表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/77

《2》アグリーアグリー

 

 何故、何故俺らはこんなにも平穏と過ごしているのか。過ごせているのか。

 平穏というか、微笑ましい状態なのか。

 俺らがいるのは、中央大陸の小国――グドログッセン――の、それはまぁありきたりな、何処にでもありそうな、何の変哲も無い普通の宿である。

 一泊で三〇〇〇ゾル。かなりの格安だ。ていうか激安。

 ゾルと言うのは、主に中央大陸で出回っている貨幣の単位で、名前は中央大陸で最も有力な商業国ゾルニアが流通させた事から。

 国はバラバラでも、貿易や何やらで貨幣が違うのは売る側も買う側もいろいろ痛いのだ。

 ちなみに、ゾルの価値は日本の円と同等なので、金銭感覚でパニクる事は無かった。

 話が逸れたが、何故俺たちはこんな悠長に宿に泊まりまったり出来ているのか。

 大々的に宣戦布告し、日本では指名手配され、世界中で疎まれ蔑まれ省かれるはずの俺たちが、平然とお天道様の下を闊歩しているのか。する事ができるのか。

 まぁ、理由は簡単だ。


 中央大陸の人間は、魔王と魔女の実際の顔を知らない。


 それだけだ。

 伝記、伝説、言伝え、御伽噺、噂話、物語。

 それだけで想像された、曖昧な魔王と魔女しか知らないのだ。中央大陸の人間は。

 

 伝記や伝説や言伝え、それらから連想された、千差万別の闇の王。

 その噂。

 曰く、魔王は黒髪黒瞳、美形で女をかどわかす。

 曰く、魔王は黒髪黒瞳、筋骨隆々な巨漢である。

 曰く、魔王は黒髪黒瞳、雄雄しく勇敢な姿で、民衆を惑わす。


 伝記や伝説や御伽話、それらから連想された、千差万別の闇の魔女。

 その噂。

 曰く、魔女は銀髪赤眼、美形で男を魅入らせる。

 曰く、魔女は銀髪赤眼、閉月羞花な美女である。

 曰く、魔女は銀髪赤眼、凛々しく妖艶な姿で、民衆を惑わす。


 とか。

 そんな感じのばっかりで、いやまさかね?まさか魔王が、こんな覇気もやる気もヘッタクレも無い格好だとは、誰も思わないでしょ?

 それにさ、魔女だって、こんな小学生なわけないでしょ?

 てね。

 一応魔女の赤眼は魔術でカバーしてるが、素のままでも全くばれそうに無いのだ。

 俺なんかこのまえ、

「ねぇねぇあの人目黒いけど、まさか魔王とかじゃないよね?」

「まさか。魔王があんなホームレスみたいな奴だったら、俺たちゃ怯える必要ねーだろ?」

「あははそっかーだよねー」

 とムカつくカップル(そんなに格好良くなかったし、可愛くもなかった)が勝手に外見で自己完結して行くほどだ。

 まぁ魔女のほうは、色々あった。彼女は憤慨したと言っておこう。

 

 そんな訳で、俺たちは平然とした顔でお日様の下を闊出来ている。

 では何故か。

 何故俺たちはこんな事をしているのか。

 否、何をしているのか。

 それを説明するなら、一言で済む。


 旅をしているのだ。


 ……………………………………………………………。

 ……………………………………………………………。

 ……………………………………………………………。

 ……………………………………………………………。

 ……いや別に、世界どうこうの話が嫌になって魔女と二人で現実逃避の旅に出た、と言うわけではない。

 何故旅をしているのか。

 それは、俺たちの計画、まぁそんな類の物が、第二段階に入ったからだ。

 ざっと説明する。

 第一に宣戦布告。魔王の存在を改めて認識させる。これをする事によって、とある場所の、とある術式が起動し、その術式で今度は魔女が復活する。

 闇の魔女、ルシア・クワイエットアンデッド・ダークキスの力は、元々神々どもによって封印されているらしく、その術式によって封印されていた力を取り戻す事が出来るそうだ。

 宣戦布告は、すでに完了した。

 日本中で魔王は敵と見なされ、術式も発動したらしい。

 らしいとかとあるというのは、どうも曖昧な表現でいただけないが、こればかりはしょうがない。この術式は彼女と繋がっている為彼女は術式の状態を逐一把握できるが、繋がっているのは彼女だけなのだ。他人に感知できる物ではないのだ。

