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《17》戦場に少女。

なーんか読み難い文章になっちゃった気がします。

 

「ああああーっ!」


 雄叫び声をあげて、屈強な騎士が迫ってくる。

 手には剣、希少銀を鍛えて作り上げたであろうその剣に、余計な装飾は一切無かった。

 鎧だってそう。余計な物を一切排し、機能性と機動性と防御性を上げに上げた鎧。

 本当の、本物の、戦う為だけの武器。

 

「…………」


 その騎士の剣を避け、腕を取り、関節を外し、地面に張り倒して、鳩尾にかかとを落として気絶させた。

 テペントクロウティアの、騎士。

 そして、騎士団。

 これは、戦争だ。

 テペントクロウディアはアールゼンと「共に日本を討つ」という条約を交わしたそうだ。

 その結果がこれ。

 

「………ふぅ」


 自分は、あろう事かその戦場に、皮革製の軍服で突っ立ているのだ。

 白を基調とし、金の装飾と刺繍が良く映え、シャリーによって魔法コーティング、魔術付加された、そんな軍服で。

 黄緑色の髪をたなびかせ、黄緑色の瞳で、その血で染まった戦場を、少し離れた丘の上から見る。

 今は、叫び声は聞こえない。

 敵軍は、前方の巨大な断崖絶壁、『アラクレスの壁』の急斜面を利用した要塞に退避。

 戦争は今一時休戦中。

 本土から親衛騎士団を連れてきていれば、もう少し速く終わったかもしれない戦争。

 親衛隊と違って、今回連れてきた連中は銃の扱いに慣れてはいるものの、近接戦闘はあまり慣れておらず、伏兵の、ある程度の対衝撃用魔術が施された鎧を着る完全武装騎士フルジャケットナイツの所為で、こちらの戦力もだいぶ削られてしまった。

 対衝撃用魔術の所為で、銃弾は通じず、近接戦闘も向こうが一枚上手。

 痛い判断ミスだ。

 救いなのは、対衝撃用魔術が施された鎧が、大量生産されてなかった所か。


 つい先刻、休憩の隙を見て、敵の伏兵、遊撃部隊に本陣を襲撃された。

 が、敵の遊撃部隊はすでに無力化した。

 敵側のこの策は、本来なら本陣がもっと手薄になった所で使うべき策のはずだが、よりにもよって本陣が一番守備されている時の奇襲とは、とんだ愚策もあったものだ。

 まぁ、敵大将、中将クラスの人間、及び過半数の騎士は、本陣にて武装中。すなわち立て篭もりと言うわけで、あちらもかなり疲弊しているのだろう。

 なので、ここで実行しなければならない戦術は、二つ。

 

「まぁ、時間の問題か……」


 術を実行に移すには、それなりに時間が要るのだ。

 ――と、そこで、頭痛。

 一瞬の、頭痛。

 何かを訴えるような、頭痛。

 そして、その頭痛に伴って、自分の気持ちと、とある昔話を思い出す。


 昔、「猿」という人間がいたらしい。

 彼は農民の出だったが、大層な主君思いで、その功績が讃えられて出世したそうだ。

 が、彼の仕える主君が、「家臣」に殺されたそうだ。

 その「家臣」は、「猿」と同じくらいに主君思いで、偉かったそうだ。

 そして「猿」はその「家臣」を討ち、見事国を治めたらしい。

 けれど、私は思う。

 本当に主君思いだったのはどちらのだろうか?

 本当は、その主君は、疲れてしまっていたのではないだろうか。

 そんな主君の気持ちを知った「家臣」が、主君思いがゆえに彼を討ったのかもしれない。

 そして主君思いがゆえに、「家臣」は「猿」に討たれる事を望んだのではないのだろうか。

 結局主君に信用されていたのは「家臣」の方で、「猿」は何も見抜けず、何も気付けず、ただ主君と家臣の手のひらの上で踊っていただけなのだとしたら。

 きっと「猿」は、思いやりに欠ける、主君思いでもなんでもない、自分の事で頭がいっぱいの、ただの欲にまみれた人間だったのかもしない。

 主君は、「猿」のそんな人間的心理、人間的精神を、見抜いていたのかもしれない。


「私は……」


 私は、主君を思っているだろうか?

 私の主君は、ヒナ様。

 ヒナ・ラヴデルト・フリギア。

 でも何故だろう?不思議と、彼女の事を「思わない自分」がいる。

 彼女の事を護ろうとする自分と、彼女を護らなくていいと思っている自分がいるだ。

 不思議だ。

 実際彼女の近くにいると、なんとしても護り通そうという気持ちにはなる。

 だが、彼女から離れるごとに、彼女なんかどうでもいい、という気持ちになる。

 わけがわからない。

 自分の気持ちが、よくわからない。

 たまにくる、謎の頭痛。

 たまに見る、何かを訴えてくるような、夢の中での、ノイズ、叫び。


『お***ま****し***は**じ*な**ろ*ッ!!』


 結局起きてみると、うろ覚えで、よくわからないのだけれど。

 何か、何か重要な事を、私は、忘れている。そんな気がする。

 

「…………」


 とそこで、紅葉が製作した、魔力による通信機に、反応があった。

 

《工作班。爆薬セット完了。工作員の退避も完了しました》

《こちら第七特装師団。突入経路壱、弐、参、肆、準備完了しました》

「……人間の負傷に注意しろ。誰も傷付けるな、誰も殺すな、誰も犯すな、穏便に、冷静に、慎重に、任務を遂行しろ、失敗は赦さない、失態も赦さない。以上、健闘しろ」

《《了解》》


 途端に響く轟音。

 工作班の仕掛けた爆薬が、指定箇所を爆破したのだ。

 エルデリカが仕掛けた戦術は二つ。

 一つ、工作班が敵軍の装備を奪取、敵軍に成り済まし、要塞内へ侵入。のち、武器庫、弾薬庫の爆破工作。

 二つ、第七特装師団は隠密行動用の特殊兵装(技術部特製の非殺傷用の閃光爆弾及び用電撃個人携帯兵器)にてあらかじめ調査しておいた退避経路入り口にて待機、爆破工作の爆音を合図に突入、司令部を占拠。

 まぁ、本来二つ目の戦術はこちらが一手不利なるはずだが、第七特装師団の防護服およびヘルメットには一定の衝撃、斬撃、その他の外的、いやこの場合広義に「攻撃」を吸収し無力化する高度吸収機構を搭載している為実現できた。

 要するに、こっちはあっちより凄い装備持ってるから、別に敵を殺さずとも占拠できるのである。

 強制的な、あるいは武力による無血開城だ。

 念の為に紅葉が造ってくれていた。つくづくあの子には感心する。


「…………ふぅ」


 もう終わったも同然の戦争。

 しかし、今回もまた、無駄な血が流れてしまった。

 気付けばもう、空は鮮やかなオレンジ色に染まっていた。

 

 振り返り、夜が、「闇」が迫っている事を確認する。

 そして、薄っすらと現れ始めた「それ」を見て、嘆息する。


「今夜は、満月か……」


 そしてまた、頭痛。

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