《10》上位種。
今回は多少グロいです。
そういうのが苦手なお方は読むのをお勧めできません。
月並みですが感想なぞまってまーす。
深夜。
闇夜。
満月。
今日は、魔王信仰者どもの礼拝がある。
闇の巫女であるビーチェは、私室で祈祷用の服に着替える。
黒の生地と銀糸と銀の装飾で飾られた修道服。
元々引き篭もりがちで、あまり日光に晒さなかった白い肌が、一際白く見える。
着替え終わり、私室を出る。
従者が先導し、地下の礼拝堂へ向かう。
母が、磔にされていた場所。
私が嫌う、忌みとする場所。
今日こそ、今日こそ、決着をつける。
死にたいとは、思わない。
決着をつけて、私は、外の世界へ。
母を生贄に捧げた人間たちを。
母に無残な死を残した人間たちを。
私に鞭打つ、人間たちを。
決意しろ。
逃げるな。
私は人間じゃない。
ビーチェはそう、自分の心に言い聞かせた。
◇◆◇
《----------》
祈祷が始まる。
一定の声量で、決められた祝詞を、言う。
すると、普段とは違う、奇妙な声と響きで、その祝詞は発せられる。
私だからできる事。私にしか、できない事。
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多分信者達も何を言ってるのか解らないのだと思う。
とにかくはやく終わらせよう。
はやく終わらせて、決着をつけよう。
そうしなくちゃ、そうしなくちゃ私は、死んでしまうから。
心が痛くて、痛くて、もう死にそうだから。
はやく終わらせよう。
そして、その願いが通じたのか、それとも単なる偶然だったのかは解らないが。
彼女の前、紫に輝く魔法陣の中心で、闇が、グムグムと膨れ上がった。
◇◆◇
闇が、形を成す。
黒髪の男と、銀髪の女が現れる。
魔王と、魔女。
「お、おお……」
信者たちがざわめく。
「ま、魔王様だ……」
「闇の女神様までいるぞ!」
「なんという禍々しさだ……」
信者たちが、震えた声音で、言う。
それは忌避でもなければ、侮蔑でもない。
魔王は真っ黒なマントをつけていた。銀の装飾が控えめに目立つ。ちょっと古風な吸血鬼に見えた。
魔女はドレス。私と同じ、銀糸と銀の装飾が目立つ。
父が、私の父グリーデン・カルマが、魔王の前に出て、跪く。
戦士、そう思うほどに父の体格は大きく、顔つきも雄雄しい。
「ようこそお出でくださいました、魔王様、闇の女神様」
「ふむ、気紛れに顔を出してみたが、別にどうという事も無かったな」
「宴をご所望でしたら、すぐさま晩餐の準備にとりかかりますが?」
「いや、そうだな…………、おいそこの娘、こっちへこい」
魔王は、つまらなそうな、本当にどうでも良いような顔でいう。
「…………はい」
渋々従い、祭壇にのぼる。
本当に、何を考えている?
貴方は、私を助けてくれるんじゃなかったの?
何をしようと言うの?
聞きたい事はたくさんあった。
「…………」
「……何をするつもりなの」
すると魔王は、彼は私の目を見て、言った。
「見てりゃ解る。目を逸らすなよ」
魔女が、私の肩を掴み、固定する。
抗えない、動けない。
そして父が、言う。
「お気に召したのでしょうか?」
「まぁ、ね」
でも、と魔王は言った。
「まだ足りないから」
なって言って。
そんな事を言って。
そんな、特にどうでもない、いやもしかしたらふざけていた様な、軽い言動で。
そして喰った。
何が起きているのか、理解するのに、少しだけ、本当に少しだけ、時間がかかった。
まず見えたのが、血。
そして悲鳴。
魔王の影から伸びる、黒い蛇。
その蛇が。
その黒い蛇が。
禍々しい蛇が、信者を、喰ってる!
魔王の影から伸びている!
数本、いや数十本!
蛇が、黒い蛇が!
「な、なな何を……!」
動揺して、上手く喋れない。それでも伝わったのか、魔王は、平然とした表情で、言った。
「喰ってるの」
それは、至極当然、当たり前な話。
「な、なんで!」
「お腹空いたから」
「…………!」
お腹が空いたから?
