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多種族国家の建国日記  作者: グリドナ
23/25

023

 「おーい」と僕は道を走っている人物に手を振った。


 「魔物なら、倒したよー」


 走っている人物は息を切らせながら振り返り、魔物の姿がはるか後方に倒れているような形で動いていないことを確認したのか、足が止まった。

 よっぽど怖かったのだろうと僕は思いながら近づく。

 逃げていたのは女性だった。種族は……たぶん人だ。

 ポニーテールにまとめた黒い髪は腰の位置まで伸びていてスタイルの良さと大人びたシャープな顔立ちにとてもあっている。手にはうっすらと茶色がかった紙のようなものを持っていた。


 「何があったの?どうして逃げてたのかな?」


 スーハー、と深呼吸し荒れた呼吸を整えて女性は喋る。


 「助けてくれてありがとう!ちょっと森に入ってみたら、なんかヤバそうだなーって思って、そしたらあの魔物が突然出てきて、慌てて逃げてきたら、いつの間にか倒れてたってわけよ!さっすが私!」


 「……それは、さすがなの?」


 「え、こうやって生きてるでしょ?生きてるってことは、勝ちってことよ。勝ちってことは、さすが私ってこと!」


 へへ、と自慢げに女性は笑った。

 その不意な無邪気な笑いに僕はどきりとする。


 「そっか、そうだね。生きてりゃ勝ちだ」


 「うん、そうだよ。あ、そうだ。君名前は?

  私はアイリっていうの、よろしくね」


 「僕はアルフって言うんだ」


 「アルフ……うん、いい名前だね!」


 「ありがとう、アイリもいい名前だよ」


 「ふふ、そうでしょう。気に入ってるんだー」


 自分だけの宝箱を覗いたような笑顔でアイリは言う。


 「ところで、なんで森に入ったの?」


 「え、そりゃあ冒険者だから入るでしょ。とーぜんだよ」


 「え、冒険者なの?」


 「そうだよー。力の弱いヒューマンで女の冒険者なんてこの国じゃ誰も一緒にパーティー組んでくれないからソロだけど、こう見えて腕はいいんだよ」


 「でも、武器とか持ってないけど」


 「ふっふっふ、そ・れ・は企業秘密ですよ。自分の得意な武器をバラすなんて私はそれほどおバカじゃないですよ。

  それに、君だって隠しているじゃないですか」


 確かに今、僕は弓も矢も手に持っていない。僕の力である弓と矢は自由自在にその場に作り出すことができるし、消滅させることもできる。手ぶらだと油断をする者も出るだろうと考え、移動時など使わない時は表に出さないことにしている。


 「でもでも、アルフが声をかけてきた方向から考えるに、遠距離から倒したんだよね。

  だったら、なんだろうなぁ……。距離があるから弓だと無理だから、魔法かな。そうでしょ?もしくはすっごい力持ちで槍の投擲とか?」


 「企業秘密だよ」と僕は意趣返しする。


 「ぶー、ケチくさいなぁ。そんなこと言ってるとパーティー組んであげないよ?」


 「え、どう言うこと?」


 「ん?だってアルフ、パーティーメンバー探してるでしょ?分かっちゃうんだなぁ、私には。

  だって、私もパーティーメンバー募集してるもん」


 ……?どういうことだ?

 アイリがパーティーメンバーを募集していることが僕も探していることに繋がるのか?

 僕がパーティーメンバーを探しているのはその通りだが、何を持って確信したのだろうか。いやいや確かに気になるところだけどちょっと待てよ、アイリは攻撃できるのか?パーティーを組んだとしても結局僕が討伐することになれば、僕が弓を引くってことで寿命を縮めるってことだ。そうなると結局これまでと変わらずソロの方がいいのではないか?メリットが無さそうだ。


 「でもそこは逆に考えて。メリットがないからこそ飛び込んでみると、意外とあったりするかもよ?」


 「僕の思考を読まないでくれ」


 「いやー、顔に書いてあるから分かりやすいなぁ、って。それに一人よりは二人の方が絶対いいよ。それは保証する」


 「裏切られたりするとそうでもないんだけど」


 「あらまっ!私が裏切ると思われるなんて心外だよっ!

  今のは聞かなかったことにしてあげるから、私とチームを組んどこうよ。一人より二人、騙されるより信じることだよ」


 「騙されることと信じることは背中合わせじゃない」


 「もー、細かいことはいいでしょ。

  信じて力を合わせれば、辛い時も楽しく過ごせるんだよっ」


 アイリが放った言葉に僕はドキリとした。

 その言葉は昔イリアが言っていた言葉だ。皆んなを明るくしてくれた言葉だ。


 「……分かった。パーティーを組もう」


 「やったぁ!じゃ、一回街に戻ってパーティー申請しに行こう〜」


 「そうだね、あと、あの魔物の報告もしないとね」


 街の方角を指差して急かすアイリに、僕は頷いてともに街に戻った。



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