 とにかくこれで第一段階は終了。


 そして、第二段階。力を復活させる為の儀式を行う為に、術式の陣がある場所へ。


 がしかしそこで問題があった。

 彼女自身、その術式陣が何処にあるのかよく解っていなかった。

 ただ漠然と、あっちの方角にあるとしか解っていなかったのだ。

 彼女の力を復活させる為の術式がある場所へ行くのに、次元を裂いていっては駄目らしい。漠然としか解らない事もあるが、その場所には結界やら何やらが厳重で、陸路で行かなければならないそうだ。

 空を飛んでも駄目らしい。

 つまり、その場所へ行くには陸路しかないのだ。

 ちなみに中央大陸は国がバラバラなだけに文明レベルが低い。車こそあれど極少数で、民衆の主な移動手段は馬車。

 …………面倒臭いことこの上なかった。

 

 

 まぁ、というわけで、俺たちは平穏で、平和で、ゆったりとしているはずの無い旅をしているのだった。




 ◇◆◇

 

 

 

 

「はい次の方ー」


 駅、チケット販売所。人多し。

 中央大陸の主要国を通る魔導力列車は、旅人や貴族が主な使用層となる。

 馬車での移動を主流とする中央大陸において、この手の移動手段は貴重かつ便利なのだ。


「アルゼンフォーエムス行きの特急便券を二人分、出来ますか?」

「はい、アルゼン行き列車は――明々後日夕刻に出発です。身分を証明出来るものはありますか?」

「これでいい?」


 ポケットから手帳を取り出す。


「…………!」

「調査、協力お願いします」

「……わかりました。では――ラビットさん。一万ゾルです」

「どうも」

「はい、では良い旅を」 

 

 


 ◇◆◇

 



 少しお洒落なカフェ。

 目の前に魔女。

 ……眠い。


「あ゛ー緊張したー」


 疲れたー。


「これくらいで疲れるとは、情けない」

 

 魔女は金色の瞳を細めてそう言った。

 さすがに銀髪は目立つであろうから、魔術で髪も緑色だ。外見はあれだ、二言めにはピザを注文しそうな魔女。

 服装は黒を基調とした目立つラフな格好だ。ダメージジーンズに、胸が強調される感じで上半身がコーディネートされている。

 それともう小学生じゃなかった。

 スタイル抜群の、17歳女子。

 いや、今時の17歳アイドルだって、完全に顔負けだった。

 ていうかお前誰よ。

 お姫様とかって、神聖な感じがして手が出しにくいけど、今の彼女はもっと現実的な、なんというか、本当にいそうな、そんな感じの美貌。

 比べて自分は、なんて平凡なんだろう。

 コイツ、もうあれだ、存在するだけで俺のこと傷付けやがる。


「ジロジロ見るな、欲情するな」

「じろじろ見てねぇし欲情もしてねぇ」

「細かい事は、気にするな」

「リズム良くしてんじゃねぇ!」


 とかなんとか、適当に喋っていると注文した昼食が来た。

 ルシアはグドログッセン特産のフィチの実(林檎と蜜柑が合体したような味)がふんだんに使われたフルーツタルトと紅茶。

 俺は適当にBLTサンド、それとコーラ。


「何故偽名を使う?」


 ルシアがつまらな顔でそう聞いてくる。

 BLTサンドにがっついている途中なので一々説明がメンドいが、まぁ暇なので。


「黒宮っていえば日本の王族の苗字じゃん。目立ちまくりじゃん」

「今は途絶えた一族って事になっているがな」

「どうせどっかの異次元にいるんだろ」

 

 ていうか、母さんたちが死ぬはずが無い。その気になれば、日本沈めそうだし。そのままの意味で、火の海に。


「ていうか秀兎、お前、何を見せたんだ?」

「え?」

「身分証明」

「ああ、それは」


 ポケットから取り出す。ホントはこんなに軽々しく使っちゃ駄目なんだけどね。


「はいこれ」

「……フリギア帝国特別王宮上位旅士官証?なんでお前がこんな物を持っている?」


 ルシアは目を丸くする。

 ま、そうなるのも無理ないか。旅仕官といえば、他国の不正を自由に暴けるフリギア国特権の一つを行使する役職だもんなぁ。

 フリギア帝国。世界最大の軍事力を誇る国。その犬。

 それに特別王宮上位なんて付いたら、どんだけ偉い人になっちゃうんだよ。

 ちなみに旅仕官の手帳に偽名が記載されているの怨恨の類を避ける為だ。

 他国不正を暴けば、少なからず怨恨の類が生まれる。その時本名だったら、命を狙われる事だってある。

 ともあれ。

 

