…………」

「なんで、俺を殺そうとするんだ?」


 その言葉に。

 その言葉に、彼女は闇の壁を取り払って、こちらを見つめてくる。

 愛おしそうに、楽しげに、憐れむように、色々な感情を混ぜて、

 けれどやっぱり俺には、見える。

 彼女の瞳が、何かに揺れている。そして悲しそうに歪んでいる。

 それを見て、心が、締め付けられる。


「……本当に、お前は」


 ルシアはそう言って、笑う。

 悲しそうに笑う。

 それは、今までに一度だけ見たこの有る、笑みだった。

 あの時。


 勇者の使者がやってきた時に、周囲の異変に気がついた時に、彼女に事情を問いただした時に、彼女が見せた笑みだった。


 だからそれを見ると、凄く痛い。

 心が、見えない何かに縛られていく。締め上げられていく。


「……私も、命一杯頑張って、考えた」

「…………」

「お前を、どうするべきか。凄い、考えたんだ」

「……ふぅん。んで、その結果がこれ?」

「……そうだ」

「理由は?」

「言えない」

「なんでよ?」

「どうしても」

「…………あっそ、ならいいや。んで、お前は俺を殺して、その後どうすんの?」

「神を殺す」

「……これは、その為に必要なこと?」

「……………」

「沈黙は肯定とみるけど」

「いや、違う。そんなに必要な事じゃない」

「んじゃ、やっぱりちょっとは必要?」

「……いいや、全然だ。お前を殺す事で、私にメリットはないかもな」

「どっちだよ。はっきりしないなー」

「…………どちらでもいい。これは、お前の為でもある」

「為になってねぇよ」

「…………」

「訳判んない内に殺されて、俺のため?意味不明だっつーの」

「……すまない」


 なんだかなぁ。

 なんていうか、よくわかんねぇな。

 

「……ああああああああもう!ほんともう、お前は、お前は、勝手だ」

「ああ」

「勝手すぎる。いきなり何?お前は、お前は俺が嫌いなのか?」

「…………」

「沈黙は肯定とみるぞ」

「…………」


 それに彼女は、天を仰ぐ。

 大きく息を吸って、吐いて。

 そして、目を瞑って、俯いて。

 そして見る。

 強い、意志の籠もった瞳で、こちらを見てくる。




「……お前が好きだ」




 と、彼女は言った。

 はっきりと言った。

 …………………………………。

 …………………………。

 

「…………」

「…………」

「…………」

「って何にか反応しろー!」

「え?今俺が反応するところ?」


 ……いやいや普通に聞き入っちゃった。

 シリアス場面だし。


「ノーリアクションはないだろう!」


 まぁ確かに平然としてたけど。


「いやごめん。だってお前が真面目ぶるからさ」


 普通に次の言葉を期待したよ。


「……私が真面目ぶるのがそんなに変なのか?」

「あっはっはっはっは」

「笑うなー!」


 いや。いやいやいや。

 なんだろうなぁこれ。こっちの方が意味不明だ。全然シリアスはじゃないなぁ。

 ごめん、おもしろい。ワルノリ開始。


「悪い悪い。んで、俺のことが大ちゅき~なお前がどうして俺を殺そうと?」

「大ちゅきなんて言ってない!」

「はぁ?言ってたじゃん。秀兎ちゅきちゅき~」

「恥ずかしすぎる上に捏造だ!」

「……いやぁ、はっはっは」

「だから笑うなー!」


 いやぁ、ホント。なんでだろうなぁ。

 全然、緊迫しないなぁ。ていうか、面白いなぁ。


「うん、まぁ、なんていうか、何でだろうなあ」

「…………?」

「お前と話してると、ホント楽しいなぁ」

「…………」

「結局お前がどう思っていようが、殺すことには、変わりないんだろう?」

「……ああ」

「お前の気持ちを聞いて、お前がもし俺を好きになっていたのなら、お前の為に死んでもいいかなぁって思った。お前が、そんな顔になるまでに思い詰めたこの結果を、受け入れようかなぁって思った」


