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魔物は本能的な生き物で、価値観のど真ん中にあるのはただ強いか弱いかだ。そのため、弱肉強食の価値観が根っこにある魔物には国境という概念がなく、いたるところに根を生やし他種族を脅かしている。
そういった魔物を討伐するのが冒険者という職業だと、受付の女性に聞いた。
冒険者が報酬をもらうには国や団体から発行された依頼を達成する必要がある。基本的に依頼は冒険者団体を通して発行される。
依頼の達成確認は真実球と呼ばれる水晶玉のような魔道具で行われる。この真実球は嘘を見抜くことができ、嘘の報告は確実に摘発できるらしい。
「今、無一文なので何か依頼を受けたいんだけど、何かある?」
「ありますよ。常に発行している討伐依頼として、星20までは星1つにつき1000リアの報酬となります。例えば、ウォーウルフは星2なので、一体討伐するたびに2000リアになります。
そのほかの特定依頼は、あちらの掲示板に内容が記載された紙が貼られているので受けたいものをこちらまで持ってきてください」
「そうなんだ。教えてくれてありがとう。見に行くよ。
あ、ちなみに星21以上の魔物を討伐した際の報酬はどうなるの?」
掲示板のほうに向けた足を止め、振り返りながら女性に尋ねる。
「時価です」
「時価?」
「はい。星が21以上の魔物は基本的に知恵が働き厄介です。単に力が凄い強い、という魔物もいますが。
そんな知能が働く魔物は状況によっては大災害を起こす可能性もあります。そういった状況を鑑みて、時価としています」
「そうなんだ。ありがとう」
頭を下げて僕は掲示板のほうに向かう。
掲示板にはびっしりと依頼用紙が貼ってあり、目を通してみる。
「ーーダメだ。これは受けられないな」
依頼用紙を流し見してみた結論は単純で、無理だ。地名やモンスターの名前が書かれているが、どれかの依頼を受けたところでどこに行ってどんな魔物を倒せばいいか分からない。
情報だ。まずは、この世界で生きていく情報を身につけよう。そう決意した僕がすることは決まっていて、僕はさらに質問するために先ほどの受付の女性のところに向かった。
ーーー
ーー
ー
街に着いてから3日経った。
あれから僕は受付の女性に魔物の狩場を聞き、日銭を稼いで宿に泊まった。受付の女性にお願いをし、その翌日にこの国の地名や魔物の種別などを教えて貰った。しかし聞いただけで実際に見たり経験したりしていないから、情報が本当に身についているか不安だ。だから、報酬のいい特定依頼に手を出すのが怖い。
そのため、現状では日銭を稼いで宿に宿泊することが精一杯で、お金を貯めて持ち物を整えたりすることができない。だからしっかりとこの世界の情報を持つ仲間が必要だと結論付け、僕は冒険者の建物で仲間を探す事にした。
掲示板に仲間募集の告知が書かれていて職種や求める種族などが記載されている。
……そうだ、僕はエルフだった。エルフの僕と仲間になってくれる人はいるのだろうか?受付の女性曰く、あまり好意的にはみられていないので、危うい。とりあえず声をかけてみる事にする。
ーー全戦全敗だった。
誰に声をかけてもエルフと分かれば距離を置かれ、時には罵声を浴びせられる。この国でエルフがどれだけ嫌われているのか僕は身をもって理解した。
諦めるか……いや、一人ではやはり限界がある。じゃあどうすればいいだろう……お金が無いから”雇う”という形で仲間を募るのは無理だ。報酬の分け前を仲間に多く分けるというのはどうだろうか……ダメだ。それだと現状とあまり変わらずお金が貯まらないうえ、裏切られたらどうする?独り占めが一番報酬が多いじゃないか。ではエルフであることを隠すのはどうだろう?……この耳は変装でどうにかできるものじゃないし、魔法で姿を変えることもできないという現実的な問題もあるが、それ以上にそれは僕の気持ちが嫌だ。なぜエルフというだけで差別されなければいけないんだ。僕は堂々としたい。
「うーん」と声に出して悩む。ひとまず、今日の本日の宿代だけでも稼ぐために、僕は冒険者の建物で仲間を探すのを諦め、狩場へと向かった。




