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《4》武士侍女

「おいちょっと待てよ。なんでお前が勝手に決めてんだよ?」


 よくよく考えたら戦いなんてしたくない。面倒臭い。ダルい。


「何を馬鹿な。お前の所有権は私にある、つまりお前は私の所有物だ。所有主が所有物をどうしようと所有主の勝手だろう?」

「一体いつから俺はお前の物になったんだろうねぇ!」

「契約した時からお前は私の物だ」

「ってだから……、…………、……お前、今の言ってって恥かしくない?」


 すると、ルシアは、少しばかり考えて………………、赤面する。


「と、とにかく戦え!」

「…………」


 ちょっと可愛かった。


「んじゃさぁサタ」

「あら、秀兎くん。お義母さんと呼んでくれないの?」

「アンタを母さん呼ばわりしたくねぇ!」

「反抗期ねぇ」

「私も困っているのだ」

「何意気投合しようとしてんだよ!……って、はぁ、そうじゃくてさぁー」


 秀兎は肩を落とす。


「何かしら?」

「俺だってただ戦うだけじゃつまんねぇ、めんどくさい、だるい」

「やっぱり反抗期ねぇ」

「でさ、アンタの事だから俺に有益な情報はいくつか持ってると思うんだ」

「それはまぁ、でも有益かどうかは貴方が決める事よ」

「戦う代わりにいくつかの情報が欲しいだけど」

「渡すの?いやよぉ反抗期の息子になんて」

「等価交換。世界のコトワリだって自分で言っただろう?」


 その言葉に、サタは少し困った顔をする。


「ん〜、そうねぇ、じゃ、こうしましょう。今から貴方は私たちのお茶が終わるまで、私の自慢の侍女と戦ってろらうのだけど、それで見事勝てることが出来たら貴方の望む情報を教える、どう?」

「もし負けた場合は?」

「その時は斬首刑☆」

「死!?物語始まってそっこうで負けられない展開!?」

「とまぁ冗談は置いといて……」

「……はぁ、良かった」

「レイアの場所を教えなさい」


 一瞬だけ、彼女の眼に炎が宿る。


「……あ〜、そっか。まだ決着ついてなかったんだ」


 黒宮竜輝レイア。本当はレイア・ゲヘナブレイヴ・レッドランスという、魔女だ。

 秀兎の母である。

 魔女王と言われる、魔法の才に長けた人物であり、そして人格破綻者。

 ことあるごとに俺を虐め、痛めつけ、暴力と言う鞭で俺をビシバシとしばく。

 それは針が満載の落とし穴であったり。

 水責めだったり。

 暴徒鎮圧用のゴム弾の蜂の巣であったり。……と。

 完全にトラウマだった。

 条件反射とトラウマを植えつけられた。

 

 

 まぁ話は脱線したが、彼女、レイアはサタの良き親友であり、宿敵である。

 三千勝三千敗。よくあるような数では無いが、ていうか超越しているのだが、まぁこれでわかるとおり二人は究極の負けず嫌いだった。


「いいよ、別にそんなもん」

 

 断る理由は何処にもなかった。



 

 ◇◆◇



「紹介するわ。私の一番のお気に入りの侍女、桜花よ」


 と、そこに突然人が現れる。

 なんの前触れも無く現れる。


飛燕寺桜花(ひえんじおうか)です」


 さっきの和服で美少女で大和撫子な女の子だった。腰には刀。美しくそして異様に長い刀。

 そんなに筋力もあるようには見えないのだけれど……。


「女の子だからって嘗めちゃ駄目よ?彼女、邪知龍魚(バハムート)を一刀両断するんだから」


 邪知龍魚を一刀両断!?