 それは結局、自己犠牲。犠牲にして、逃避。

 それでも、それでも俺は、思う。

 それでいいじゃないか。

 あいつがどれだけ俺の事を思っていたのかは知らないし、知ることも出来ない。

 それに、知ろうともしなかった。

 だから、だからこそ俺は、あんな顔になるまでに思い詰めた彼女が出したこの選択を、喜んで受け入れようじゃないか。


「…………」

「んで、お前が俺を好きって言ってくれてさぁ、んじゃま、殺されようかな、なんて思ったわけだけどさ」

「…………」


 結局俺は、どこまで行っても自己犠牲。

 そう思っていた。




「やっぱやーめた」




「……何?」


 それが、どれだけ意外な返答だったかは知らないが、彼女は眉を吊り上げ目を見開いた。


「やっぱ俺、生きる事にした」

「…………」

「なんつーの?……あああ、別に言う事もねぇや。お前が思い詰めたこの結果を、俺は拒否することにした」

「……何故だ?」

「んぁ?」

「何故、諦めない?いつものお前なら、相手の思いに答えて、自分の思いは優先しないはずだろう?」

「さぁ?なんでだろ?自分でも不思議なんだよねぇ。んまぁそんな事はどうでも良いや」


 でもきっと、心の何処かでは、解っているだろう。自分が何故、彼女の要求を拒否したのか。

 そこまで朴念仁ではない。彼女と過ごした時間も少なくない。

 だからこそ、解る。判るのだ。


「……お前が、私に勝てるはずが、無いだろう?」

「それでもあがく」

「……ッ」

「もう決めたんだ、やり通すって、生きてやるって、決めた」


 やる事いっぱいあるし。

 やりたい事もいっぱいあるし。

 

「だからもう、無駄口は叩かない」

「……」

「お前と話すと、お前の為に死んでもいいやって思っちゃいそうだから、話さない」

「……」

「来いよ、本気出せ。俺も本気出して、んでもってお前を負かして、生き残ってやる」


 その言葉に。

 その言葉に彼女は、天を仰ぐ。

 遠目から見ても解る。眉間に、皺が寄っている。

 彼女は少しだけ、息を吸い込んで、吐き出して、また、息を吸い込む。

 それを何度か繰り返して、今度は目を瞑り、俯く。


「…………ふふ、これだからお前は……」


 彼女は楽しそうにそう言った。


「お前は、凄いな。凄すぎる。尊敬に値するよ。本当に……」


 と彼女は言った。

 それが何を思って、何を考えて、何を心に残したのかは、本人しかわからない。

 けれど。

 けれどその時の彼女の顔は、悲しくて、儚くて、遠い。

 

「あー、あー、ああああ」


 彼女は、何かを言う。


「あ……、あああ、ああああ……」


 その声が少しずつ、少しずつ、人の声では無くなっていく。


「ああああ、あああああ、あー…………》


 そして、


《…………あああ、嗚呼アアアアアアああああああああああああああああああああアアア!!》


 その声は衝撃波となって、彼女の周囲を破壊、蹂躙した。


「…………」


 黒宮秀兎は覚悟する。

 あれが、あの人のようで根本から人とは違う存在の本領。

 生半可な覚悟では駄目だ。完全に、完璧に、ガチガチに固めて、それを自分の武器にしよう。


《……いいだろう。千年ぶりに本気を出そう。お前を、お前を二度と戻れぬ深遠の闇に、叩き落してやる》


 彼女は凄惨に笑う。

 その笑顔は、どこまでも悪魔的。




 ◇◆◇




《……本当なら、お前を私の従者にして、傍に置こうと思っていたんだがな》


 その提案は、どこまでも魅力的で、平和的。

 その声も、どこまでも魅惑的で、温厚的。

 けれども。


「は、ならそうしてくれりゃ俺も死なずに済んで万々歳だけどな」


 そうならないのは、既にお互い解っている。


《お前には無抵抗で死んで貰うはずだったが、やっぱり痛めつける事にした。理由は気のまぐれ》

「えええそんな死に方は嫌だなぁ。苦しいのも、痛いのも、全部やだ」


 突っ込むとこはそこじゃないだろうけど。


《……何故だろう。お前と会話していると、情けをかけてもいいような気がしてくる》


 だったら。


「だったら闇の力を寄越せ。半分だ」

《…………》

「……均等な力で、公平な立場で、お前を負かす」


 そうする事で、彼女の意思を、挫く。

 幸いにも彼女は今、物凄く機嫌が良さそうなのだ。

 この程度の要求なら当然……


《……ふふ》


 そら来た。

 彼女が手を伸ばす。すると、ずるりと何かが体内に侵入してくる。そういう感覚に襲われる。

 闇の力が、体内に侵入し、巣食う。


《言われたとおり、闇の力を半分分けた。これで能力は五分五分。後は実力が物を言う》

「……なんか、物凄く、興奮してきた」


 早くも脳内麻薬分泌か? 

