025
宿屋の一階は夜は酒場として運営されていて、がやがやと騒がしい室内で僕とアイリは向かい合ってコソコソ会話している。
「ピースオブボヤージュ?」
「そう。今は何も書かれてないけど、私の目的を果たすための最善の案内がここに浮かび上がってくるの」
へぇ、と僕は相槌を打つ。
占いのようなものだろうか?そういった魔法がこの世界にあることを知らなかったので僕は興味を持つ。
「例えば昨日、この紙には矢印が浮かんでいたわ。出た矢印の方角に良い結果が待っているってことね。
結果、あなたに出会った」
「あー……成る程」
だから僕もパーティーメンバーを探しているだろう、と推測できたわけか。お互いの利害が一致しないと僕の方向に来ないはずだ。つまり、僕と出会った時点でパーティーが組めることが分かっていたってことだ。
「そうだよー。ヘヘ。いい能力だと思わない?」
「そうだね、とても良い能力だと思うよ。使い方によっては本当に最強って言えるんじゃ無いかな。
で、それは自分の意思で紙の上に文字とか矢印とか浮かばせられるわけ?」
「……ひゅ、ひゅ〜」
アイリからお粗末な口笛が漏れている。
「……おい。まさか、ランダムなの?」
「そ、そそそ、そそそそそんなこと無いのです。つ、強く願えば出てくる。……はず」
アイリの額からじわりと汗が滲んできている。嘘をつくのが下手だと思いつつ、もう少しいじめてみることにした。
「じゃあ、今すぐ出せれる?僕らが次にすることは何か」
「う……いい、よ。ちょっと待ってね」
アイリは紙を手に取り念じるように額にくっつけた。
多分、出てこないだろうと僕は思いつつ待つ。
「はーい、お待たせしましたー」
待っていると元気いっぱいの看板娘が料理を運んできた。
ありがとう、と僕はお礼を言いつつ受け取る。
「お兄さん、彼女を泣かせたらダメですよ〜。なんか困ってそうな顔してましたけどー」
「彼女じゃないし、困らせてもない。むしろ困ってるのはぼくかもしれない」
戦闘ができない上に、いつ発動するかもわからない能力持ちとパーティーを組んでしまったのだから、僕の方が損してるんじゃないかな?
「えー、ほんとですか?」
「本当、本当」
「ちょっと、私を置いてイチャイチャしないでください」
「お、結果はでた?」
「……あ、美味しそうな料理ですね!」
「露骨に話を逸らしたよね」
「ほら、やっぱり困ってるじゃないですかー」
「看板娘さん。ありがとう、助けてくれて。虐められてたんだよ〜」
「人聞きが悪いね。虐めてなかったでしょ」
「虐める人はいつもそう言うんだよ〜」
「……あはは、私の勘違いみたいだね。それじゃ、仲良くしてね〜」
そう言ってはにかみながら看板娘は戻っていった。
僕はため息を一つつき、話を戻すことにする。
「で、何か出たのかな?出てないと思うけど」
「一言多いなぁ。いいよ、見てみようか」
料理が運ばれて狭くなった机の上の空いたスペースに、アイリが紙を広げた。
そこには文字が浮かび上がっていた。




