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《6》闇よりも深い夜に。

スピーディー。

 

「ふぅん、これが、アルゼンの城かあ……」


 なんて。どうでも良い事を言って、感嘆する。

 だがまぁ確かに、感嘆するくらいには、その城は大きく、立派だった。

 城に入るための門では、貴族の馬車や豪華な服装をした貴族たちが行き交い、街ではそれに乗じてお祭りが行われている。

 ちなみに、国が経営する店が多くあり、その店では色々な物が無料で配られている。

 

「…………」


 前夜祭、だそうだ。

 明日から、アルゼンは日本に対しての警戒を一層強めるという。

 最後まで諦めず、戦い抜くという。

 …………。


「……アルゼンの王は、確かに賢王だなぁ」


 心底感心してしまう。

 これだけ民のことを考える王は、そういないだろう。

 すごい。


「……ふふ、楽しみだな」

「そうですね」


 彼らは、城へと入っていく。











 パーティー会場では様々な方法で調理された色とりどりの食材が並べられていた。


「うはぁ、美味そー」


 どうやら立食バイキング形式のようだ。

 かなりの数の貴族たちがそこにはおり、ぺらぺらと談笑している。


「ふむ、これなんか、凄いお金がかかってそうだな」


 彼女の目の前の白い皿の上には、馬鹿でかい鳥のような生き物がこんがりと丸焼きにされ、表面には何かのソースが塗られている。

 他にも美味しそうな料理が所狭しと並んでいた。

 とにかく凄く美味そうな料理ばかりだった。


「さぁて、ひとまず食事といきましょうかねー」

「さんせー」

「賛成するわ」


 のんきな三人は、とりあえず腹を膨らましてから行動することにしたのだった。




 それから、しばらく立食を堪能する三人は、周りが暗くなると同時に、いち早く出入り口に向かい、その脇にたった。

 部屋が暗くなるのは、アルゼンの王が挨拶をする合図だ。

 部屋の奥に設置されたステージに、照明の光が集まり、一人の人物が姿を現した。


 若々しい容姿、それでいて意志の強い瞳をもった、栗色の髪の男。


 それが、134代目アルゼンフォーエムス王、ルビンラバン・アーデン・アルゼンフォーエムス。

 拡声魔術によって、彼の祝辞が述べられる。


《―――――我らで明日、蛮族たる日本を討とうではないか!》


 スピーチの最後はそう締めくくられた。

 拍手喝采、王は鷹揚に手を振った。


「そろそろか」

「ああ、無駄口は叩くなよ」

「りょーかい」

「私は彼女と行動するから、貴方は一人で」

「おっけ」

 



 それから、滞りなく前夜祭は続いた。

 貴族たちの会食に参加する王は、とても乱心しているようには見えなかった。

 それどころかかなり人間味のある、面白い人だった。

 身分を気にせず誰にでも接するあたりがとても好感を持てる。

 いい王様。その代名詞に出来そうな人だった。

 どうでもいいけど。


「…………」


 秀兎は今、城を歩き回っていた。

 兵士たちも祭りに参加し、今では城はもぬけの殻も同然。

 ……チャンスは、今。

 秀兎は思考を切り替える。

 心成しか、緊張しているのがわかる。

 なんていたって、このステップの実行するまでに二年もかかったのだ。

 計画を立案し、大まかなステップを何度も見直し、綿密に、緻密に計画し、そしてやっと実行に移ったのだ。

 無駄には出来ないし、したくない。

 これは、真の闇の女神になる事は、彼女の、……悲願なのだから。 


「……つってもなぁ」


 そんなに簡単にいけるような場所じゃないもんなぁ。

 カルカローネ。

 禁断の間。

 いくら緊張して、張り詰めたって、そんな簡単にいけるような場所じゃねぇよなあ。

 

「……どうしたもんかねぇ」

 

 闇の魔女を復活させるための、儀式。

 ルシアを闇の女神へと、空へ昇らせるための儀式。

 彼女は、闇の女神になって、神を殺す。

 闇の女神の力とは、それはもう数え切れないくらいに多種多様で、《剥奪》と《闇の物質化》はその一部分に過ぎない。

 今、闇の力を共有している俺とルシアが使える力は、その二つ。

 闇の女神へと戻ることで、彼女は真の力を取り戻す。

 と、秀兎はある疑問にぶつかった。


 ――それで、全部が終わって、俺はどうなるのだろう?