 

《……それには私も同意せざる終えないな。血が沸き立つ。コンディションも悪くない。さすがにフルパワーは扱いきれないだろうが、半分か。まぁそれなりのハンデだろうな》

「おいおい、そんなこと言ってていいのか?油断してると足元掬うぞ」

《はは、足元を掬われるの間違いじゃないのか?》


 闇を操る。それほどに違和感は無い。ただ少しだけ、許容量キャパシティ操作範囲フィールドが上がった気がする。

 が、そんな事はどうでもいい。むしろ上がったおかげで試したいと思う自分、戦いたいと思う自分がいる。

 自信と好奇心と闘争心。その著しい増加が、気分を高揚させる。

 ルシアは両手を手刀にし、その周りに闇を這わせた。

 俺も、それに合わせる。

 闇を這わせることによって手刀は何倍にも鋭利さ、斬撃性を増す。

 ただの手刀は、いかなる物も切り裂く無敵の剣に進化する。

 彼女は目を瞑る。すると闇色の燐光が彼女の周りに漂う。

 それも、合わせる。

 これは、身体能力を上げる魔術と同じ効果がある。詳しい説明は無粋、素直に割愛しよう。

 これにて、両者臨戦状態。


《あまり落胆させるなよ、秀兎》

「…………おぉ」

《……どうした?》

「いや、お前に名前で呼ばれるのが、えらく久しぶりな気がする」

《そうだったか?》


 もっとも、普段は気にせずに会話しているので聞き逃している可能性も否めないが。

 

「もう一度、一度だけだぞ、確認する」

《……ああ》

「……お前は、俺が嫌いか?」


 そこで、彼女は声音を変える。

 元の、ニンゲンの様な声に戻る。




「……しゅきだ」




「………あ…」

「…………」


 ………………………………………………………………。


「………ぶっ!」

「………!」

「あははははははははははは!しゅ、しゅきだって!しゅきだって何よ!あはははは!」


 こいつ!こいつ今噛んだ!絶対噛んだ!


「ぐ、ぐぅ!す、好きだ!」

「しゅきだ!あははは!」

「ぐぁあああああ!」


 あひーひー。いやいやそこで噛むかよ普通。いやぁ笑える……。ぶふ、はらいてぇ。


「さ、さても一回確認するけど……お前は俺が、しゅきな……ぶ!」


 ぎゃははは、わ、笑いが、笑いがとまらん!


「ぐぁぁぁああああああ」

「いやぁはははは!」


 いや、いやいやいや、笑ってる場合じゃないんだけどね?


「いやぁ、笑ったな。多分一年分くらい」

「馬鹿にするなぁ!」

「いやいやいやでも……」


 そっか、やっぱりお前は、俺が好きなの……か。ぐ、やば、わ、笑いが……。


「まぁ判った。お前が俺を好きなのは、判った」


「…………ああ、私はお前が好きだ」


 その告白が、胸に響く。

 気持ちよく、心地よく響く。

 ……笑いそうだけど。

 思考を切り替えよう。

 真面目に、考えよう。

 かちりと、思考を切り替える。

 真剣に、彼女を見る。


「そっか……」


 だったら。


「……手加減は、無用だぜ!」


 そう言って、俺は跳ぶ。

  

《もとよりそのつもりだがな!》


 そう言って彼女も跳ぶ。




 一瞬にして二人の距離は縮まり、手刀が交差する。

 お互いの《闇》が、侵食し合い、同調し合い、反発し合う。

 予想以上の反動が、全身を駆け抜ける!




