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《11》魔王の閃き

 

 それから少し前。


 王城の簡易牢獄にぶち込まれた魔女は、悔しそうに歯噛みする。


「油断した、まさか姫君の戦闘能力がここまでとは……」


 正直驚いた。

 しかし誰が姫君の封印を解いた?


 あの《呪鎖明狐(シビノキュウビギツネ)》の施した呪いを、誰が解いた?

 

 あんな、複雑怪奇で理解不能でまるで難攻不落の要塞のようにガチガチに施された呪いを解けるヤツなんて、《呪鍵暗狸(リョクビノブンプクダヌキ)》ぐらいだ。


 だがしかし、生憎な事にあの根暗ギツネと爽やかタヌキは仲がいい。

 一方が仕掛けた何かを阻害するという事は、無いはずなのだが……。


「一体、何が起こっている?」


 この二年で、何が起きた?


「…………」


 しかしすぐに思考を切り替える。


「…………よし、殺そう」


 グルグルグル。メラメラメラ。殺意の炎が渦を巻く。



 

 ◇◆◇




「しぶといですね……」


 やっぱり生きていた。本当にしぶとい。蛇か、蛇なのか?

 ツッコミは色々言われそうなので止めておく。


「生憎身体は丈夫なのでな」


 魔女は闇で剣を構築。


「性格もねちっこいです。ヤンデレですね」


 姫君は光で剣を構築。


「ヤンデレ!?失礼な!私は病んでないぞ!」

「人を後ろから刺しそうな顔です!」


 …………あーそういえば俺、封印される時後ろから刺されたなー。ルシアじゃないけど。でもなんか、あの闇に引きずり込まれる感覚、気持ち悪かったなぁー。変な浮遊感とかあって。……トラウマだなぁー。


「それを言うならお前だって!純情誠実そうな顔をして、実は相手を自分の物にしたいんだろう!」

「な!そんな事無いです!私は純情誠実天真爛漫甲斐甲斐しいが売りなんですよ!」


 一体どこに売ろうとしているのだろうか。


「とか何とか言って、甘えたいだけだろう!好きな人に甘えて、全体重任せたいんだろう!お前は女としてあまりにも重い!」

「そういう貴方はどうなんですか!下僕扱いして、相手の事を支配したがってるじゃないですか!貴方だって十分重い!」

「愛は重いものだ!重いからこそ価値がある!」

「それはわかる!」


 この二人は、馬鹿なのか?言っている事がおかしい。会話が破綻してきている。女子小学生とか、こんな会話してそう。

 止めようか。いやちょっと面白いから見てよう。


「ともあれ、私は今かなりイラついている」

「イライラは良くないですよ、お肌とか荒れますし、集中力が乱れてうっかりなんて事も」

「集中できずにうっかり超広域魔法でこの国をふっ飛ばしちゃったりして、てへっ」

「うっかりのスケールがデカ過ぎですよ!」

「おっとうっかり剣が」


 ぽいっ。


「あぶなっ!」


 グサっ。


「うっかりじゃないです!今のは絶対ワザとだー!」

「ああ、ワザとだが?」

「開き直られた!」

「親しき仲にも不意打ちあり。あ、私とお前ってそんなに親しくないか、別にいいのだが」

「なんですかその物騒な格言は!聞いた事無い!」

「ピーピーうるさい。貴様は下痢か!下痢なのか!」

「そこは鳥でしょう!貴方こそネチネチうるさいです!根暗魔女!」

「下痢聖女!」

「阿婆擦れ!」

「猫被り!」

「間抜け!」

「脳内花畑!」

「馬鹿!」

「アホ!」

「このぉ!」

「やんのかぁ!」


 ………………………頭が痛くなってきた。

 アホだった。二人とも、アホの子だった。

 お前らは小学生か?身体は大人で頭脳は子供なのか?

 果てには互いにメンチをきり始めてしまった。

 ……止める事にした。



「あほっ!」



「ふぎゃっ!」

「いたっ!」


 必殺の脳天チョップ。舌を噛み切らないように注意しな。


「何するんですか!」

「何をする!」


「黙りなさい!」


「うにゃっ!」

「あうっ!」


「…………」


 落ち着いたみたいだ。とりあえず椅子に座る。

 

「…………」

「…………」


 二人は涙目でこちらを睨んでいる。

 もちろん魔王はそんなの何処吹く風。


「つーか、これじゃあ宣戦布告もなにもあったもんじゃねぇな……」


 この馬鹿二人の所為で、計画が、計画が……。

 まぁ計画なんてはなっから全く考えてなかったけど。


「一体どうしたものかなぁ……」


 銀竜、魔王、魔女と聖女の戦闘、あと、何が出来る?

 何をすればいい?

 何をすれば……。


 

 あ。



 敗北だ。

 そうだ、アイツを負かせばいいじゃないか。

 聖女と魔女が戦ったのだから、今度は勇者と魔王が戦えばいい。

 勇者にぴったりな男が、この城にはいた筈だ。


「ふむ、おっけー。勇者姫」


 これはいい案だ。


「はい?」

「話し合いは終わりだ。謁見の間に戻ろう」


 魔王の笑みは、何処と無く無邪気っぽく見えた。

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