 結局俺はただの人間に戻って、それから、どうなる?

 世界が救われて、それから?

 この儀式で闇の魔女は闇の女神になる。力の共有は神を殺し世界を呪い壊す何かを壊した後、解かれるだろう。

 問題は、その後。

 …………。

 …………。

 …………。

 ……まぁ、その時に考えればいいか。



 なんて思考に没頭している秀兎の目の前を、何かが通り過ぎた。



「…………!」


 秀兎は思わず仰け反った。

 それは、銀色の……。

 銀色の小鳥だ。

 まるで月の色みたいに綺麗な、小さな鳥が、秀兎の目の前で羽ばたいていた。

 それは、闇の魔女の使い魔だった。

 

「……どした?」


 そう聞くと、頭に彼女の声が響く。


《入り口を見つけた。誘導する。そいつについて来てくれ》


 ……速ッ!?

 え、もう?正直言って、まだ三十分経ってないんですけど!?

 

《何を戸惑っている。早く来い》


 ……魔女に常識は通じないようだ。ってこれどっかで言ったけ?

 まぁ、慣れてるからいいけどね。

 

「りょーかい」


 でも。

 でも本当に。


 全てが終わった後、俺は、どうなるんだろう?


 闇よりも深い夜に浮かぶ《満月》を見ながら、彼はそんな事を、考えた。

 



 そこは、中央庭園の、その中央だった。

 巨大な円形の噴水が、そこにはあった。

 

「これ、なのか?」

「ああ」


 これが、禁断の間への、道?

 どうやって行けというんだ?


「すでに瞳で見たが、この噴水にはなんらかの封印術式がかかっている。今からその封印術式を解く」


 彼女は、黒い手袋を外して池の水に触れた。

 それだけで、彼女は術式を解析し始める。

 ぐいぐい介入する。

 本来、魔術や封印の術式は他人には介入できないよう防護プロテクトがかけられている。

 彼女は今、闇の力、剥奪を使って術式の防護を喰らい潰し、介入を可能にしていた。


「…………………………解けた」


 彼女がそう言うと、噴水の水が止まる。

 そして、噴水がガラガラと変形して……。

 大きな入り口になった。

 端に階段があり、下を除くとその階段が、螺旋になっている事がわかる。

 深い。


「いちいち律儀に下るのもめんどいな……」


 秀兎は物凄いスピードで魔法陣を描く。

 飛翔魔法。

 魔王城魔術師団団長が三日も徹夜して作り上げた、使い勝手のいい飛行魔法。

 魔法陣が完成する。

 秀兎はそれに飛び乗った。


「んじゃ、行こうかね」

「ああ」

「…………」

 

 やはり三人とも、緊張しているようだ。











紅十字司教くれないじゅうじしきょう


 彼女は言う。


「彼らが動きました」


 だから彼は微笑む。

 邪悪に微笑む。

 

「そうか、そうかやっと……。やっとこの時が来たか」

「ええ、宿願が叶うときが」

「そうだ、フローリア。やっと、やっとこの時が……」


 待ちわびたその日がやってきたことに彼は、心の底から喜んだ。











 噴水の入り口の、もっとも深い場所。

 

 そこに《門》はあった。


 荘厳な金の装飾が施された門。

 壮大で、壮絶。

 硬く、堅く厳重に閉ざされている。


「これは……」


 開けられるのか?こんな、馬鹿みたいに大きな門。


「心配ない。封印術式を解く」


 彼女は呪文を唱える。

 地獄に堕ちた、天使の眼を、その瞳に宿す。

 それだけで、彼女は術式を明確に把握する。


「ふぅん、はは、やはり迎撃術式があったか。しかも性質が悪い魔術だ。危ない危ない」


 指をぐるぐると回し、くいくいと捻り、手首を返し。

 そうして。


「……よし」


 彼女は封印を、解いた。

 扉が、開く。

 その奥から、光が飛び出す。


「……う、くっ!」


 そうして秀兎は、目を瞑って。

 それから。

 それから。





 

 

 白色の世界が、現れた。


 そして目の前には、暗黒の線で引かれた魔法陣があった。




 ◇◆◇




 アアア。アア。

 遂に。ツイニキタか。

 キタ。キタキタキキタ。

 アクマが。

 アクマがメザメルゾ。

 ヒメハまだか?

 勇者はイルゾ。

 殺せ。

 コロセ。



 アクマを、コロセ。 

比較的に話の流れを早くしました。

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