《11》荒療治。
それに反応して、《彼ら》が現れる。
蛇。
暗黒の蛇。
暗黒の蛇が、巨大な蛇に、喰らいつく!
父を拘束する、小さな蛇を食いちぎる!
蛇の、共食い。
呆気にとられたのか、魔女の拘束が緩む。
私は、魔女の手を振り払い、駆け出す。
父の前へ。
「…………」
「やめて!殺さないで!」
魔王は、肩を竦めて
「はぁ?何言ってんだよ」
「もうやめてって言ってるの!父を、お父さんを殺さないで!」
「……さっきと言ってる事が違うじゃん」
「気が変わったの!もう人が死ぬのは嫌なの!」
「あんまふざけた事ばっかいってっと、殺すぞ?」
「いいわ、殺しなさい!私も一緒に殺しなさい!」
「…………」
母を殺したのは、お父さん。
だけど!
私を苦しめるのはお父さん。
だけど!
たった一人の肉親ではないか!
母がどんなに無残な死を遂げようが、
それでどんなに私が苦しもうが、
殺して良い理由には、ならないのだ。
「……え~でも、お前、父親殺そうとしてたじゃん」
「だから気が変わったの!」
「殺さないと、お前辛いよ?」
「それでもいい!」
「…………」
「結局、逃げだったんだわ。この場所を消すのも、お父さんを殺すのも、逃げ」
「…………」
「決着なんて、都合の良い言い訳ね。復讐もそう。結局は、自分で、自分の中で解決しなくちゃいけない問題だものね。他人を巻き込むのは、良くないわ」
「…………」
「だから、貴方がもしまだ足りないと言うなら、お父さんと、そして私を喰いなさい」
「……それも逃げじゃないのか?」
「そう、逃げ。私の親しい人間が死んで、私が絶望する前に、私は逃げるわ。お母さんの事も、お父さんの事も、もう決心がついた。だからこそ、私は、私にはお父さんがいなくちゃいけない。たった一人の血の繋がった家族ですもの。その家族と引き離されると言うなら、私は、まよわず死を選ぶわ」
それが、答え。
最善の選択。
絶望は、痛いから。
心が死んでしまう程に、痛いから。
だから逃げる。
最善の選択。
「逃げ」の中でも性質の良い「逃げ」。
「逃げ」の中の「逃げ」。
無謀にあらず。
無茶にあらず。
「で、貴方は今、私たちを喰うの?喰わないの?」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
そして、魔王は。
「……っぷ、ぷぷぷっはははははははははは!」
笑った。
「え……?」
「いや、いやいやいや!」
「な、何がおかしいの?」
「ははははは!」
「…………」
「ひーひー」
「……秀兎、お前、少しからかい過ぎだぞ」
「いやわかったわかったルシアだから殴ろうとするの止めれ……」
「…………」
何が、起こっている?
「いやゴメンごめん、自分でも何が面白いのかわかんねぇ。ひーひー。ひーひーふー」
いや、何もわかんないのに笑っているの?
「うんうん、良い決意じゃんか。お兄さん見直しちゃったよ」
いや、だから、どういう事?
「お前って本当面白いなぁー。ひーひっひひひ」
「ねぇ、一体どうしたって……」
「秀兎、からかってないで種明かしをしたらどうだ」
「種、明かし……?」
「ほいほい」
魔王は指を鳴らす。
すると突然景色が割れる。
ガラガラと、ガラスのように割れて、「本当の景色」が、目に映る。
「あれ……?」
そこは、儀式場。
ただし人間がいる。
喰われていた人間が、いる。
気絶している。
父も、従者も、料理人も、貴族たちも。
皆気絶していて。
私は、その、なんの変哲も無い場所で、へたりこんでいた。
「は、はれ……?」
夢うつつ、というのだろうか。
狐に化かされた、というべきなのだろうか。
地獄の光景が、悪夢のような光景は、そこには無かった。
「あ、ああ、あああ、…………はぁ」
安堵する。
今、魔術で神経系を走査して、わかった。
だから、安堵する。
「酷い人……」
憎いとは思わない。
半ば強引だが、私の心には決心が出来てしまったのだから。
そう、言ってみればこれは荒療治。
即急に決心を固めさせる為の、仮想イベント。
「ごめん。でもまぁ手っ取り早いし」
魔王はそういって笑う。
「トラウマ級の《幻覚》だったわ」
「ありゃりゃ、それはそれはゴメンね」
全ては幻覚だったのだ。
全てが幻覚だったのだ。
彼の目を見たときにかけられた幻覚魔術で見た、幻だったのだ。
従者が、生きている。
料理人が生きている。
貴族たちも生きている。
父も、無傷。
「…………」
嬉しすぎて、涙が出そうだ。
私に優しくしてくれる人物が、生きている。
家族が、生きている。
嬉しい。
嬉しすぎる。
本当に、涙が出そうだ。
「でも面白かったなぁー。まさかお前が、あんなことを言うなんて」
「もうやめてって言ってるの!父を、お父さんを殺さないで!」……。
「……悪夢ね」
まさか、我を忘れて、あんな事を言うなんて。
自分でもびっくりだ。
恥かしい。
我ながら恥かしい。
「でも、……ありがとう」
本当に、ありがとう。
「はいはい」
魔王は素っ気無く応える。
「貴方の荒療治で、決心がついたわ」
「別に逃げるのは良いんだけどさ、逃げ方は間違えんな。それだけは言っておく」
「うん」
少女の笑顔。
可愛らしい、人間味のある笑顔。
こうして、闇に堕ちた少女の心は、少しだけ、強くなった。
◇◆◇
それとはまた少し別の話。
「あ~あ。闇の巫女、結局死なないじゃん」
「エ~、そんな事言わレても僕ニハ荷が重過ぎルよ~」
「まぁ、今回はいいわ。魔王信仰と偽って、大量の信者どもの魔力が手に入ったし。それにあの子にはもうちょっと不幸になってもらいましょ」
「働いタのは僕だけどね」
「うるさいわね~。貴方がそんなんだから私が《教祖》に怒られるのよ!」
「それは単に赫夜が仕事をサボりまくる所為で……」
「だまらしゃーい!私は上司なのー!上司は部下の手柄ぶんどって何ぼのもんでしょー!」
「ウー傲慢だナー」
「部下に恵まれない私、なんて不幸なの……」
「ああー、上司二恵まれなクテ不幸だなー」
「何ですってー!」
これは、少しだけ違うお話。
広がる事宇宙の如し。
てね。自然と広がっていく風呂敷、そして多様に張り巡らされた伏線の網……。
格好良いこといってるみたいでそうじゃない。
……ようはごめんなさいこんな作者で orz。って事です。
こんな作者でもよろしかったら、感想なぞ、待ってます。