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《15》世にも綺麗な。

今回は読みにくいかもしれませんが、平に容赦をお願いします。

 

「何これ、こんな安い紅茶なんか飲みたくないわ、下げて」

「…………」


 魔導列車。

 正式名称:魔導力機関列車『グローリー』。

 一体どこの誰が製作したのか知らないが、なんともまぁ、おこがましいというか、変な名前である。

 そんな列車に乗った魔王一行は、目的地、アルゼンフォーエムスに向かっていた。

 なのだが。


「聞こえなかったの?下げてといっているのだけれど」


 ビーチェは、注文した紅茶を持ってきてくれた人に向かって、そう言った。

 魔導列車の客車両はほとんどが個室制である。

 車両一つにつき5個の個室があり、先頭の動力機関車を除き、10。

 その内『乗務員専用車両』が一号車。

 『食堂車両』が五号車。

 『購買車両』が六号車。

 『貨物車両』が十号車。

 『自由席』の九号車があるので、実質的に個室制の客車両は五つ。

 さながら、どこぞの魔法学校へ行く列車のように、いやそれよりももっと豪華にした感じの、そういうなれば、あのロンドンの考古学教授と助手の謎解き第二弾で有名な、『陸を走る豪華客船』の、もう一段階上を行くような感じの列車である。

 

 グドログッセンを離れはや一日が経った。

 個室のベッド、なんと寝心地の良い事か!

 ちなみに個室のベッドは二つ。どうしようかと悩んだ末に、ルシアはクッキーが入っていたバスケットに毛布を引いて寝かせた。意外な事に、ルシアからの提案だった。

 で。

 とりあえず起床し、ルームサービスとして、ケーキと紅茶を注文した。

 え?お金は無かったんじゃないのかって?

 ふ、そこもちろん……ねぇ?

 で。

 ビーチェが乗務員にいちゃもんをつけ始めてしまった。


「…………」

「あぁ、ごめんなさい。貴方の側頭についているそれは『飾り』だったのね。ごめんなさい、気配りが足りなかったわ、じゃあもう目障りだから何処かに行ってくれないかしら?」

「…………」


 ヤバイ。

 乗務員さん、怒りで手が震えてらっしゃる。

 