「確か三歳くらいだったかな?フリギア皇帝クソジジィが俺に「お前は世界を見て、世界を知る必要がある男の子だ、だからこれを持っていきなさい」とか言われて渡されたんだよ」


 これを見せれば、どんな検問も面接も通過できる。

 ある意味世界最強の身分証明+通行許可証だ。


「はぁ〜、あの眼鏡がか」

「あんときゃ随分優しくされたもんだ」

「無理して五十代に見えるように魔術仕込んで、まったくあいつの思考はわからない」

「用心深いんだよ」

「神経質だな」

「いや、用心半分で、本当は子供を驚かせたいんだって」

「子供好きか」

「すげぇぞ。孤児施設とか増設しまくるし」

「ロリコンだな」

「身も蓋も無い事言うなよ」


 否定はしないけど。

 まぁしかし皇帝とはいっても、彼はサタの眷属というか、従者というか、そんな立場なわけで。性格も主人そっくりだ。

 温厚温和、でも狡猾。


「そういえば、マジスティアとグノーシアの魔女には会ったことが無いなぁ」

「ああ、アデスとベルゥか」

「確か、マジスティアがグリンベルジュのアデスで、グノーシアがイエロメイスのベルゥだっけ?」

「そうだ。まぁお前が会ったことが無いのも無理ないさ。あいつらは客観主義者というか、放任主義というか、あまり表舞台に出る事が少ない奴らだからな」

「へぇ、母さんたちとは正反対だ」

「あいつらもまた珍しい。自分から積極的に国を操る」

「暇なだけだろ」

「チェス気分で国を滅ぼされては困るぞ」

「チェスや将棋には終わりがあり、そしてまた始まる。その繰り返し。国も同じだろ」


 栄枯盛衰、七転八起に流行り廃り、盛者必衰。自然の摂理だ。


「まぁどうにしろ、母さんたちにとっちゃ日本やフリギアの問題なんて、本当に些細な、盤上の問題なんだろうけど」


 それこそ本当に、チェス気分なのだろう。

 ニンゲンがいくらゴチャゴチャしたところで、彼女たちには一切影響が無い。

 アデスとベルゥが、いわば観戦者。

 レイアとサタが、プレーヤー。

 そしてニンゲンが、駒。

 俺たちは……。


「俺たちは、一体なんだろう?」

「さぁな、少なくとも、観戦者でなければプレーヤーでもない、ましてや駒になるつもりも無い」


 盤上を勝手に動く、イレギュラー。ノイズ。歪み。


「もしかしたらもう駒にされてたりしてな」

「そうかもしれないな。あのメギツネの事だ、きっとろくでも無い事を考えてるだろうよ」


 そうだな。恐ろしいことを考えているに違いない。

 

「世界征服とか?」

「うーん、物凄く考えていそうだな」

「いや、ああ見えて結構面倒臭がりだから違うかもしれん」

「世界統治は確かにめんどくさいな」


 後処理的な意味で。

 政治とか、法律とか、うわ、超メンドい。

 後処理。

 後々の問題。

 後々の、問題。


「…………………なぁ」

「……うむ」

「……どする?」

「どうするか」

「とりあえず、今は大丈夫」

「そうか。それは何よりだ」

「うん、場凌ぎ的な意味ではね」

「うむ、……で」

「まぁ、そのなんだ、とりあえず、どする?」

「出発は明後日の夕刻だな」

「うん」

「……ふむ、ここらで金持ちの家はあったかな?」

「……………うん、なんていうか、お前のしたい事が判ったよ」

「そうか。で、金持ちの家はあったかな?」

「………………」


 ……不穏な昼下がりの出来事。

いやぁ今回は丁寧に書きました!

とかね、言い訳てきな意味は篭ってません。

でも今回は丁寧にチェックしましたー。

それでも誤字脱字があったら報告してください。

感想評価も待ってます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