「……くっ!」

《まだまだァ!》


 超高速展開される魔法陣。色は赤、属性は炎。


《《焔華ほむらば》!》


 しかし、こちらも反抗魔術を展開。色は青、属性は水。


「《海波うなみ》!」


 水が炎を消し、炎が水を蒸発させる。爆発的な蒸気が発生し空間を支配する。

 秀兎はそれに乗じて疾走を開始。闇で足音を吸収。

 疾走中に闇の剣を生成、闇の女神が居たであろう場所に向けて高速射出。

 轟音と共に、蒸気を霧散させる。


《ムダァ!》


 しかし、闇の女神は予想に反し何も無い床を滑りながら奇襲を仕掛けてきた。

 さながらアイススケートのように。華麗に、可憐に。


「な!」

《死ねぇ!》


 女神の一撃は、シンプルにして予想外だ。

 意識が、吹っ飛ばされる。

 滑走による加速、それからの打撃。すなわち拳。ただし、『超高速』の、だ。

 滑走による加速+常軌を逸した腕力による、豪速の拳。

 それをもろに喰らった俺の上半身は、問答無用に爆発し散乱する。

 肉体が、その拳の破壊力、打撃、衝撃を吸収、発散できず、結果内部にて爆発する。

 

 しかし、闇による自動的で瞬間的な回復が、再生が始まり、すぐさま意識が回復する。 


 闇の力には、あらゆる物質を真似する事の出来る特性が存在する。影然り。伝説上の魔王が何度も甦るのは、甦ることが出来るのは、それが理由。

 しかし、俺が宿しているのはそんな似て非なる物ではない。

 《闇の女神》の力なのだ。【真】の《闇の力》なのだ。

 絶対的再生能力。例え半分だとしても、どんな傷は一瞬にして治癒される。

 いかなる傷も瞬間的に治癒し、再生する事が出来る。底の知れない不死性が、今は宿っているのだ。

 

「効かないねぇ!」


 すぐさま手刀で一閃。女神の首を跳ね飛ばす。

 躊躇いはいらない。相手も自分と同等の、いやそれ以上の力を持っているのだから!

 しかしぶっ飛んだ首もすぐにヘドロのように黒く溶ける。変わりに首無し女神の首が再生する。


《一度こうして、戦ってみたかった!》

「奇遇だな!俺もだよ!」


 嘘だけど!


「はは《はは「ははは《はははは!!」


 全く、一体どこの吸血鬼だよ俺たちは。

 吸血鬼じゃなくて、闇の化物だけど。

 体を変形させることは出来ないし、吸血もしないし、人も食わないけど。

 圧倒的不死性を有する化物の、一対一。

 地獄絵図、同感だ。血で血を流させるような、不毛な戦い。

 でも。


「くらえ!」


 超、近距離戦。

 腕を薙げば首を刎ねられ、こちらも首を刎ねれば今度は胴を貫かれ、負けじと心臓を貫くと心臓を貫かれる。

 

《どうした!息が上がってきているぞ!》

「へ、んなもん気のせいだ!」

《再度言うが落胆させるなよ!わざわざ力を半分もやったんだ!泣いて喚いて叫んでも、攻撃を止めるつもりは毛頭ない!》

「そんな事を言ってる暇があったら手を動かせ!はい十回死んだ!」

《ぬかせ!十二回!》

「十五!」

《十六!》

「二十!」

《二十二!》

「二十よ……くそッ」

《負けるか……ッ》


 力が、拮抗する。お互いの手刀と手刀が、交錯する。

 爆発的な衝撃が、二人の逢瀬の邪魔をする。

 しかし、その衝撃を闇で吸収。反動にして体勢を崩した闇の女神へ。

 闇で床との摩擦を吸収、滑走。女神のように可憐とは言えないだろうが、それでも。

 そして彼女の右腕を、根元からたたっ斬る!


《ぐあ、がぁあああ!》


 圧倒的不死性が有ったとしても、痛覚がなくなるわけではない。

 いやもうほとんど麻痺してるけど。

 

《ま、だまだぁ!》


 しかし、この程度でくたばるほど闇の女神は落ちぶれてはいない。

 右足で跳躍、体を捻らせて左足で強引な回し蹴りを放つ、側頭部殴打。

 衝撃が爆発、頭が粉々に吹っ飛ぶ。

 再生。

 

