《9》魔女聖女
メイド長、柊萌黄が先導し、魔王たちは客間にたどり着いた。
萌黄、恐ろしくメイド服が似合う人。
「クアトロリア王城の中で最高級の客間でございます」
クアトロリアの王は、歴代の中でも極めて能力の高い優れた王らしい。
民を考え、民を思う、そんな王なのだと言う。
だがしかし、城の内部かなり豪華だ。
大理石で出来たエントランスとか、絶対に巨匠が書いたような、高そうな絵画とか、高そうな壺とか、剣とか、盾とか、宝石系装飾とか。
鉱山資源が豊富なのか、国が豊かで貿易に力を出しているとか、それとも高い税率のおかげなのか。
まぁどちらにせよ、《光》の力を受けてしまった民衆の顔を見ても真実はわからないのだが。
《光》。
全ての魔を祓い、全ての害を掃う、絶対的な聖の力。
真実は闇の中、か。いや、もう真実は消えてしまったのかもしれない。所詮は無駄な思考か。
いや、こんななんでもない、伏線ですらないどうでもいい話の時間もとい文こそが無駄か。
とにかく客間は絢爛豪華だった。
VIP専用って感じ。
「よければお飲み物などどうですか?」
萌黄が聞く。
「俺コーラ」
忘れていたが(第一部の最初の方)、魔王はコーラに狂い、コーラを愛しているのだった。
「私もコーラを」
「パクんなよ」
「しそ味」
「あ゛あ゛!?」
不味いよ!美味しくないって!ていうかそれあるの!?この世界にあるの!?
「かしこまりました」
かしこまちゃった!ていうかあちゃった!
「というのは冗談で、私は紅茶とケーキを適当に」
「わかりました、姫様は?」
「私はいりません」
「わかりました、ではのちほど」
萌黄は素早い動作で去っていった。
完全に去った後、魔王はどっと息を吐いた。
「……………はぁ、色々疲れた……」
魔王はフカフカのソファに寄りかかる。
「だらしないな」
「ああいう緊迫した空気の中にいると、自然とHP削られるんだよ」
「どういう仕組みの毒沼だ…………」
まぁまぁ、とりあえず、リラックスリラックス。
「んでぇ、話し合いって事になったけど……」
「はい」
「んぁー、何から話せばいいんだぁ?わけわかんね」
「そうですね。では質問形式で応えていきましょう」
「お、いいね」
「ではまず私から、貴方たちは一体誰ですか?」
「魔王」
「魔女「んじゃこっ――」それではこちらからの質問だ。貴様は誰だ?」
「元フリギア皇帝第三皇女ヒナ・ラヴデルト・フリギア。貴方は?」
「な「魔女だ」」
「お名前は?」
「「ちょっ」ルシア。ルシア・クワイエットアンデッド・ダークキス」
「魔王様とはどういった関係なんですか?」
「主従関係。コイツが下僕だ「は!?誰が下ぼ――」黙れ童貞」
「ふむふむ、それでは質問の趣向を変えます。貴方たちは、一体どういった目的でここに?」
「先刻も言ったとおり、宣戦布告だ」
「戦うのですか?私たちと」
「そうだ、いや、少し違うか。……そう、言うなればアピールだ」
「アピール?」
「日本の人間は、どうも魔王の事を忘れているらしいのでな。魔王の存在を再び知らしめるのが私たちの目的だ」
「だからこの併合式典を狙ったのですね」
「そうだ。これほど国民の目が集まる式典は、時期的にも私たちには都合が良いからな」
「確かに都合がいい。ですがそれと同時にここの警戒レベルはかなり高い。もしここで死んでしまったらどうするのですか?」
「別に。死ぬことはまず無い。どれだけ強力な警戒網を張っても所詮はニンゲン、適当にあしらう事は至極簡単だ。それに、今回の事は危ない橋を渡る覚悟で望んだ事でもある」
「なるほど、確かに貴方から感じられる魔力は、普通の者とは一線を画しているようですね。ま、ぶちゃっけそういう話は私とってはどーでもいいのですが」
「ふむ?何が言いたい?」
「私が知りたいのは、貴方が、誰で、何様なのかという事です」
「だから何度も言っているだろう。魔女だ。魔女様だ」
「魔女、魔女ですかぁ……。う〜ん、しっくりきませんね」
「何故だ!?魔王はしくっりきているのか!?」
「大体、魔女が魔王を下僕扱いって、革命ですか?下克上ですか?」
「分かってないな。例えどれだけ地位が高くても、男は女に頭が上らないものだ」
「はぁ、なんとなくその摂理は共感できそうな……」
「だろう?だから私を認めろ。認めれば楽になるぞぉ?んん、下僕を上手く操る秘訣を教えてやっても良いのだぞ?」
「うぅ……、って何誘惑してるんですか!」
「堕ちろ!堕ちて楽になれ!」
勇者姫は突然右手を伸ばす。すると、周囲から光が生まれ、その光が彼女の手で収束する。
彼女の右手に、剣が現れた。
魔女もすかさず右手を伸ばす。霧状の闇が生まれ、その闇が収束する。
彼女の右手にも、剣が現れた。
二種一対、黒白の剣が交差する。
「私は清廉にして純白の聖女です!そんな誘惑には乗りません!」
「私は邪悪にして暗黒の魔女だ!どうやら私と貴様は相容れぬ存在のようだな!」
「一々口調がムカつきます!」
「奇遇だな!私もだ!」
ガチガチッ、ガチガチッ。
「な、なぁ?お前ら何いがみ合って……」
「童貞は黙ってろ!」
「童貞は黙っていてください!」
「…………(ずーん)」魔王の心に大ダメージ。連呼されると意外と痛かった。もういいもん!何も言わないもん!
