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《1》孤独の城

誤字、脱字、おかしな文章は見つけ次第修正します。

 

 闇の、奥の奥の奥の奥の奥。

 

 そこは孤独の城。

 悲しい女神が住まう城。

 赤い赤い月が昇る城。

 


 ――《幻想と魂の牢獄セイチ》――


 

 

 

 

 と、言うのがこの城の名前だった。

 城といってもそんなに大きな物ではなく、まるでRPGに出て来そうな、つまり典型的な城だった。

 四角い城壁に尖がった屋根。中庭はこじんまりとした、そんな城。

 孤独が埋め尽くす城。


「…………ふわぁ、良く寝た……」


 しかし、


「……お前はどうしてそんなに能天気なのだ?」


 別にこの城は孤独ではなった。

 

「いいじゃんかよー。あれだぜ?もうかれこれ二年だぜ?何もしなくても飯食ったり出来る超すげぇ夢の空間にきて、二年なんだぜ?」

「元々緩んでいた神経がもっとユルユルに……」


 元々のこの城の主が、呆れた表情で言う。



 力を取り戻し始めたのか、徐々に白髪から銀髪へと変わり始めた、艶やかな髪。

 細い、しなやかな肢体に、美しい肌。

 悪戯っぽい、吊り気味の、鮮血を湛えた瞳、長い睫毛。

 可愛らしい様で、それでいて大人びた、不思議な容姿。



 女神、では無い。

 彼女を女神と呼ぶには、余りにも妖し過ぎる。

 そう、一番しっくり来る表現は、


 《魔女》だ。


「まったくお前は。何も変わらないな」

「褒め言葉ですな」

「けなしてるのだが……」


 魔女の名前はルシア・クワイエットアンデッド・ダークキス。

 この《魂と幻想の牢獄》に幽閉されていた女神である。

 ちなみに外の世界でも彼女は伝説級にスゴイ女神なのだ。

 

「女神じゃない。魔女だ」

 

 と本人は言うのだが。

 

「別にどっちでもいんじゃねーの?」

「ニュアンスが違ってくるのだ。それに易々と『女神』は名乗れない」

 

 ルシアは寂しげに言う。

 彼女がここに閉じ込められて、もう千年だ。

 約八百七十六万時間。

 まぁ百年の度に記憶と身体を《転生リセット》しているのだけれど。

 ちなみに今彼女はれっきとした十七歳だ。

 

「いやぁ〜でもまぁ、あんまし成長しないなぁ」


 あらためて自分の身体を鏡で見る。

 真っ黒で寝癖の酷い髪と、眠そうな瞳。だらけきった服。

 封印されたのは二年前、つまり十五歳。

 身長はそれほど伸びず大体172cm程度。それほど大きいわけではなかった。

 

「……お前のこの二年間の睡眠時間を教えてやろうか?」

「何時間よ?」

「……10220時間」

「えっと、二年で大体17520時間だから…………、……寝たりねぇな」

「寝足りないだと!?お前は一日14時間睡眠しているのだぞッ!?」

「俺、一日18時間寝ないと活動できないんだ……」

「そんな事でニヒルを気取るなこのタコが」

「別にタコでもいいですけどねー。触手ウネウネ」

「……お前と会話していると、かなりやる気がそがれるな」

「そりゃどうも」

 

 秀兎はゆっくりとした動きでベッドから起き上がる。

 別にする事も無い。

 本を読んだり、身体を鍛えたり、魔女とお茶したり、そんな感じ。

 そんな毎日だ。

 そんな毎日だった。


「ま、これだけ居りゃさすがに名残惜しいけどな」

「私は別にそうでもないな。もう見飽きた」

「いやでもあれだぜ?ここ、何もしなくても楽チンな生活ができるんだぜ?」

「お前はそれだけで本当に幸せか」

「いや全然」

「ほらな」


 生きているだけ。生かされているだけ。

 なんとも言えない拘束感。

 籠の中の鳥の気分。

 暇な毎日。

 くだらない時間だけが過ぎる。

 

「服装はどうしよう?」

「ん、……まぁ魔王の名に恥じない服が望ましいのでは?」

「俺黒が良いわ」

「では黒で」


 秀兎がかかとを鳴らす。

 カツンッという音が響き渡る。


 すると、ルシアの足元から、ズモモモモッと闇が這い出る。


 その闇が彼女の周りで踊り、舞い、彼女の身体にまとわりつく。

 その闇が徐々に形を成す。

 手にまとわりついた闇は滑らかな生地の手袋に。

 身体には豪勢な黒と金のドレス。金の装飾がよく映えている。

 

「ふむ、さすがにこれはやり過ぎじゃないか?」

「いや、いいと思うけど?結構似合ってる」

「似合わないと言ったら殺すところだったぞ」

「殺すのかよ……。意外と繊細ですな」

「冗談だ」

「いや解ってるよ」


 再びカツンッと言う音。

 闇が這い出て秀兎の衣服になる。

 黒を基調とした、鎧と布が合わさった服。軽鎧、とでも言っておこうか。

 赤い刺繍や装飾がよく映えている。


「ふむ、中々のセンスじゃないか」

「あーでもこれちょっと重苦しぃーなー」


 と少し猫背になると。


「あぁ、いつもの状態になってしまった……」

「ん?何?」

「お前は何を着ても変わらないな。なんと言うか、疲労感や徒労感の類がにじみ出てきているぞ」

「そんなに疲れて見えるのか?」

「人生に絶望した家畜の雰囲気に似ているな」

「家畜!?何だよそれ!見たことねぇよ!」

「む、間違えた。人畜か?」

「リアルでもっと酷い!」

「いやもっと人間味があるな。そう例えるなら、…………うつ病患者?」

「病気じゃねぇーよ!!」


 なんてくだらない会話をしながら二人は歩く。

 

「そういえば肉が食いてぇなー」

「向こうに行けば食い放題だろう?」

「ただの肉じゃねぇよ」

「人肉か?あれは不味いぞ。喰うに値しない」

「人じゃねぇよ!てかちょっと待て、その発言だとすでに喰った事があるのか!?」

「馬鹿な人間共が生け贄によこした男を喰ってみたら不味くて……」

「…………嘘だよね?」

「嘘だが?」

「なんかホントみたいで怖いなぁ……」


 なんて他愛も無い会話しながら歩く。


「だが肉は良いな。良質な肉は魔力の回復も早いし」

「え?そうなの?」

「何だ知らないのか。魔力は生物が生きる為に生成するエネルギー、当然食物からでも摂取可能なのだ」

「へー」

「しかし養殖物は駄目だな。あれは魔力の質が余り良くない。食べるなら天然で、なおかつ霜降りの少ない物が好ましい。魔力は体液なんかにはよく溶けるが脂質には溶けないのだ」

「さすがルシアは博識だな。何でも知ってる」

「まぁそれ位は嫌でも覚える」

 

 と、どうでもいい話をして……。



 たどり着いた場所は、狭い部屋だ。



 部屋は四方に複雑な魔法陣が刻まれており、中央に白い剣が刺さっていた。

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