《6》迷宮庭園の少女が誘う先に。
……いや、もしかしたら、偶然にその名に行き着いてしまったのかもしれない。
なんにせよ、これはルシアに聞いてみる他ない。
ここは適当に誤魔化そう。
「えっと、いい、名前だな」
「ええそうよ。マステマっていうのは、世界で唯一神に認められた悪魔天使の名前なの。それに、《闇》が入っているのよ。素敵でしょう?」
…………へぇ、マステマって、悪魔天使なんだ。それは知らなかった。
「どうしたの?難しい顔して」
「……あ、いや、んまぁ、ちょっと考え事をな」
「そう。そんなことよりも貴方、何でもいいからお話しましょう?あっちに迷宮庭園があって、小さなのテラスがあるわ。そこに行きましょう」
「いや、その、俺は――」
「反論は認めません。行きます」
手を掴まれてしまった。
「…………、……はいはい、解りましたよお嬢様」
少し気になる事もあるし、紳士的な意味で、ここは素直に従うことにした。
迷宮庭園を進む。
ビーチェが話しかけてきた。
「私、趣味は古代文学なの」
へぇ、意外だな。と相槌を打ち。
「俺もよく読むぜ」
話を続ける。
「貴方は漫画派なの?それとも小説派?」
「どっちもだ。昔の人間は今と違って想像力が違うからね。読んでて楽しい」
「ちなみに私の書斎には10万3千冊の小説と漫画が置いてあるわ」
「さも本当のように嘘を言うなお前はー。適当に魔導図書館が記憶している禁書の数を言ってんじゃねぇ」
それに古代文学そんなたくさんないし。まだ解読されてないし。
「ごめんなさい。でも良いでしょう?活字中毒なんだもん」
「なんでもかんでも活字中毒の所為にするなよ、誤解されちゃうじゃん」
「あら?でも私、人を包丁で刺した時はこの言い訳で許されたけど?」
「何でそれが通るんだよ!駄目じゃん!活字中毒とかじゃないじゃん!」
「そういえば、おはぎに針を入れたときも、それで通ったわ。活字中毒じゃないとしたら、悪戯、と言ったのが功を成したのかしら」
「だからなんでそれが通る!あとそこはタバスコにしとけ!針じゃ悪戯の域を超えちゃってるから!」
「後で貴方にもお見舞いしてあげましょう」
「怖いわ!迂闊に食物が食べれねぇだろ!」
「後悔はさせないわ。食べた瞬間に昇天できるよう、猛毒を仕込んであげちゃいます。活字中『毒』だけにね」
「上手くねぇよ!毒じゃなくてタバスコとかにしろよ!まだ可愛げがある!」
「なるほど、刺激物を所望しているのね。ならお望みどおりにしてあげる」
「ふぅ、やっと安心――」
「ハバネロにしておきます」
「出来ねぇ!ていうかお前はなんなんだ!俺をどうしたいんだ!」
可愛げを通り越した。憎しみになる。
ていうか、普通初対面の人間同士で、こんなに喋れねぇぞ。
「覚悟すると良いわ。私、自慢じゃないけどしつこさにかけては悪魔も怯えるくらいなの」
「悪魔も怯えんのかよ……。そりゃ性質が悪いね……」
「まぁ私は、初対面で童貞の貴方がどうしようとどうなろうとどうでも良いし興味も無いけどね」
「だったら今の会話は何だったんだ!それと俺の個人情報が!ていうか三段活用で酷い事言うなよ!仲良くなれたと思ってたのに傷付くだろ!暴力だ!お前は言葉の暴力を行使している!」
精神的に傷付くよ!
「もしかしてこの会話程度でフラグが立ったと勘違いしているの?馬鹿ね、こんな言葉遊びでフラグが立ったら、世界中が言葉の嵐に見舞われちゃうじゃない」
「言葉の嵐!?言葉は天災にまで進化できるのか!?」
「私ならしてみせるわ」
「断言した!」
「コエカタマリンを使えば良いのよ」
「天災かどうかは置いといて、確かにあれは兵器になる!」
飲んで喋りまくる。言葉のマシンガンの完成だ。家とか潰せそう。
「『〆(しめ)』という言葉が記号の状態で固まれば、空飛ぶ包丁の完成よ」
「そうかもな。あれ、発した瞬間に音速で一直線に飛ぶんだってよ」
「あら、もうツッコミは良いの?」
「さすがに疲れたよ……」
「じゃあお詫びに豆知識を一つ。知ってる?古代には警察って言う組織があって、悪人を取り締まっていたそうよ」
「お前はすぐさま逮捕されそうだな……。まぁ、漫画とか読んでりゃ結構出てくるから、警察くらいなら知ってるぜ」
「ツッコミって、昔の警察の隠語の意味もあるんですって」
「へぇ、ツッコミから連想される物騒な意味なんて、俺には思い浮かばないな」
「**」
「はっ!」
「納得したでしょ」
「しまった!思わず本当に納得しちゃった!」
「ちなみに**はウソ」
「納得しちゃっただけにショック!」
「本当は***」
「同じじゃねぇか!」
「違うわ、漢字か英訳かの違いがあるじゃない」
「そりゃそうだけどさ!意味は一緒じゃねぇか!」
「貴方、本当にツッコミ大好きね」
「さっきの意味を照らし合わせると、俺が物凄い変態みたいに聞こえるぞ!」
「ほらまたツッコむ」
「俺完全に変態じゃん!」
まぁ、意味が解らない人のほうが多いと思うけど。
「お前、俺を虐めて楽しいか……?」
「楽しいわ、貴方にツッコまれると気持ち良いの」
「嘘を吐くな。ていうかお前、完全に俺を貶めようとしてるだろ……」
さっきの話の所為で、俺が変態に貶められている。
「ニンゲン誰しもそうよ。誰かを貶めなければ生きていけないの、ニンゲンだからこそ、ね」
「達観してるなぁ。何かの受け売りか?」
「何の事?私にはむつかしくて解らないわ」
「今時の女子は「難しい」を「むつかしい」と言ったりしない」
「まぁ私の場合、未練というか、羨みというか、そんな感じなのかもしれないけど」
「んぁ?」
「なんでもない。それより貴方、ホント忙しなくツッコむわね」
「(この場合は普通の意味で良いんだよな……?)まぁ、お前との会話はツッコミ所満載だよ……暴力も良いところだよ……」
「変態ね」
「だからその話を引っ張るな!」
迂闊にツッコめないじゃん!