 邪知龍魚とは、全長300mの巨大な魚の事で、堅い鱗や鋭利な鰭、魚類独特の粘液の皮膚とそして小賢しい動きに龍の如き炎のブレス。といった化物なのだが……。

 そのモンスターを、一刀両断。

 化物だ。


「……、……ふーん。まぁ何でもいーけどね」

「勝負の開始は私のコイントスで。勝敗条件は相手の行動不能か降参。いいかしら?」

「いいんじゃねぇーの?」

「私は異論ありません」


 サタはコインを手のひらに生み出す。


「それじゃー行くわよー……」


 ピィンッ。とコインが舞う。

 ヒュンヒュンと舞う。

 思考が冴え渡ってくる。

 心臓がいやに静かだ。

 恐ろしいほどに心が安らかだ。


 そして、



 そしてコインが、地面に落ちる。





 が、




 

「ハァッ!」


 秀兎は眼を見開いた。

 

 腕だ。


 自分の左の腕が宙を舞っている。

 コインの代わりに、左腕が宙を舞っている。

 痛みは後からついてきた。

 黒い血が飛び散る。

 慌てて治癒魔法をかけながら飛びのく。


「は、速ぇ……」


 しかし既に彼女の剣は迫っていた。


「うわッ!」

「ハ!タァ!」


 速い。とてつもなく速い。

 よく眼を凝らさなければ眼では追えない速さだ。

 これなら邪知龍魚を一刀両断したという話も頷ける。


(悪夢の魔獣と神秘の精霊を喰らう……!)


 身体能力を上げる為の魔法の呪文。の無声詠唱。

 秀兎の身体能力が跳ね上がる。


 これでやっと剣技が見えるようになるのだが、それでも彼女の剣筋は速い。

 一秒に数回単位で何かしらのフェイク、ブラフを仕掛けてきている。

 まずい。

 これは非常にまずかった。


 

 迫り来る剣をかわしながら、秀兎は剣を出そうとするが、一々コピーしているほどのちんたらしている時間が無い。


 地面を思いっきり蹴飛ばして、彼女との距離をとる。


 秀兎は右手を槍のような形にする。


 すると手首の辺りから闇の光が灯り、それが線を描く。

 ちょっとした模様、それは剣の様に見える。


 線で描かれた、絵のような剣。

 

 だがそれは本当に剣だ。

 《闇》で生成した剣だ。

 

「なるほど、闇の能力ですか。自分の物でも無いのに上手い使い方ですね」


 恐ろしいまでに鋭い突き。


「そりゃどうも。それにしても飛燕寺、だっけ?相当な腕までだな?正直ここまでとは思っていなかったぞ」


 反撃に胴。剣が流される。


「こちらこそ光栄至極。そして油断大敵という言葉を貴方に送りましょう」


 縦切り一刀両断。剣を横にして防ぐ。力と力が拮抗する。


羊皮被虎(ようひひこ)って四字熟語知ってるか?」

「なんですかそれは?」

「《羊》の《皮》を《被》った《虎》の漢字部分を付け合せてみた。中々に語呂がいいだろ?」

「確かに語呂はいいですね。私にもピッタリです。でもそれは貴方に対しても言えることでは?」


 どちらも譲らない。


「はは、俺は虎なんてもんじゃないさ。ただの怠け者」

「いえどちらかと言うと道化の方があってる気がしますが?」

「言うなぁ。でもあれだぜ?めんどくさいのは本当なんだぜ?」

「では貴方は怪奇ナマケモノボッチという事で」

「なんだその怪人の名前はぁ!?」


 ガキィンッ!と飛燕寺の剣がはじかれる。


「ナマケモノとデイダラボッチをかけて見ました」

「少なからず神扱い!?」

「私なりの畏敬の念のつもりでしたが……」

「もはや罵倒にしか聞こえねぇよ!」


 戦いながらも会話が成立する。まだ本気では無いという事か。


「では、中々盛り上がってきたので、ここで芸を一つ」


 飛燕寺は刀を鞘にしまう。

 そのまま姿勢を低くし、何か――剣の素養がある訳では無いので解らないが、多分抜刀の構え――をする。

 なんだろう。予測できる限り、真空の刃とか、そんな感じな展開なのか?


