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《5》闇の名

 

 グドログッセンの首都、グッセンから少し離れた、閑静な場所に、一際大きな屋敷があった。

 グリーデン公爵という、中々に有名な貴族の屋敷だそうだ。

 さすが有名貴族の屋敷といったところか、警戒が厳重だ。

 

 館の様子を、秀兎は少し離れた木の上から見ていた。


「うーん、さてどうっすかなー」

 

 ルシアとの昼食にて話し合った結果、ここらで一番お金持ちのこの館に侵入し、金を盗むという事が決まったのだが。


「良心が痛むなぁ」


 犯罪だ。完全に犯罪だ。まぁ魔王だから仕方が無い、とは言えないわけで。

 何の罪も無い一貴族から、金を強奪。

 駄目だろ。道理とか倫理とか、その辺を考慮しなくても、駄目でしょ。

 とにかくいまいち決心がついてない秀兎は、しばらく遠巻きに館を観察する事にしていた。

 

「…………んー」


 窓から見える限り、廊下には高そうな壺や絵画が置いてある。

 結構な成金趣味なのか。

 遠くて真贋は判断出来ないが、派手な装飾がよく目に付く。

 お、ハゲでデブで宝石がキラキラしている人を発見。あれがグリーデン公?

 屋敷内に居るであろうメイド、執事、警備員はざっと見50人くらいか。

 まぁ人数は関係ない。闇の力を使えば人に発見されずにいけるのだ。

 それに、決行するとしても夜、辺りが闇に包まれる夜だ。

 闇の力はより一層増す。

 ……って何考えてんだ俺は!

 思考は完全に犯罪者だった。

 

「…………」


 駄目だ。全然決心がつかない。

 たとえ思考が犯罪の事を考えても、理性が働いてくれている。

 嬉しい限りだ。

 とにかく犯罪は良くない。良くないよ。


「あーもう全然駄目だー」

「何が駄目なのかしら?」

「うわっ!?」


 あ…………。


 急に声をかけられて、バランスを崩してしまった。

 落ちる。


「いてぇ!」


 頭が!頭がいてぇ!


「動揺してバランスを崩すなんて、あなたは一体何者なの?少なくとも暗殺者では無いわね」


 と、少女の声。

 真っ直ぐの黒い髪が特徴的な、可愛らしい少女が、目の前にいた。

 多分14〜5歳くらい。


「でもまぁあなたが誰かなんて、本当に些細な問題だわ。ねぇあなた」


 その少女の微笑みは、すごく儚くて。


「私とお友達にならない?丁度暇だったの。お喋りしましょ?」


 その瞳は、どこまでも深い闇色だった。

 



 ◇◆◇




「うーむ、暇だ」


 魔女、ルシア・クワイエットアンデッド・ダークキスは、何の当てもなく町を散策していた。

 

「やはり秀兎を金策に行かせたのは失敗だったなぁ」


 まだ少しだけ金は残っている。宿の代金にもよるが、アルゼンで一夜は凌げるくらいには残っているのだが。

 備え有れば憂い無し。金はいくらでも欲しい。

 いやただ単に、秀兎に嫌がらせをしたかっただけなのだが。

 愚策だったか。


「うーん」


 …………上手く行かない。

 ここ最近、そんな事を考える。

 二人は、長年連れ添った仲だ。

 始まりは、彼女が五歳の時。

 転生をし、全てを忘れ、そして再び絶望した。

 憎々しい牢獄。忌々しい鳥籠。

 そこに、彼は来た。

 彼は私に温もりを教えてくれた。

 胸が温かい。

 そして、その胸の温かさは、段々と熱くなる。

 『恋心』


「恋、か……」


 そこまで考えて自嘲する。

 自分は寂しがりやの、憐れで愚かな魔女で。

 あの時の自分は心が冷たくて。

 そこに優しくされたから。

 

 自分は恋をしてしまったようだ。

 

 狂っている。魔女が、下僕に恋をするだなんて。

 本当に狂っている。

 でも、狂ってもいいと思うほどに、恋は、この温かさ、熱さは心地が良くて。

 

 だけどしかし、どうすればいいのかわからない。


 今更猫撫で声を上げるなんて、恥かしくてしょうがない。

 ………………。


「…………」


 沈み込む。

 これではまるで、本当に恋する乙女だ。

 ……魔女なのに。


 とそこで。


「……む」


 不意に、雑音。

 聞いた事のある、雑音。

 これは、詩鬼紙の足音。

 

「せっかく思考にふけっているというのに、無粋な奴らだ」


 式神ではなく、詩鬼紙。

 詩を唄う鬼の呪詛と毒と血が染み込んだ、紙。

 人に化け使役される、偽物の化物。

 