知りたくなかった!ツッコミの隠語の意味なんて!
とまぁ、知っている人にはもうこれ禁止用語にした方が良くない?と思ってしまうような会話が繰り広げられ……。
行き止った。
目の前には草で出来た壁。
…………。
「着いたわ」
言い張られてしまった。
「えぇっと、でもこれ行き止――」
「童貞は黙って」
「…………」
なんだよ!なんで童貞だからって蔑まれるんだよう!
「は?そんな当たり前のことも判らないの?童貞は狩られる側にいるからよ」
「じゃぁ、処女は?」
ビーチェは、可憐で、凄惨で、本当に心から楽しそうに、微笑んで、言った。
「簡単じゃない。――――売る側よ」
――ドン引いた。
いやしかし、ここはツッコんでおこう。
「違う!断固として違う!」
全国の健全な男子に謝れ!
「それともストレートに捧げる側と言ったほうが良かった?」
「…………言い回しになってねぇぞ」
「あらあら弱気になちゃって。まぁ貴方がストレートな回答に弱い純情へタレチキン君だという事は捨て置いて」
「……お前は本当、満面の笑顔で酷い事を言うよな……」
全国の毒舌キャラもビックリなくらい。
顔はさ、純粋無垢に可愛いんだけどさ、毒舌っつーか、なんつーか、もう言葉の刃だった。
言葉の刃の嵐だ。もう精神的にズタズタ。
性分なんだろうけど、それに逐一ツッコミ(変な意味じゃないよー)を入れてしまう。
自分でも驚いた。
ていうか。なんで俺の周りには、優しくしてくれる女の子が来ないんだろう。
ヒナ(嫁)とシャリー(幼馴染み)と莉鵡(妹)くらいだったなー、俺に優しくしてくれたの。
別に俺、Mじゃないんだけどなー。
女難かなー。S女の難かなー。
肉体的にも、精神的にも、参るなー。
…………はぁ、不幸だ。
「クリュベルト」
なにか呪文のような物を、ビーチェは呟いた。
と同時に、地面に、五亡星と変な渦みたいな模様が組み合わさったような、奇妙な魔法陣が照り出した。
目の前の草の壁に穴が開く。
グニョォ、という擬音が付きそうな、そんな感じで。
ビーチェは何の躊躇いも無くその、人一人分くらいの大きさの穴をくぐる。
秀兎は少し躊躇いながらも、その穴をくぐる。
「あら?」
不意にビーチェがこっちを見た。
「どした?」
「……いえ、なんでもない」
「?」
少しだけ奥に進むと、そこは。
小さな、本当に小さな、庭だった。
清らかな水と、美しい花々が咲き乱れる。
暗闇の天井。煌々と光る星たち。
そしてそこに充満する、闇。
いや、闇に同化した、化物共。
やばい、数が多すぎる。
「さて、テラスはあそこよ」
ビーチェが指差す方向に、こじんまりとしたテラスがあった。
白いテラス。大理石か何かで出来ているのか。いやそれよりも白い。
「さ、いきましょ」
そう言って、手を握られる。
テラスまで行くと、そこにはすでに見知った顔の先客がいた。
魔女だ。
「あら、闇の魔女様はすでにご到着のようね」
しかも、彼女は彼女の存在も知っているようだった。
益々混乱する。
実にメダパニだ。メダパニック。
「さて、これで全て揃ったわ」
と、ビーチェは。
今までのキャラを完全にぶち壊す可愛らしい声音で、本当に可愛らしく。
笑う。
「さぁ、お喋りしましょう?本当の魔女と、魔王様?」
と彼女は、そう言った。
やっちまったー。ほとんど会話劇だー。
てね、ついついやってしまいました、後悔しています。でも楽しかった。
文章の形とか、中々定まらないなぁ……。
でもああやって会話だけでやるのって、なんか新鮮で楽しかったです。
ちなみにツッコミの隠語は、まぁ、気になる人は調べてください。Wikiあたりで。
二章って、どれくらい続くんだろう……?