鎌鼬(カマイタチ)、かな?」

「半分正解で半分誤解です」

「文字の意味ではあっているが、本来の意味で『誤解』は違うのでは?」

「細かい事は気にしま、せんッ!」


 と、そんな言葉と共に突風が頬を撫でる。

 ドガァァァァン!という音が左後ろから聞こえた。


 ……なんだろう。とても鎌鼬のレベルでは無いような、もっと壮絶な破壊の音だった。


 おそるおそる、後ろを振り向いてみた。


「……、…………」


 予想、夢想、妄想、それら全てを超越、いや絶した。



 なんでただの居合い切りみたいなので隕石の斜め落下衝突のような痕が出来るのだろうか。



 花は無残に掘り返され、土が盛り上がり、それはまるで彗星のような形をしたクレーター。

 一体どうすれば剣でこんな現象が起こせるのだろうか。

 聞いてみる事にした。


「なぁ、今のどうやったの?」

「いえ、ただの突きですけど?」

「…………え?」

「だから、ただの《突き》ですけど?」


 …………………。

 えぇっと、彼女と俺との距離は今、多分30mくらい離れているわけで。

 それで、彼女は剣で30m離れた俺の左側に突きを放ったと?

 それでこんなクレーターが出来たと?

 …………………。


「化けモンじゃねぇか!」


 まったく見えなかったぞ!?


「貴方に化物呼ばわりされるとは、心外です」

「……ま、まぁそりゃそうだけどさぁ〜」

 

 だからって……。


「生身の人間がこれを出来たらもう人間じゃないんじゃ……」

「…………、……はは、貴方は面白い勘違いをしている」

「はぁ?」


「この私が人間に見えるとでも?」


「…………」

「私が人間に見える?突如どこからとも無く現れ人間離れした剣技を見せ、なおかつまるで化物のような怪力でないと起こせないようなその現象をいとも容易く起こした私が人間?は、はは、とんだ笑い種だ。私は人間なんかじゃない」


 そんだ。よくよく考えればそうじゃないか。

 

 瞬間出現。


 超人的剣技。

 

 もはやニンゲンじゃない。


 解りきっていた事だったのに。


「…………、すまない。今のはミスった」


 つくづく自分の愚かさが嫌になった。

 もしかしたら今の言葉で彼女が傷付いたかもしれない。


「別に気にしてません。人間でない事も、人間をやめた事も、後悔なんてありません」


 ……………………。

 やっぱりデリカシーを磨いておこうと決意した。


 とそこで彼女が突っ込んで剣を振り上げる。

 その剣を剣で止める。

 

「もし気にするのであれば、貴方も何か芸を披露して下さい」

「芸?」

「そうです、芸。何でもいいです、私のスリーサイズを当てるなり、私の使っているシャンプーの種類を当てるなり、私が安産型かを当てるなり、私の血液が何型のなのか、私はシャワーで何処から洗うのか、処女か否か、などなどを当てるなり、貴方にもそれくらいの特技はあるでしょう?」


 ガチガチッ、ガチガチッ、どちらも譲らない。


「俺はどのくらいのレベルの変態なんだよ!?ていうか、それもう完全に超越してる!倫理観とか肉体の限界とか色々超越してるから!」

「ちなみに私は出来ませんが」

「出来たら怖ぇよ!個人情報駄々漏れだよ!」


 魔王は飛燕寺の剣をはじく。

 

「何ですか、これしきの事も出来ないのですか、魔王として恥かしくないんですか!」

「お前の中の魔王は一体何をしている人物なんだ!」

「だから簡単に封印されるんですね。この落ちぶれ魔王」

「落ちッ!?俺はまだまだ全盛期だッ!」

「あーあーそうやってすぐに冷静を欠く。これだから魔王という生き物は……」

「テメェ右といえば左みたいにポンポンポンポン罵倒してくるな!俺がいだいた罪悪感が消失していくぞ!」


 斬りかかる。

 


 むかつく。

 すごいムカつく。

 なんか、すごい屈服させたい。

 彼女の口から参りましたという言葉が聞きたい。


 

 そんな事を思いながら、剣を振るった。



 はたからみたら、挑発に乗って感情的になるガキだとは、気付かなかった。

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