022
逃げている人物の後ろを走る魔物に矢を射る。
ぶすり、と一本刺さるが魔物は歩みを止めない。
「あの魔物ーーなんて名前だろう?」
一射で倒れない魔物は初めてでつい声が漏れた。
魔物の色は緑がかっていて、カメレオンのような形をしていて僕の放った矢は前足の付け根あたりに刺さっている。
一度目を閉じ弓の感触を確かめ目を開けて雑音が消える。風の音が消え、この世界に僕と魔物だけになる。
この感覚は前世で弓を射っているとき以来の久しぶりで、僕の感覚が世界を超越した気分に昂り、僕と目標はいま点と点になった。
どこに矢で線を引けばいいか分かる。
足踏み、胴作り、弓構え、打起こし、引分けーー会、離れ!
僕の手から矢が消え魔物に到達すると矢は魔物の体の中に入っていき、1秒、2秒、3秒ーー魔物が倒れる。
ーー残心。
「うん、今のは納得の一射だ」
こういった矢を射るために僕は生まれてきたのではと感じるほどの満足感と達成感が僕にはしる。
こういった矢を射れるのであれば寿命なんて1年単位で持っていってもらっても構わない、とすら思う。
魔物から逃げていた人物は魔物が倒れたことに気づかずに道を走っている。
報告のために魔物の名前を知っておきたいというのと、何があっても逃げてきたのか知りたいと思い、僕は走っている人物に会ってみることを決め、狩場としていた丘から降りることにした。