「大体なんだその格好は?はっ!ウェディングドレスでもあるまいし、痛々しいにも程があるぞ!」
「貴方こそ!真っ黒なドレス?はっ!今時古いですねぇ!ファッションセンスを疑いますよ!」
この言い合いのほうが痛々しい。と、魔王は律儀に内心でツッコんだ。
「私は闇の魔女だー!」
「私は光の姫君です!」
相反する関係。相反し過ぎじゃないか?
「くそー女の癖に!」
「貴方も女でしょう!」
「く、そうか!よし、貧乳の癖にー!」
「ははは!私はDカップですよ!」
ああ、遂に話が捻じ曲がった。
「実は寄せて上げてるだけだろう!お見通しだぞ!」
え、それは知らなかった。
「な!こ、個人の情報が!私の個人の情報が漏洩している!」
「ははは!自慢ではないが私は相手の胸囲を瞬時に当てる事が出来るおっぱいソムリエだ!ちなみにそこの下僕は揉みし抱き好みの大きさに変えられる特技を持つおっぱい神だ!」
そんな神になった覚えはない。
「な、なんですと!変態の極みです……!って本当に自慢じゃなーい!ていうかよくみれば!貴方も貧乳でしょう!」
そこ、真に受けないで。あと二人とも、貧乳の境界線解ってる?二人とも、少なくともD近くあるよ。
「私はお前よりでかい!」
「具体的なサイズを言わないところを見ると、やはり……」
「……!ああそうさ、だが別に女は胸だけではない!」
「ふ、笑止千万。貴方に一体どんなステータスがあると……」
「ふふふ、いいのかぁ?そんな事を言って。私は知っているぞ、お前の秘密を……」
「わ、私に秘密などありません!」
「お前、実は処女だろう?」
お前も処女だろうに。
「!」
「ははは!そうかそうなのか!まんまと引っ掛かったな、予測程度だが貴様は本当にわかりやすいなぁ!」
ブラフだったか。しかしちょっと安心した自分がいる。
「っ!卑怯な!そういう貴方はどうなんですか!大体処女は貧乳パイ○○と並ぶステータスです!」
そんな軽くコアなネタを振るな。
「私か?私はもちろん処女だ!それにそのステータスを喜ぶのはロリコンだけだ!」
はっ!喜んでしまった自分がいる!
「はっ!魔女の癖に経験もなし?私は神聖で純潔な乙女なのに、魔女が純潔って、ぷっ!」
それはそれでありじゃないか?
「なんだとッ!」
「やりますか!」
嗚呼、子供同士の喧嘩が結末を迎えそう。
「叩き潰してやる!」
「捻り潰してやります!」
ガチガチッ、ガチガチッ。
一触即発両者臨戦状態。
そして何故か、両者がこっちを向く。
内心ツッコミは疲れた。
……………まぁそれはさておき、どうしよっか。
いやでも、あれじゃね?これで二人がドンパチやったら、結構目立つんじゃね?
とか何とか思いながら実はもうかなりめんどくさくて眠くてやってらんねーって思っていたり。
……眠い。いや決めた!寝る!もう寝るぜ!寝ちゃうぜこんちくしょー!
溜め息を吐きつつ(もちろんワザと)コインを取り出してトス。
ヒュィィィィンという軽快な音、そして。
硬質なガラステーブルでキィンという音が鳴った。
そしてその瞬間、二人は、魔女と聖女は、思いっきり壁をぶち破り、城の外へと飛び出した。
「…………ふぁ、眠い」
魔王はフカフカのソファで横になる。
いやぁ、長い!