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《8》水の魔女の種

 

「ねぇ桜花……」


 サタは、優しげな、それでいて寂しげな表情で、彼らが旅立った次元の裂け目を見詰めている。

 

「秀兎の事、どう思った?」

「どう、ですか……。強いて言うなら、それほど強いようにも見えず、かといって実力を隠しているようには見えなかったですが……」

「ふふ、貴方はいつも戦闘スキルを評価すわね。悪い癖よ」

「す、すみません!」


 サタはゆっくりとした動きで、繊細な人形のように笑う。


「言い方を変えましょうか。そうね、秀兎と話してみて、どう思った?」

「…………。そうですね、普通に、一般的な男です。泣いたり笑ったり叫んだり、やたら喧しくて馬鹿な野郎でしたが、なんて言うか、不思議な奴でした」


 微笑み。


「そう……」


 確信する。

 やはりまだ、まだ自分仕掛けた歯車が、彼の中でグルグルと回っている事を、確信する。

 まだ彼の中で正常に働いていたか。

 本来なら、あの札が反応した時点で術式が起動している事は分かっていたのだけれど、それでもやはり確認しておいて損はなかった。

 ルシアとの会話で、あの子があれに気付いていない事も解ったし、久し振りの魔女同士の会話は楽しかったし、一石で二鳥も三鳥もとれたのだ。

 おまけにレイアの居場所も掴めたし。


「ふふ、やっぱり私って、悪女なのねぇ……」


 体格は童女なのに、その表情は妖艶だった。



 

 ◇◆◇




「おお!美味い!何これ?普通に醤油ラーメン?でもすげぇうめぇ!」

 

 謁見の間の、玉座の前に置かれたテーブルの上には、絢爛豪華な料理が並べられている。

 パーティー料理はバイキング形式。

 腹が減っては戦は出来ぬ、というし有り難く頂戴する事にした。

 まったく敵に塩を送るとはよく言ったものだ。

 ……まぁ今のは気分で言ってみました。


「ふむ、このクッキーは中々手が込んでいるな……。おい誰か!このクッキーを焼いた料理人を呼べ!」


 周りの貴族たちは呆然としている中で、二人はなりふり構わない。

 気の赴くままに料理を取り食いお腹を満たす。

 自己中心も良い所だ。


「聞いてないのか?私はクッキーを焼いたヤツを読んで来いと言ったのだが?」

「は、はい!」


 騎士が慌てて駆けだす。う〜ん律儀だなぁ。


「おい、お前クッキー食いすぎじゃね?サタのとこでも食ってたじゃん。太るぞ」

「デリカシィー!」


 よく磨かれた銀色のフォーク投擲!

 眉間に命中!

 

「いってぇぇぇぇぇ!」


 効果は抜群だ!


「やばいって!フォークはやばいって!あ、あ、1cmくらい刺さってる!」


 フォークを抜く。治癒魔法を高速展開。治癒終了。幸い、血は出ていない。


「ふむ、次はナイフでもやってみようか……」

「全然反省の色が見えてねぇ!」

「うるさいな、そんな事だから未だにどうて……」

「口チャック!」


 キムチ投入!

 

「むぐぼぁ!」


 効果は抜群だ!


「き、貴様、私とやるつもりか!」

「はっはー。そんなひぃーひぃー顔で凄まれたって全然怖くねぇよ!」

「なんだとキサマァァァ!」

「はっははははー!」


 と、笑いながらもフライドチキンを頬張りナイフを避ける。

 柔らかい肉質、溢れる肉汁。

 美味い!




 ◇◆◇




「まぁ、うん、とりあえずご馳走様でした」

「美味であった」


 さすが、列強国のシェフといったところか。

 食材も中々だった。

 ……うーん、でもまぁ、萌黄さんの作ってくれた飯のほうが美味かったなぁ。


「もう食事はいいのですか?」


 ヒナがそう聞いてくる。

 上品な仕草。すげぇ堅苦しい。

 

「あー、おっけーおっけー、もう腹一杯だ。ありがと」


 そう言いながら、玉座の前に置かれた椅子に座る。座り心地は、良い。

 ルシアも座る。二人は並んで、勇者姫に対峙する。



「いえいえお礼など。それで、単刀直入に聞きますが貴方たちは一体何者ですか?」



「…………」


 凄い。いきなりズバッときた。

 

 まぁ、そりゃあれだけの派手な登場をしておいて、まさか飯を食うとは思っていなかったろう。ていうか俺らも計画してなかったし。彼女らからしてみれば、一刻も早く、俺らの正体を知りたいと思う事は至極当然の事だ。

 

 でも、正直言って今は満腹で、どうも真面目に話す気になれてない。


 ていうか、もう寝たい。眠たい。

 フカフカのベッドで寝たい。

 今すぐ闇を使ってベッド生成して飛び込みたい。

 ……駄目か。駄目だよね、やっぱり。


「あー、えっと、なんか手順が超大幅に狂ってるから、なんか言いにく――」



「宣戦布告」



「…………」


 とられたー!ていうかこっちもズバッと言った!


