表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/77

《12》道化の魔王

 

 魔王と勇者。

 相反する存在。

 水と火のように、光と闇のように、彼らは対立する。

 

 都合の良い設定。


 だが効果は絶大だ。

 持って来いのシチュエーション。

 勇者が魔王を倒すという、その逆。

 とにかく目立つ。

 勇者を潰し、伝える。


 魔王は復活した、覚悟しろ。

 

 いや別に日本を潰すわけじゃないけど、まぁ今回の目的は、目立ちまくってある術式とやらを起動させればそれでオーケー。

 実際のところ、もうかなり目立ちまくっているのだが。


「まだだ、あと一歩、劇的なアクションが欲しい」


 そこで、勇者と魔王の激突だ。

 叩き潰す。

 アイツを、日本を引っ張る、もう一人の指導者を。

 

 ミラン・アルノアードを。




 ◇◆◇



 

「…………」


 ミランはゆっくりと呼吸を整える。

 緊張しているわけではない。だがしかし、油断はしない。

 剣はセンゼンス鋼製の細剣だ。センゼンス鋼とは金属の中でも特に固い部類に属する金属で、鍛え方次第では希少銀を凌ぐといわれる。

 それに軽い。羽毛のようとまではいかないが、普通よりは断然軽い。

 呼吸を整え、精神を集中。

 ゆっくりと目を開いた。


 

 魔王は欠伸する。

 緊張なんてしない。疲れるし。油断は、してる、かも。

 剣はセンゼンス鋼製。軽くて固い。

 試しに剣をもてあそぶ。左手、右手、まるでお手玉のように。

 本当に軽い。

 それにしても退屈だ。

 耐え切れず欠伸してしまう。


「…………」

「…………」


 両者が向かい合う。

 決闘だ。

 どちらかが降参、致命傷を負うまで続けるゲームだ。魔法も、体術もあり。

 ここは謁見の間。周りでは上流貴族たちが円になって彼らを観戦している。

 貴族たちの顔はどちらかといえば安心感が強い。ミランが勝つと思っているのだろう。

 そして二人の周りを数匹のコウモリの羽を生やした目玉が飛んでる。

 「キィィ!」と耳障りな声を時折上げるあれは魔法の一種で、ここの光景を記録している。

 今、日本の各都市の上空では超大規模な魔法陣が展開されここの光景が映しだされている筈だ。

 舞台も、役者も整った。


 審判はエルデリカ。

 エルデリカは二人の様子をチェック。

 

「準備はいいですか?」


 両者ともに手を上げる。戦闘可能の合図だ。


 エルデリカは一呼吸。


「…………始め!」


 手を思い切り上に挙げた。




 ◇◆◇




「はっ!」


 先手は勇者。勢い良く踏み込み、鋭い突きを放つ!


「よっと……」


 剣を弾き軌道を逸らす。

 魔王はまだ一歩も動いていない。


(遅い、遅過ぎるくらいだ)


 魔王は飛燕寺桜花を思い出す。

 彼女は目にも止まらぬ速さで魔王の腕をぶった切った。

 比べて、勇者の動き、バランス、速度などは、かなり遅い。

 それに飛燕寺の攻撃にはなんとも言えない気品、華があった。精練された動きだった。

 彼の攻撃にはバラつきがある、雑といってもいい。

 自分が飛燕寺の真似を出来るわけではないが、これといって脅威は感じない。

 

「はっ!たぁ!」


 勇者は戦慄する。

 何故当たらない?当てようとしてもことごとく避けられてしまう。

 首、頭部、腕、腹、手首、胸。

 何故、何故当たらない!?

 言いようの無い焦燥感が生まれる。


「よっと、ほ、おっとと」


(くっ!)


「おわっつ、ひゃは、うえぇぇ」


(…………)


「おいおいどうしたー?全然当たんないぜぇー?ほいほい」


(…………(イラっ))


「あ、 た、 ん、 な、 い、 ぜ?ひゃっはァ」


(…………)


「ふわぁ、やべぇ、眠い。死ぬ〜」


(…………(プチッ))


 勇者の剣が、自然と早くなる。

 イライラを乗せて。


「お、ちょ?速くなってるじゃん」


 魔王も剣で応戦。

 一進一退の攻防が始まった。

 



 周りの観客は、かなりの焦燥感を持っていた。

 すでにミランの剣技は常人を超えている。

 それなのに、それなのにあの魔王の余裕ぶりはなんだ?