「ははは《はは「ははは《はっははは!」


 それは、歪な狂想曲。狂いに狂った、黒く血に塗れた二重奏。高らかに、爽やかに、凄惨に、二人は笑う。

 主従関係の破綻ではないけれど。

 友情のすれ違いではないけれど。

 どちらも正論で、それが衝突しているわけでもなく。

 どちらかが狂って、それを止めようとしているわけでもなく。

 ただ単に、感情をぶつけているだけ。

 生き残りたいという感情、生存本能。

 殺したいという感情、殺意。

 遂にはそれを通り越した、歪で、軋んで、決して理解のし合えない感情の衝突。

 愉悦、快楽、その類。

 それらが衝突する、どちらも狂った、歪で狂った二重奏。


《はは「はは《ははは「はははは!」


「なんだろうなぁ!すげぇ楽しいよ!」

《それには素直に同意しよう!》


 防御を気にせずかなぐり捨てる戦闘が、楽しくて楽しくて堪らない。


《普段は怠け者の癖に!これが本性ということか!》

「さぁな!多分どっちも本性だろけど!」


 凄い。狂っている自覚はあるが、こんなにも楽しいなんて。

 狂乱の、快楽の海に、溺れる。


「おらおら足がお留守だぜ!」

《お前こそ顔ががら空きだがな!》


 飛び散る血。闇の力が循環し暗黒色に変わった血が、おびただしい量で白い世界を塗りつぶし、そしてすぐに蒸発。

 殺しても、殺しても、殺しても殺しても死なない相手に、二人は笑う。


「はは《はは「ははは《はははは!!」


 地獄絵図。

 ここを地獄とするならば、昨日まで、いやついさっきまでは天国だっただろうか。

 平穏な旅だっただろうか。

 まぁ、そんな事、今はどうでもいいけど!


「がぁ!」


 片目だけで姿を捉え、その神聖な体躯を、ぶった切る。

 まるで、豆腐か何かを斬るような、そんな抵抗の無さ。

 神聖な、目の前にいる美しい存在を傷付ける、背徳感に似たなにか。

 その全てが、思考回路を麻痺させる。その麻痺に、心地よい麻痺に酔い痴れてしまう。


《雑魚が!》






 斬って、斬られて、ぶった斬られて、たたっ斬って。

 そうして、





 

「はは、ははは、はあ、はあ……」

《はぁ、はぁ……》

 

 ガス欠だ。疲れた。もう動けん。

 

「つ、次で最後か……」

《さすがに、もう魔力も、ほとんど、残って、ないだろう……》


 ゆっくりと、しっかりと、魔法陣を描いていく。

 彼女も、そうやって魔法陣を、描いていく。

 完成。

 色は両者、黒。属性は、闇。


「ありったけの、魔力を込めた……」

「その前に、闇の力を、返して貰う」


 何かが這い出る感覚。


「おいおい、これじゃあ、俺が死ぬぜ?」

「安心しろ、もう私にも、再生する力は、ほとんど、ない……」


 つまり、両者致命傷を負えばエンドか。


「……ふぅ」

「はは……」


 楽しかった、とは言わない。

 それぞれ、違った思いを、違った目的を、持っている事を、不覚にも今、思い出す。


「俺は、絶対、生きてやる……」

「お前を、殺す……」


 目的を再確認。もう何も、言わない。必要は、ないから。

 これで……


「「最後だ……」」



 《闇柱やばしら


 二人は同時に。

 同様の魔術を、唱えた。




 ◇◆◇




「は、はは、……」


 負けた。なんだよ。


「嘘つき野郎……」

「嘘も立派な戦術だろう?」


 ぼろぼろになりながら、それでも立ち上がり、暗黒の剣を携えて。

 彼女はこちらへやってくる。


「はは、違いない……」

「……久々に、燃えたよ。血が滾った。笑った」

「そうかい、そりゃなによりだ……」

 

 んじゃ。


「殺せよ」

「……ッ」

「いいよ、別に。俺は負けた。男に二言はありませーん。だから、殺せよ」

「……ああ」


 そう言って、彼女は剣を振り上げる。


「言われなくとも、そうする……」




 しかし。


「ざァんねン。そうはさせないヨー」


 そう言って現れた一人の男が、彼女の××を奪った。

 その瞬間。

 その、彼女の××が奪われた瞬間、秀兎は。

 

 もう何も考えず、覚悟も、思考も、何もかも捨てて。


 叫んでいた。


 彼女の名を。


 涙を流して、歪んで、それでもどこか晴れ晴れとした表情で笑いながら、倒れていく。



 彼女の名を。  

あばばば、ものすげぇ怒られる!いろんな人に怒られる!

ってビビッてます。はい。すいませんね。こんな作者で。

久しぶりの戦闘シーンも完全に某○物語のキャラ対決になってますもんね。あああ怒られる!

あと、あの二人のノリ。すいません。あんなんでホントすいません!

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