「いいか、私たちは別にお前たちと慣れ親しむつもりでここに来たわけじゃない。宣戦布告だ」


 周囲に緊張が走る。

 空気が張り詰める。

 

「……貴様何者だ?」


 ミランだ。厳しい表情、では無いものの、いぶかしんでいる。

 


「魔王」



「…………!」

 だからSA!?なんで俺の台詞を取るのかNA!?


「魔王……」

「魔王?」

「ぷ、くくくくく」


 クスクス、くすくす、クスクス。


 ヤバイ。恥かしい。頭のおかしい奴らだと思われている。


「ま、まぁ話が唐突過ぎて解らないでしょうから、えーっと何から話していいやら……」

「…………ヴァーリエ」


 ミランは、ゆっくりと手を上げた。


 瞬間。


 何の音もなく、秀兎の首に、きらりと光る鋭利な剣が添えられた。

 エルデリカ・ヴァーリエだ。

 白を基調とした軍服を着ている。


「…………ん?」


 秀兎は、魔王は別に驚く事も無く、その剣の刃の根元を、そっと指で摘まむ。


「…………久し振り、とは言えねぇか」


 なんて事を、誰にも聞こえない小声で呟いて、平然とその剣を折った。

 ポキッと。何の抵抗も無く、ポキッと。まるで、木の細い枝を折るように、ポキッと。

 

「……え」


 周囲に動揺が走る。

 無理も無いか。多分これ、希少銀(ミスリル)製の特注品だ。柄に工房名が彫られてるし。


「落ち着けよ。何も戦いに来たわけじゃないんだ。俺らは、そうだな、お話しに来たんだよ」

「ん……、まぁ、そうだ」


 渋々、といった感じで、魔女は頷く。


「だからこんな物騒なモンは無しにして、ちょっとした言葉遊びをしようじゃん?」


 言葉遊び、とは言えない雰囲気だけど。


「どうよ、勇者姫様?」

「ええ、私は一向に構いません」


 なんて、にこやかに笑う。

 しかし、クアトロリア国王は血相を変える。


「ラヴデルト陛下!?こんな得体の知れない者と会話など……」

「うるさい、黙れ、それ以上喋るな」


 魔女は制するが、クアトロリアは引き下がらない。


「黙るのは貴様らだこの下女が!」


「下女?ほう、人間の分際で、私を下女呼ばわりとは随分となめた口を利くな。さて、私は大分寛容だが、それに故に、人間の身分と階級を自覚させ、その腐りきった脳に人間相応の態度を刻み――」


「って思いっきりムカついてんじゃねぇか」


 と魔王は魔女の頭をはたいた。


「イタ!何をする!」

「お前が何をするつもりだよ」

「アイツは私の事を下女呼ばわりしたんだぞ!?悔しくないのか!私は悔しい!」

「お前なぁ、所詮戯言だって。気にする必要なんか無いだろ?」

「うく、お、お前は私がどうなってもいいと言うのか!」

「人質みたいな事言ってんじゃねぇよ。とりあえず黙って。静かに。今話してるから」

「うぅ、冷たい……」

「あ、そうだ、いい子にしていたらクッキーを買ってやる」

「私はクッキーより揚げパンが食べたい」


 …………。

 この子の好物がわからない。


「どっちにしろカロ、……まぁいいや。おっけー分かった揚げパンを好きなだけ食わせる」


 危ない。またデリカシィーの話になってしまう所だった。


「ほんとか!」

「だから静かにしてなさい」


 まったく、魔女のくせにこいつは。精神年齢何歳だ。

 とりあえず話を戻して。


「んで、まぁこっちとしては、勇者姫様と一対二で話せれば嬉しい限りなんだけど……」


「ええ、構いません」


「姫様!?」


「ミラン、客間の準備を。それと貴族の皆様方には引き続きパーティーのお持て成しを」


「姫様、一体どうしたと言うのですか?こんな酔狂な連中の言う事など真に受けなくても……」


「ただの酔狂が、魔王を名乗ると思いますか?その為だけに、警戒厳重なこの城に、あんな目立つような登場をすると思いますか?」


「う、む……」


「ははは。勇者姫様は中々の慧眼だねー」


「茶化すのは止めてください魔王様。ではこちらへ」


 勇者姫は歩き出す。魔王と魔女も歩き出す。

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