 全く当たらない。

 焦燥感が、彼らの胸に生まれ始めた。




 ミランは一旦距離をとる。

 素早い動作で魔法陣を描く。

 魔法陣の色は白。


光尖(こせん)


 光学系の攻撃魔法。

 短縮名称詠唱――魔法の効率化高速化の為に生み出された短縮呪文――によって魔法が発動する。


 純白の光の槍が魔法陣から射出される。

 

 魔王は素早く対応。

 魔法陣を描く。色は黒。

 

「闇よ消し去りたまえ」


 闇魔法。

 対象を設定し命令を下す旧詠唱。


 魔法陣から黒い霧が生まれる。

 光の槍は闇の霧に吸収され、消える。


 がしかし、これで終わるわけではない。


 魔王は闇の魔法で生み出した闇を暗幕にして勇者に向かって突進。

 闇の魔法は――というか魔法は――魔法陣を描く段階で対称を設定しているので、対象外にはなんの害も無い。

 しかし闇の魔法で生み出した霧は真っ黒で相手の視界を遮る。

 それを利用し、魔王は勇者との間を一気に詰める。


「ひゃっはァ!」


「…………!」


 勇者は、反応できない。


「死ねぇ!」


「くっ!」


 魔王は剣を振るうが、勇者はぎりぎりで避ける。

 狙いを外し魔王は、



 魔王は笑った。



 これは、フェイントなのだから。

 避けるのが前提なのだから。


「バーカ!」

 

 勇者の足を払う魔王。

 バランスを崩した勇者はそのまま転び、地べたに仰向けになる。

 魔王はすぐさま勇者の持っていた剣の刃を踏み付け持ち上げなくさせると勇者の首のぎりぎりに剣を添えた。


「…………」


「…………」


 静寂。


「…………」


「……ま、参りました」


 勝敗は決した。




 ◇◆◇





「…………」


 静寂。


 魔王は、ゆっくりと剣を引き上げ、


「死んどけ」


 剣を突き刺す!


「おい!」


 エルデリカは叫ぶが、遅い。その時にはすでに刺さっていた。


 勇者の、頭…………の横に。


「なんてねぇ〜ん、嘘だぜ?」


 観客たちの顔に安堵が宿る。

 魔王は笑いながら、歩き出す。


 そして座る。空いていた玉座に。


 その時魔王は、壮絶な笑みを浮かべていた。



「はいは〜い、どうもこんにちは〜。日本の皆さんお元気ですか〜?」



 喋りだした。恐ろしい、狂った笑みを浮かべて。あの目玉コウモリに向かって。



「突然誰だテメェと思った人の為に説明しちゃうけど、俺様魔王で〜す。魔王様だよ〜ん。覚えてるかなぁ〜?覚えてない人は教えてもらってねぇ。そんでもって、皆俺の活躍見てくれた?ビビッてくれたら嬉しいよ〜」



 それは、普通ならば痛々しい、なんともドン引きな光景だったろう。

 しかし、

 勇者を打ち負かしてしまった魔王がすると、道化のようで、気味が悪くて、おぞましくて、不安を煽られてしまう。



「皆を引っ張る勇者くん以上に強いって事が解ったかな?解ってくれないと困るんだよね〜。もし今安心してる人がいたら、周りの皆は教えてあげてね、俺の怖さ〜。そうしないとさ〜俺も強行手段になっちゃうからさ〜。んで、んまぁとりあえず、俺は復活したから、恐怖に恐れ慄いてください。皆殺すから、それまで怯えててね〜」


 貴族たちの顔が蒼褪めた。


「皆楽しんでくれたかな?以上、宣戦布告終了!それでは皆さんさようなら~」


 とそこで目玉コウモリがグシャグシャに丸まって潰れた。

 日本との通信が切断される。

 

 そして魔王は、


「ふぅ、疲れた」


 だらけた。


「………………」


 静寂。


 魔王は、


「あー、どうよ?」


 と魔女に聞いて。


「ああ、今ので術式は発動した」


 なんて、意味の解らない事を言って。


「そっか…………」


 魔王は、肩から力を抜いた。


「……皆殺し、ね」


 別にそんな事をするつもりは、一切無いのだけれど。

 けれど、道化を演じなければならない。

 だからやっぱり自分は、魔王である自分は、


 世界の憎まれ役なのか。


 そんな事を、魔王は思っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