「ま、まぁ。この子、ちょっと不幸な境遇で、人間不信といいますか、そんな感じなので、ちょっと許してやって下さい」


 とかなんとかで、苦労と押し問答の末乗務員を下がらせる事に成功する。

 ゴンッ!という音は無視の方向で。


「……お前なぁ、我が侭言い過ぎ」

「だって、本当の事でしょう?」

「え、これそんなに安い紅茶のか?」

「いえ、『飾り』の事」


 ああ、「耳」の事ね。


「お前って、いつか絶対殺されそうだよな」

「失礼ね、アレは試練よ」

「はぁ?」

「客のどんなクレームにも対応できるように、私が試したのよ」

「何様のつもりだ」

「悪魔天使様」


 そういえば、マステマというのは、人の善性を試す悪魔だっけ。

 お客様と言わないところが、なんとまぁこいつらしい。


「だからってそういうのをしてはいけません。ていうか自重しろ」

「してるわ、十分に。貴方は『自嘲』しなさい」

「? いやしてると思うけど……」

「あ、ごめんなさい。私が言っているのは『自』らを『嘲』るの方よ。そうよね、貴方、バカだもんね、解らなかったわね」

「そりゃわかんねぇよ!バカとかの問題じゃねぇよ!」


 とかなんとか。

 悪魔天使(巫女)と雑談を楽しみ、

 そろそろ籠で眠る闇の魔女(15センチ)を起こそうとしたり、

 旅はえらく順調に、そう、順風満帆に、進んでいた。

 外の空は夕日に照らされ、うっすらとした月が、ぼんやりと姿を現そうとしていた。

 今夜は、満月か。




 ◇◆◇




 いつだったのか、よく覚えては、いないのだけれど。

 それでも記憶を探ってみると、どことなく、ぼんやりと、覚えてはいる。

 深い。

 深い、それはもう深い、闇の中で。

 俺は、いやその時はまだ幼く、自分の一人称が『僕』だった頃の話なのだけれど。


 僕は、少女に出会った。


 それはそれは美しい、女神と呼ぶに相応しい、少女に出会った。

 けれどその子は、その美しい少女は、女神では無いという。


 元女神なのだという。


 世界の禁忌に触れ、犯され、穢された、元女神だそうだ。

 そして封印された。

 少女は誰もいない世界で、封印されていた。

 僕は、その美しい少女の封印を、解いた。

 偶然でもなく、運命でもなく、言ってみれば、必然。

 母親にそそのかされ、父親にそそのかされ、彼女を見て可哀想、助けたいと思うような思考回路を形成させられていた僕が彼女を助けたのは、必然。


 そして僕は、『力』を得た。


 彼女の、その身に宿る『聖なる呪い』を、引き継いだ。

 《闇》だ。

 そうして僕は、《闇の皇帝》になった。

 全ての闇を統べる資格と力と権利を得た。



 まぁ、本当にどうでもいい、何てこと無い、話なのだけれど。

 そう、ずっと、ずぅっと考えてきた、二年前からずっと考えてきた事の、ちょっとした地ならしというか、情報整理みたいなもんだけど。

 あの、俺が悪魔に襲われた時から、ずっと考えている事の、情報整理。

 

 《あちら》と《こちら》

 《扉》

 《呪われた皇子》

 《光の姫君》

 《闇の皇帝》

 《狂った勇者》

 《悲劇》

 《狂った魔王》

 《封印された力》


 結局、何のことだか解らずじまいで、こんな年月が経ってしまって。

 確かルシアもあの時、「平穏な時間は、まだ続くから」と言っていて。

 結局平穏な時間は終わってしまい、戦乱の世に突入しちゃって。

 ……あぁもうまじメンドクセェ。


 

「……おぉ」

「ん?どした?」

「ダークチョコクッキー……」

 

 てね、そのあたかもキーパーソン的立場にいるはずの魔女は、あろうことかクッキーにうつつを抜かしているのだ。

 真面目に考えるのもバカらしくなる。

 

 ところで。

 我らが悪魔天使様は寝てしまった。なんだかんだ言っても、彼女は彼女で思うところがあるのだろう。

 先日、彼女は居場所をなくしてしまった。

 呪い。

 《架魅隠しの呪い》という、自分以外の人間の記憶と、足跡と、痕跡を消す呪いをかけられてしまった。

 それ以前にも、母を亡くし、それが自分の所為であったという事で悩んでいた。

 精神的な、苦痛。

 心の傷。

 できればはやく、彼女にはそういう問題に区切りをつけて、立ち直って欲しい。

 ああやって過去の事で悩み続けるなんて、人生を損にするだけなのだから。

 

 ともあれ。

 秀兎とルシアは、購買車両にいた。

 秀兎は適当に闇を使って創った礼装服。

 ルシアはドレス。今回は白を基調として、黒い装飾や刺繍を映えさせたドレスをチョイスした。

 まぁ創ったのは秀兎なのだけれど。


 それはともかくとして。

 購買車両。スゲェ。

 パネェと言ってもいい。

 とにかく、スゲェ。

 車内アナウンス曰く、ありとあらゆる中央大陸の特産品を取り揃えているらしい。

 車内の装飾なんかも、凄い。

 

 まぁ、ともあれ。

 俺はルシアが腰を屈めて眺めている、ショーウィンドウの向こう側のクッキーを見た。

 ……あれ、俺今、何回話題変えたっけ?

 

「……高級のカカオを使用した、究極のビタークッキー、ね」

「食べたい!」


 一枚一枚丁寧に銀紙で包まれている。高級感溢れるなぁ。


「えーでもこれ、カカオ95%ってかいてあるぜ?」

「食べたい!」

「苦いと思うよ?」

「食べたい食べたい!」

「あーわかったわかった!駄々こねんなよ!」


 この格好で駄々をこねられると、物凄く精神年齢が低く見えて、近くにいるのが恥ずかしい。

 ていうかこいつ、お金持ってなかったっけ?

 もしかして全部使ったとか?

