第三章.勇者は天使に恋をする――
第三章、グダグダ感を排したい。を目標に頑張ります。
彼女の笑顔が好きだった。
優しげな笑顔が好きだった。
それは、多分《恋》だった。
地獄が滅んだ、その後。
僕は、行く当てもなく、どうすることも出来なくて、その小さな身体で旅に出た。
彼女も一緒だ。
彼は、魔王を殺した後、忽然と姿を消した。
僕たちは騎士団が持っていた珍しい二輪車(魔導動力で動く)を奪って移動手段にした。
旅は厳しい。
が、幸い、僕には訓練で培った狩りの技術があったので、食料には困らなかった。
綺麗な星空の下と森の中で、二人で焚き火を囲む。
「はい」
「ありがとう」
焼いた魚に金属製の串を刺して、香草と砕いた塩を振って彼女に渡す。
内蔵と頭は下処理の段階で切り落とした。焼くとはいっても、熱に強い寄生虫でもいたら大変だ。
彼女は笑顔で受け取る。
彼女の笑顔が眩しい。
随分と笑うようになってくれた。
「おいしい!」
脂ののった身、口当たりも悪くない。何より味が良い。血のような味は無かった。
「珍しい魚だったから心配だったけど、これは凄く美味しいね!」
「うん!……ん?この匂いは……」
「アリアの葉の乾燥させた奴、香草としても使えるって読んだことがあってさ」
「へぇ、美味しいね!」
二人で二匹づつ食べ、残りはすり潰して丸めて乾燥させて携帯食した。
僕は焚き火でお湯を沸かし、フィチの葉でお茶を作った。カップに注いで、彼女に渡す。
「今日は寒くなりそうだ、はい」
「うん、ありがとう」
「ついでにこれも食べておいた方が良い」
僕は袋から小さな玉を取り出した。
「これは?」
「ジャーっていう植物の根をすって固めて乾燥させた。身体を温める効果と体内の細菌を殺す効果があるんだ。お茶に溶かして飲む」
「へぇ…………あ、美味しい」
「よかった」
「本当に温かくなってくるね」
「臆病なシルベルート(鹿に似た生き物)を待ち伏せする時なんかは、よくこれを使うんだ」
「へぇー。貴方は何でも知ってるね」
「狩りの事だけだけどね。あ、流れ星!」
「うわぁキレー」
「すごいねぇ」
君は空を見上げる。
美しい闇夜に輝く星星を見上げて、感嘆の声を上げる。
「ねぇ、知ってる?」
「うん?」
彼女は、その闇夜に一際輝く、丸い月を指差した。
「月?」
「そう、月」
「綺麗だね」
綺麗で、丸い月。
でもそれを見て彼女は悲しそうな顔をする。
「月にはね、神様が住んでるの」
「神様?」
「そう」
「世界を平和にしようとか、人間を創ったとか、そういう類の?」
「……そんな感じ」
「僕は、神様なんて信じて無いけどね」
「そう?」
「うん。……でも、もしいるんだったら、僕は……」
僕は、神様を憎むかもしれない。
「うん?」
「いや、なんでも。それより、月には神様が住んでるのは本当?」
「本当だよ。それでね、たくさんの『天使』が仕えてる」
「天使?」
「そう。天使が、神様の事を助けたり、神様の補助をしたりするの」
「天使……」
「月は、《楽園》なんだって」
「楽園?」
「争いも、差別も無い、平和な世界なんだって」
「……本当にそんな世界が、あるのかな」
「さぁ、判らないよ。でも、私は、この世界を、そんな、明るい世界にしたいな」
「…………優しいね」
「もう二度と、私たちみたいな不幸な子供が、生まれないように」
「……そうだね。僕もやるよ。この世界を、この絶望が生まれてしまう世界を、そんな、《楽園》にしよう」
「うん」
「君たちが、笑って過ごせる世界を、僕が……」
「はい、そうやってすぐ自分で背負い込まなーい」
貴方の悪い癖よ、なんて言って笑う。
確かに、その通りだ。
「……はは、うん、そうだね」
「私も頑張る」
「一緒に頑張ろう」
「うん」
「「二人で一緒に、平和な世界を創ろう」」