待て、待て待て待て!
に、人間を、喰っている?
ひ、人が、人が悲鳴を上げて、蛇に飲み込まれる。喰われていく。
「たすけ」
「やめ」
「う」
とか、なんだ、なんだ、なんだ!
「あ、ああ、ああああああああああ……」
声が、出ない。
震えている。
なんで、なんで喰ってる?
仮にも、貴方を信じていた人間なのに。
なんで。
「いや……」
なんで、なんで!
なんでそんなに平然としていられる!
平然と命を狩れる!
「い…いや、や、やめ……」
「え、なにー?」
「やめて……」
「なんでだよ、お前だってやろうとしてたじゃん」
「!」
そ、そうだ。
私は、今日、ここにいる人間を……!
こ、殺そうと。殺そうとしてた。
「ひ!」
私をここまで案内してくれた従者が、喰われる。
「う!」
美味しい料理を作ってくれる料理人が、喰われる。
「たすけ」
貴族たちが、喰われる。
「う、あ……」
目の前に転がってきた人間の、上半身。
下半身はもう無い。
涙を流しながら、何かを言おうとする。
「おっとミスった」
黒い蛇が、攫い、そして飲み込む。
魔王は、彼の影から這い出る蛇は次々と、人間を、喰っていく。
私に優しくしてくれた人達が、喰われていく。
どうして、どうして、そんな平然としていられる。
なんで、なんでなんで!
「なんで!」
「だって、俺、魔王だもん」
ま、まお、う……。
…………そうか。
そうだ。
そうだった。
考えてみれば、そうじゃないか。
何を勘違いしていたのだ。
彼は、魔王なのだ。
昨日、あんなにぬるい表情でも、彼は、魔王なのだ。
残虐にして残忍にして冷酷、卑劣、冷血、ありとあらゆる恐怖と憎悪と非難の象徴。
魔王。
魔の王。
全ての闇を統べる者。
全ての魔を統べる者。
全ての邪を統べる者。
光を嫌い、聖水を嫌い、神を憎む者。
闇の王。
闇の皇帝。
人間よりももっと上の、それこそ恐れ慄き信じてはいけない者。
上位種。
人間は、彼より下位の、それこそ家畜同然、食料同然、ムシケラ同然の存在で。
彼が人間を喰おうが何をしようが、彼の、勝手で。
一般常識。
自然の摂理。
弱肉強食。
何をしている?
食べているのだ。
私が、肉を、野菜を、自分より弱い存在を食べるように。
彼も彼より弱い存在を食べているのだ。
当たり前。
生きる為の行為。
だけど。
だけど!
その人達は、私に優しくしてくれた……。
そんな事を思っているうちに、魔王は、魔王は父以外の人間を、喰って、喰らい尽くしてしまった。
「これでお前は殺人で罪の意識を背負う事もないし、俺はお腹も満たせて、ほらどっちも得して万々ざ~い」
「な、だからって……」
「う~ん腹八分」
父が、言った。
「ご満足頂けませんでしたか?」
「う~ん、微妙。もっと良質な人間が喰いたかった」
「では私めも」
「うんそうするー。お前は中々鍛えられてて、魔力の質も良さそうだし」
影が膨れ上がる。
蛇が、黒い蛇が出来上がる。
父を喰うための、蛇。
巨大な、蛇。
「ふむ、まぁ俺も鬼じゃねぇしな」
小さな蛇が、黒い蛇が影から伸びる。
父の四肢に喰らいつく。
拘束される。
「死ぬ前に娘となんか喋っとけ」
「…………」
しかし父は。
「……いえ、話す事などありません」
魔王は。
「あっそ」
と言って
「んじゃ」
蛇が動く。
真っ黒な、暗黒の蛇が。
巨大な顎を開く。
血のように赤い瞳。
血のように紅い口内。
父に迫る。
「や……」
私は、多分満身創痍で。
「や……」
その時はなにも考えられずに。
「や……」
父との思い出を振り返り、笑顔を思い出し。
「や……!」
そうして、言った。
「ヤメロォォォォォォォォオオオオオオオオ!!」
そう叫んでいた。