018
建物の中に入ると正面に受付のようなカウンターがあり、左側はパブと言えるような空間になっていた。右側は扉があって先が見えない。
ひとまず正面の受付に座った眼鏡をかけたショートカットの女性に声をかける。
「ここって……ここであってますか?」
何となく鎌をかけるように、知ったかぶりして見る。
「ええと、初心者の方でしょうか?この申し込み用紙にご記入ください」
出された紙に目を落とす。冒険者申請書、と書かれた用紙だ。
僕はペンを受け取り必要事項を記載する。
名前ーーアルフ
性別ーー男
年齢ーー15歳
種別ーーエルフ
職種ーーアーチャー
特技ーー弓
特徴ーー
(……特徴ってなんだろう)
「あの……」
「ああ、特徴の欄は未記入でいいですよ。私の方で記入します。
どういった冒険者なのか外見を記入して、何かあった時の照合に使いますので」
「そういうことですか」
死体になってしまったり、犯罪を犯したときの指名手配などで使うということなのだろう。
「あのぅ……あなた、エルフなんですか?」
「えぇ、そうですが何かありますか?」
僕は被っていたフードを少しだけ上げ、受付の女性に耳を見せる。
「い、いえ。エルフが冒険者になるのは珍しいと言いますか……まぁ、あまりないので」
「……?そうなんですか、ダメでした?」
「いえいえ、ダメだなんてことないです。問題ないです」
女性は言いながらも、何とも言えないような顔をしている。
「すいません。無知で申し訳ないですが、何か気になることがあったら教えてくれませんか?」
「ええと……本当に何も知らないんですよね?」
「はい。この街に来たのは初めてですので」
「え……今まではどこに住んでいたんですか?」
「えっと……自然に囲まれた場所で暮らしてました」
「そ、それって……いえ、そんなことは無いはずです。ただ可能性としては……あり得るのでしょうか。
ーーあなたは、ハイエルフでしょうか?」
ハイエルフって何だろう……。エルフって種族だと長老が言っていたとーーあ、ハイエルフって言ってたような気がする。
だから魔力が強いとか何とか。
「そうかも知れない。実は記憶喪失なんだ、僕。だからこの国のことや冒険者について、街での生活などについて教えてもらえないかな」
受付の女性はじっと僕を見つめ言葉の裏に何か隠れていないか探ろうとしている、ように見える。
やがて「仕方ないですね」と呟き、僕に教えてくれる気になったようだ。