008
「うーん……何が起こったのかな?これは」
僕は目の前で起こっている現実に頭が追いついていない。
目の前でウーフが木から木へと直線で凄い速さで飛んでいる。
驚いている僕を見つけたが移動をやめないウーフが大声で喋る。
「こうすれば、移動速度も速いし敵にぶつかった時にも大きいダメージを与えられるだろ!」
「それはそうだけど、少し前まで僕らと一緒で直立歩行してたのに!」
ウーフはこれぞ本能って感じで、木を蹴り地面を蹴り、宙を飛んでいる。めちゃくちゃに動いているように見えて、着地点から目的地まで直線的に、意志はしっかり持って移動をこなしている。そうでないと、次の地点まであんなにスムーズに行けるわけない。
「あー、なんか手も使って四つで移動した方がいいんだって気づいた」
「そうなの?」
ウーフが鳥を二羽手にとって戻ってきて、そう言った。
何だろう本能的なところでこう言うスタイルになったのかな?確かに獣人と言う種族だけあって、頭には犬のような耳がついている。だから犬や猫のように四足で移動する方が本来の生き方なのだろうか?
「ヘッヘッヘ。なんかこのスタイルが出来てから敵無しって気持ちだぜ。
ちょっと森の中に入ってみたけど、ちっさい魔物ぐらいだったらもう俺単独で狩れたぞ」
「え、もう森に入ったの?それは危ないからみんなと一緒に入れればよかったんだけど」
「ああ、分かってるって。本当、ちょっと入り口だけだ。
うーん、早くこの力を見せつけてやりたいな」
ウーフは早く森の中で狩をしたい、と気持ちがはやっている。
予定よりも早く森に入ってもいいかもしれない、と僕は思う。
というか、本当に目標という力は凄いな。二ヶ月前まであんなに無気力だった僕らが、今では一所懸命に能力を伸ばすことに取り組んでいる。
「じゃあ、来月から少し森の中を探検してみよう。」
「よっし!あー、早く強敵と戦いてぇ」
なんか完全に本能が爆発したみたいになってる。そんな戦闘民族みたいな台詞言うような奴じゃなかったのにな。
ーー半月後
「エルド、どうしたの?こんな夜中に」
僕はエルドに家の外に呼び出された。雲が月を隠し辺りはほぼ真っ暗だった。小屋の隙間から少しだけ光が漏れている。
「気づ、いた。」
「何に?」
「夜、調子がいい。目が、見える。探知、できる」
「え、そうなの。夜の方が力が強くなるんだ」
「そうだが、違う。暗い、所。
今、1000mぐらい、探知、できる。」
「え、1000m……ってめっちゃ目標超えてるよね」
「うん。昼間、森の中、暗い。200m、ぐらい。」
「そんなに出来るの?!」
「出来る。もう、準備、OK」
ウルドの顔は暗くてよく見えなかったが、その声と雰囲気から自信にあふれているように思えた。
と同時に、何かまだ隠し球を持ってそうだとも思った。
この二ヶ月半でそれに気づいたのは十分だったが、もっと早くに気づいていてもおかしくないと考える。
だって、二ヶ月前ぐらいの時から、時々夜に外に出てたことがあったし、その時に気づいていたとすると、何か別のことを模索していた可能性もあるじゃないか。これはいよいよ、森の中で本格的に冒険をする日が近づいてきたな、と僕は思った。