「…………」


 いた。

 人ごみの中。

 目立つほどに美しい、栗色の髪のニンゲン。

 しかしそれは偽物だ。ニンゲンでもなければ鬼でもない、偽物。

 1、2、3、4……囲まれている。

 

「逃げるのは簡単だが……」


 と、そこで馬鹿なニンゲンが近付いてくる。


「ねぇねぇねーちゃん、俺たちとお茶しない?」

「ひゅー近くで見るとホント綺麗だねー」


 何事かと思ったが、ナンパだった。なんというオールドイベント。

 

「おいねーちゃん――」

「邪魔だ、死にたくなければすぐさま失せろ」

「な――」


 詩鬼紙が、近付いて来た。


「オイ」


 詩鬼紙がニンゲンの肩に手を置く。


「あん?なん――」


「キエロ」


 消えた。

 ニンゲンは、消えた。

 がしかし、彼の取り巻きはそれに気付かない。消えた人間の存在を、一時的に忘れているから。

 取り巻きは散開。彼らは自分が何をしていたのか、わかっていない。


「ルシア様デスネ?」


 詩鬼紙が話しかけてくる。


「ほぅ、詩鬼紙ごときが私に話しかけてくるとは、これまた中々に面白いイベントだな」

「主ノ主様カラ貴方様ヲ招待スルヨウニ言ワレテイマス。我々ト共二来テ頂ケマセンカ?」

「断ると言ったら?」


 すると、詩鬼紙の口調が、変わる。


「我々には止める権利も資格も力もございません」


 片言の口調が、変わる。


「ほぅ、お前、亞真神アマガミか。ふむ、中々に上手い演技ウソじゃないか。感心するばかりだ」

「伝説の魔女様に感心され、ワタクシ恐悦至極にございます」


 亞真神。

 化物の中でも立ちの悪い神種。

 嘘と虚を操る神。


「で、アーテロテーアの亡霊が何の用だ?」

「申したとおり、ワタクシの主の主が、貴方に会いたいと駄々をこねまして」

「はっ!貴様本当に亞真神か?亞真神は、主を持たぬ種族だろ」

「ワタクシ、今まで種族の中でもとりわけ変わり者として蔑まれてきました」

「あぁ、聞いた事があるな。亞真神の、名は失念したが、確かそんな奴がいたな」

「はい、ワタクシかの有名な魔神、サタン様の第一家臣を務めます、ヒュベットにございます」

「あぁ、あのクソ生意気な小娘んとこの。なるほどなるほど。ん?まて、お前の主の主は、サタンと戦ったのか?」

「はい、それはもう完全服従でございます」

「お前、誰の指図で私の所に来た?」

「貴方と同じ、《闇》の名を持つ者です」

「…………」


 どういう事だ。

 《闇》の名を持つ者?

 それは世界で私だけのはずだ。

 こいつは何を言っている?嘘か?いや、たかが亞真神如きが、魔女に嘘をつく筈がない。

 …………。


「わかった、貴様の主人に会ってやろう」

「ではお手を」


 亞真神は手を出してくる。

 ルシアはその手に触れる。


 そして二人は、その場から消えた。

 詩鬼紙も消えた。




 ◇◆◇




 ……まるで自分を見ているみたいだった。

 自分も、黒髪黒瞳。


「君は、…………いやまぁそれはおいといて、お嬢ちゃん、知らない人に声をかけちゃいけないんだよ?教わらなかった?」


 もし襲われたらどうするんだ。


「あら、もしその行動をとったとしたら、その人は一生天涯孤独じゃない」


 ……あ、言い間違えちゃった。


「それに、あなたの意見はどうでもいいの。私が、あなたと、お話がしたい。以上。あなたには反論させないわ。反論している暇があったら爆発しなさい」

「爆発!?なんで俺爆発しなきゃいけないの!?」

「私が楽しいから。以上」

「爆発見て楽しむって、お前はどこの上流階級だ!」

「あら?上流階級じゃなくても爆発を見て楽しんでいる人はそこらへんにホイホイいるでしょう?」

「いないわ!そんな頭の狂った奴がそこ辺にホイホイいたらそこはもう完全に無法地帯だ!」


 すると少女は、してやったり顔で言った。


「花火」

「紛らわしい事言うなや!」

 

 全力でツッコんだ。必要以上だった。ムキになってない。言い負かされてしまったなんて、思ってないんだからね!

 しかしまぁともかく。


「お前、名前なんて言うんだ?」

「ああ、そういえば言っていなかったですね。私の名前は――ビーチェ」

「ビーチェ?」



「そう。私はビーチェ・アヴィーマステマ・ダークキス」


 

「…………………………………………………………あ?」

 

 …………今コイツ、なんて言った?

※今作品に出てくる化物、怪物はほとんど作者が作った物です。実在したら、色々すみません。

それと、新キャラ登場です。

ヒロインに、なるのかなぁ。

感想なぞ、お待ちしております。

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