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《3》紅原に魔女

 

 次元を超えて、超えて、もういくつ超えたかも解らないぐらい超えて。

 

 そこは、紅蓮の平野だった。

 

 馬鹿な種族が潰し合い殺し合い、そして誰もいなくなった世界。

 地を血で染め、空を血で染め、海を血で染め、そして暗黒の雲と月が浮かぶ、死んだ世界。

 

「いつ来ても、やはりこの光景は変わらないか」


 一人の少女が、感慨深そうにそう言った。

 鮮やかな紅蓮の髪に炎を湛える灼眼。

 炎がまるで衣服のように彼女に纏わりついている。

 その炎が風で揺られる。

 彼女は美しい。

 ニンゲン以上に美しい。

 だって彼女はニンゲンじゃないのだから。

 彼女――レイア・ゲヘナブレイヴ・レッドランスは、少しだけ寂しげに、目を細める。


「この風景は、嫌いだな」

「へぇ珍しい。君が情緒豊かにそんな事を言うなんて、天変地異の前触れかい?」


 なんて茶化す声が聞こえる。

 レイアは、その声の主を、恨みがましそうに見る。

 緩みきった、眠そうな表情に、赤い瞳。若い男が立っている。

 漆黒のスーツがよく似合っていた。自分のあげた物だ。自然と嬉しい気持ちになる。


「お前は夫としての自覚が無いのか?少しは褒めてみたらどうだ」

「君はいっつも綺麗だね、そのメラメラ感が禍々しいよ」

「褒めているのか貶しているのか判らないぞ!?あとメラメラ感とか言うな!」


 恥かしいだろ!とレイアは叫んで、溜め息し、また遠くを見る。

 本当に遠いが、見える。

 青い髪が。

 青い髪の童女が。


「……こうして戦うのも何年ぶりか」

「さぁね。秀兎がいた時はもう二人とも丸くなっていたからね」

「……愚息は元気かな」

「元気元気。今日なんか、貴族の家を襲撃して金を奪おうとしてたもん」

「ははは、元気だなぁ」

「きっと大丈夫さ」

「そうだと、いいけど……」


 やはり不安になる。

 すぐさま会って、抱き締めたくなる。


「母親らしい事、してやりたいなぁ」

「一度くらい、会ってみたら?」

「……、そうだな。家族全員で、会いに行こう」

「もちろん彼女たちも誘ってね」

「…………」


 ぶぅ、と頬を膨らます仕草が、小動物めいて可愛い。

 がしかし、彼も遠くを見る。


「あらら、これまた厄介なのが来たね」


 なんて、言う。

 それに彼女も反応して。


「……皇帝陛下直々とは、これは、………………………ヤバイ、血が滾ってきた」


 苦々しい顔をして、禍々しく微笑んだ。




 ◇◆◇




「やっぱりこの光景は、慣れないものね」


 地も空も海も紅い。禍々しく忌々しい、紅と黒の世界。

 

「絶望で満たされた、死んでしまった世界」


 アーテロテーア。かつて魔界と呼ばれた世界。

 彼女――サタ・マギナレッジ・ブルーブレッドは、目を細める。

 澄み切った蒼の髪に、蒼海を湛える瞳。

 彼女は美しい。

 だってニンゲンじゃないから。


「悲しい世界ね」

「そうですね、本当にこの世界は悲しい」


 なんて、本当に悲しそうな声。

 サタは声の主を見て、微笑む。


「どうしたの、妻の私が心配になった?」

「いいえまさか。あなたが心配になる時はあなたが伝説の銀竜と戦う時くらいですよ」

「どういう意味かしら?」

「そのままの意味です」


 メガネをかけた、黒髪の男。

 目は蒼い。彼女と契約し、眷属になった時に染まった、誇るべき瞳。

 黒いスーツが良く似合う。自分オーダーメイドでプレゼントした物だ。自然と胸が温かくなる。

 

「こうして戦うのも何年ぶりかしら?」

「そうですね、ざっと20年ぶりじゃないですか?といっても僕もはっきり覚えているわけじゃありませんが」


 最後に戦ったのは、スティアゲルメイでしたか。と言って指を振るう。

 すると、蒼い光が集まって、白いクロスのかけられたテーブルと銀のトレイが出てくる。銀のトレイの上にはケーキとクッキー。

 テーブルの上に置く。


「紅茶は?」

「フィチの葉でお願い」


 指を鳴らす。光が舞い、ポットとティーカップが現れる。


「秀兎も今頃はグドログッセンね」

「そろそろ金策に困る頃じゃないですか?」

「ふふ、そうね。まともに稼ぐとも思えないから、どこかの貴族の家を襲撃するのが妥当ね」

「それぐらい出来なければ魔王に成れませんからね」


 どうぞ、と紅茶を差し出してくる。

 受け取り一啜る、相変わらず美味しい。


「……ヒナはどうしているのかしら?」

「今はハマンの攻略にはいったそうですよ」

「ふぅん、手際が悪いわね」

「しょうがないでしょう?彼は平和主義者だ、不要な争いは避けたいはず」

「今はどうにでもできるから放置しているけど、もしヒナに手を出したら潰しましょう」

「はは、あなたが母親らしい事を言うなんて、きっと明日は大地震が来ますね」

「ホント、その口は減らないわね」

「生まれつきですよ」


 と、適当に喋り、時間を潰す。

 がしかし、その時間も、もう無いようだ。


《ヒュゥゥイィィイィイィィィイイ――》


 空から、声が堕ちて来た。

 耳障りな、酷く耳障りな、悲鳴の様な声が堕ちて来た。

 そして空に浮かぶ月が、暗黒の月が本当の姿を現す。

 月の表面が、黒い表面が渦巻き始め、一点に集まる。

 そして月は、白くなった。

 禍々しいほど白く。忌々しいほどに白く。月は、白くなった。

 呪いで穢され、絶望で塗装された月。

 彼は、少し寂しげに呟く。


「月が、啼き始めましたね」

「時間よ」


 サタは、冷たく、凍りつくような微笑をした。

あっちはほがらか雰囲気だけどこっちは緊迫してます。

ていうか一足先に戦争?みたいな。


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