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多種族国家の建国日記  作者: グリドナ
19/25

019

 「この国について、どの程度ご存知ですか?」


 「ええと……いろんな種族がいる国、かな」


 「そうですね、”掃き溜めの国”と呼ばれていますし、他国から迫害された者や行き場所がない者が集まってできている国です」


 おお、”掃き溜めの国”って言い切ったことに僕は驚く。自分の住む国だというのに、抵抗は無いのだろう。


 「しかし、そんな国でも秩序と制度があります。国として形をなし生活するためには最低限のルールが必要でしょう。

  そして、そのルールの上位にいるのがーーエルフなんです。

  上位をエルフが固め、その下に国の仕事を行う者、商人、農家、その他職業という構造が出来上がっています。

  つまり、冒険者という職業は下層であり、エルフである貴方がやること自体おかしいんですよ」


 僕は理解する。エルフはこの国では貴族のような立場で他種族を使って当然、という考えなのだ。自ら汗を流すようなことはせず、左うちわで暮らしているってことか。


 「さらに、ハイエルフですと……それはもうこの国の頂点と言っていい存在です。

  それもハイエルフはかなり前に滅びたと言われており、今の頂点であるヤヤーコフがこのことを知ったら……。

  ああ!知ったらじゃ無いです。私が報告しないと!」


 「ちょ、ちょっと待った」


 背を向けて報告に走ろうとした受付を止める。


 「僕は記憶喪失でこの国に来たばかりで、そんな中でなんか突然に面倒そうな状況にはなりたく無いな。

  なんかそのヤヤーコフってエルフに対して、お姉さんは正直なところあまりいい感情抱いてないよね」


 受付の女性の顔が「なんでそれを」と告げてくる。


 「”頂点であるヤヤーコフがこのことを知ったら”の続きはおそらく、”このハイエルフを殺しにくる”でしょう?

  その言葉だけで、ヤヤーコフってエルフがどれぐらい独裁をしているか想像がつくよ」


 「う……そう、ですね。はい、ご想像通りです。

  この国はかれこれ200年ほどヤヤーコフによって治められておりまして、権力を手放そうとしないことで有名です。

  そ、それでも長いこと続くということは、ある程度目をつぶればいい政治を行なっている、という証拠でもあるはずです」


 「そんな自信なさそうに言ってもね〜」


 そういえば、長老が言っていたな。

 エルフは長命だ。長命がゆえ、他の種族と時間の流れが違う。大抵のことは時間で解決しようとするから行動が遅く、他の種族からすると何も変わらない、変わることがない種族だと見られている。

 しかし実際はゆっくりと変わっていっているのだ。変化のスピードが違うだけで、ゆっくりと形が変わっている。ある時代では森で住み、ある時代では砂漠で住み、ある時代では島に住んでいた。

 時間という力を一番有効に使える種族がエルフなんだ、と。


 つまり、ヤヤーコフはまだゆっくり政治をしているだけなのでは、と僕は考える。

 他の種族から見ると独裁なのかもしれないが、本人の感覚からは全然そんなことが無いのでは……いや、もしそうだとしても、多種族が入り混じったこの国ではそれは毒であろう。エルフの寿命に合わせて政治が行われ、悪いところが何も改善されていかないと思われる現状は、真綿で締められているようなものだ。


 しかし、ここまで考えても結局全て憶測だ。

 僕はこの国の現状を少ししか見てないし、ヤヤーコフについてもこの女性と少し会話しただけの情報しか持っていない。それで判断するのはどうだろうか。なら僕がとる道はーー


 「冒険者の情報を守ってもらう、非公開にしてもらうことは出来ないの?」


 「ええと、情報の公開、非公開は選択可能です。大体の人がパーティーを組むために公開しますが」


 「じゃあ、僕の情報は非公開にして、誰にも教えないようにして欲しい。それでヤヤーコフってエルフにも情報はいかなくなるよね?」


 「非公開にするならそうなりますね。非公開情報はきっちり守って管理するのが私たちの仕事です。

  分かりました。アルフさんの情報はしっかり守らせていただきます」


 「ありがとう、よろしく頼むよ」


 「はいっ。では、少々お待ちください。冒険者カードを用意いたしますので。」


 ……そう言って女性は奥に引っ込み、5分後ぐらいに出てきた。


 「こちらをどうぞ」


 差し出してきたのは手の平ぐらいの大きさの白いカードだ。


 「これは冒険者カードの一番下のランクである一つ星カードです。

  一つ星の次は二つ星、二つ星の次は三つ星と星が一つずつ増えていきます。

  ちなみに星の上限はございません」


 「星はどうやったら増えるの?」


 「ええと、討伐対象である魔物にも星が振られてまして、討伐できる魔物の星とランクが一致するようになっています。

  なので、強い魔物を倒してきた際には一気に星が上がることもあります。

  それ以外にも、前代未聞の発見などをした際にもその発見の有益さや難易度も考慮されて星が与えられることもあります。ただ、そちらで上がることはほとんど無いですね。冒険者の本分はやはり魔物退治ですので、魔物を倒せないとそれ以上の星は獲得が難しいですし」


 魔物退治が主な仕事、か。分かりやすいんじゃ無いかな。うん。取り敢えず強い魔物を倒して星を増やして格を身につける。そういったプランが僕の頭に流れる。


 「ところで、魔物のランクって誰がどうやって決めてるの?」


 「観察眼と呼ばれるスキルを持った者が行なっています。ただ、生きている状態のものを見ないと判断がつかないので、今までに見たことのない魔物で死体状態ですと、星判別は難しいですが……。ですが、大半の魔物についてはすでに星判別が付いているはずです。個体差はあるでしょうが、現在はその過去に判別した情報をもとに星を決めています」


 「そうなんだ。ところで、大きい目玉が真ん中にあってその周りが黒い靄で囲まれててその靄から触手が出ている魔物って情報ありますか?」


 ダメ元で僕は聞いてみる。


 「……バックベアードですね。伝説級の。確か、星は64ですね。ちょっと待ってください確認してきます」


 女性は奥に消え、数分で戻ってくる。


 「ええと、星が64だったのは1000年前の情報だったみたいです。覚え間違えていました。

  500年前に更新されてまして、最新では星96になってますね」


 96か……それがどれぐらい強いのか僕には分からないが、バクベアを倒すための”格”という条件は分かった。僕も同等以上の冒険者ランクになればいい。そうすれば討伐されても文句は言えないだろう。

 僕はまず冒険者ランクを96以上に上げることを目標にする。


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