 そんな事は、……無いといいんだけどなぁ。

 とりあえず、一枚200ゾルするビタークッキーを五つ。合計1000ゾル。

 ルシアはさっそく包みを開た。


「ふんふふんふ~ん…………てにがぁ!」


 食えるかこんなモン!と残りの四枚を床に叩きつける。

 店員さんがビックリしていた。


「あーあー勿体無いッ!MOTTAINAーI!」

「うぅ、なんだこれ、にがぁ……」


 お前の味覚はお子様か。

 とりあえずクッキーを回収しポケットに入れ、そこから一つ取り出して包みを外し口に放り込む。

 あ、美味い。

 

「うーん、カカオは怖いな……」

「カカオに慄くな。魔女の威厳はどうした」

「……お、慄いてないぞっ!ただ苦手なだけで……ほら、それ苦いだろ?」


 本人は「苦手」と「苦い」をかけたつもりらしい。

 上手くねぇよそれ、とは言わない。優しい?違う違う。メンドクサイだけ。


「まぁな、苦いっちゃ苦い」

「だろう?」

「お前もまだまだ子供だな」

「なんだと」


 気を悪くするわけでもなく、ただちょっと眉をひそめるくらい。

 彼女は彼女で、今日は機嫌が良いらしい。


「しっかし、魔女がカカオに慄くなんて、歴史上、いや空想の世界においても、お前が初めてかもな」


 いやもしかしたらいるかもしれないけど。

 少なくとも、とても千年を生きる魔女には見えない。魔女見習いもいいところだ。


「な、なんと!私はそんな歴史的偉業を……」

「なんでそんなもんにふるえてんだよ!?」

「…………ふふ、これで私の噂にも箔が付くな」

「……お前、頭大丈夫?」


 なんか、扱いやすいというか、大人しいというか。

 そうだ、スッパリ言うなら「馬鹿」だ。

 かなり「馬鹿」っぽくなっている気がする。

 頭のネジが2、3本くらい抜けたかな?

 それとも大切な回路が断裂したのだろうか?

 とにかく威厳も畏怖もあったもんじゃねぇ。


「レディに頭の具合を聞くとは、やはりデリカシィーの欠片も無いな」

「だってお前、ちょっとおかしいもん。俺なりの気配りだよ」

「気配りが鋭すぎる。もうちょっとこう、ビブラートに」

「オブラートな」


 揺らしてどうする。


「お前、ホントは馬鹿なんじゃないか?」

「失礼な、私は魔女だぞ」

「んじゃあお馬鹿魔女か」

「魔女っ子ルシア☆17歳ですっ」

「いい年こいて何やってんだよお前はっ!」

「なんだ秀兎、ツッコミがなってないぞ!」

「逆ギレされた!?的確なツッコミだと思ったのに!」


 ツッコミの道は険しい。

 

「ていうかお前マジどうしたの?あれか?更年期障害?」

「心配の仕方が失礼すぎる!だからお前いつまで経ってもお前は童貞野郎なんだ!」

「うっ!……思い当たる節々……」

「女性というのはデリケートなのだ、その辺を弁えてろ」

「うぅ……」

「大体お前には何度も言っただろう?デリカシーが無いと。あれから何かを学んだのか?実践したのか?」

「……いいえ」

「だからお前はモテないんだ」

「…………んー。まぁやっぱりそうだよなぁ」

「手始めに私に優しくしてみろ」

「……んー」


 別にモテたいわけじゃねぇけど。

 デリカシーというか、女性に優しいのは、別に悪い事じゃないし。

 それはともかく、ルシアとは長年付き合ってきた仲、いわば幼馴染みだ。シャリーよりも、もっと昔からの。

 親しき仲にも礼儀有り、か。

 改めて考えてみると、なんと実行しづらい言葉だろうか。

 

「……どうやればいいんだろう?」

「そんな事は自分で考えろ」

「うーん」


 どうすればいいんだんろう?

 何をすればいいのだろう?

 うーん……、難しい。

 あ、トイレ行きたくなってきた。


「ごめん、トイレ行きたい」


「恥をしれー!」

「ぐぁーッ!」


 今夜は、世にも綺麗な、満月の日。 

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