016
ーー停止していた時間が、動き出す。
時間が動き出した時にはすでに僕の手に弓と矢が握られていて、最短の動き出イリアに向けて親指と小指で持った矢を射る。
バクベアの職種よりも早くイリアに到達した僕の矢は、イリアと共に消える。
同じく、ウーフ、エルド、オリビア、ガルドにも矢を射り、皆んな矢が刺さった瞬間にその場から消えた。
その場に残ったのは僕とバクベアだけになる。
「……貴様か」
「そうだね、バクベア。僕も思い出したよ。そしてイリアが言っていた深淵を覗くってことは確かに無理だ。バクベア、君には無理だよ」
バクベアは無言で僕の言葉を待つ。
「少しだけ覗いたけど、なんていうのかな……天秤みたいだったかな。僕が感じたところだと。いや、なんか色々と情報過多でごちゃごちゃしていたんだけど、それでも根っこは公平で均衡が保たれている状態を維持してる、っていうのかな。価値の等価で成り立っているっていうのかな……。ここを見に来るのにも特別な何かが必要だと感じたよ。だから、つまリはバクベア、君にはどう足掻いても覗くことはできないんだよ。僕はーー僕とイリアは死という価値に対しての等価をもらったんだ。推測だけどね。逆説的にいうと……バクベアーー一度、死んでみるかい?」
親指と中指で矢を構えバクベアに向ける。
シンーーと辺りは静まり返り、バクベアが一度瞬きをした。
「私はまだ死なない。いや、死にいくにはお前の格では不足している」
「不足?死にいくのに格なんて関係あるのか?」
「死は平等だというのか?何千年生きている不死と呼ばれる私と、お前らとの死が平等だと?」
死なないことに僕は驚く。死なない生き物もいるのか。死は全ての生き物が持つ平等とは誰が言ったんだ。
「それに、お前のようなどこぞの馬の骨に殺されたとあっては、私の尊厳が損なわれる。死が怖いのではない、尊厳が守られないことが怖いのだ」
成る程、釣り合いが取れていないのか。
金のために、プライドや信念を馬鹿にし捨てる事に躊躇ない奴は前世でたくさんいたが、バクベアにとってはプライドが無くなることが耐えられないらしい。
「分かった。じゃあそれはまたの機会にしよう」
「そうだな。……面白い。お前がいつか殺しに来るということか。面白い」
「うーん、そっか。そうなるね。いつか殺しに来ないといけないのか」
「しかし、お前はどうやってここから逃げるつもりだ?
私が逃したとしても、ここには他に化け物がいるぞ」
……忘れていた。どうやって逃げようか。僕の力では皆んなを逃すことはできても、僕を逃すことはできな員だった。
「バクベア、一つ取引といこうじゃないか」
「ほう、面白い。何だ、言ってみろ?」
「10年ーーいや、5年だ。5年以内に僕はバクベアを殺しに来るよ。だから、僕をここから逃してくれないか」
「それが守られる保証がどこにあるのだ」
「残念ながら保証は無い。でも、僕の自尊心にかけて必ず来るよ」
「…………くくく、自尊心ときたか。真に面白いではないか。では、5年待とう。
この大陸で行きたい場所はあるのか?」
「お、場所も指定させてくれるの。いやー、どこがいいかって言われても、さっきどういった世界か少し知った程度なんだけどね。
うーん、じゃあ、多種族が住んでる街がいいかな」
「……分かった。ではまた会おう。それまで私はこの島で待とう」
「うん、待っててよ。次に僕と対面する時がーーバクベア、君の死だ」
そして僕はバクベアの力によって島から離脱した。
イリア、ウーフ、エルド、オリビア、ガルドももうこの島にはおらず、僕の力でこの大陸のどこかに飛んでいった。ただ、同種族がいる場所に飛んでいける、そういった力なのできっと何とかなっているだろう。
バクベアとの約束を果たすために、僕は何からするべきか考える。
格を身につけ、五年以内にこの島にやってくる、か。
格って何だろうか。称号みたいなものか?
もしこの世界で冒険車みたいな活動があるのであれば、そこで格が身につくのだろうか。もしくは王様みたいなのがいて、勲章をもらったりすることで、格が身につくのだろうか。もしくはもしくはーー僕が国の王になったりすれば、格が身につくのだろうか?