015
「な、何でここに長老が?!
それに、皆んなが危ないのに長老と話をする暇なんてーー」
「ほっほ。それは大丈夫じゃよ。
周りを見てみるんじゃ。皆んな動いていないじゃろう」
イリア、ウーフ、エルド、オリビア、ガルドを見るも皆んな眉一つ動かない。
時が止まっているようだ、と僕は認識する。
それでもバクベアの大きな目玉の威圧感を強く感じ、そのうち動き出すのでは、と思った。
「うむ。早くしないと動き出すし、そんなに長くこの状態は続かないぞ」
僕の心を読んだかのように、長老は言う。
「簡潔に言おう。アルフ……いや、カナグリケイよ。
お前には今から選択肢が与えられる。それを元に、これからどう動くかはお前次第だ。
タイミングがタイミングだから、それによってすぐに死ぬ場合もあるだろう。
そうなったらそうなったで、骨は拾ってやろう。安心しておくのじゃ」
「ちょ、っと待って……」と僕は少し考える。
話を追うに、僕がイリアと同じ転生者ってやつだろう。そして転生者って言うのはここにいる前の世界で生活してたけど、そこで何かしら起こって、こっちに来たってことだ。
そこまでは分かった。で、これから僕に何が起こる?選択肢が与えられる?何の?
イリアは選択したのか?
いやそもそもこの長老は何者なんだ?
今の状況も分からないし、いや、死にそうっていうのは分かるけど。
「それら全てを答えるには時間が短いのぅ。一つだけ言うならーー」
どうやら長老は僕の考えていることを読み取ることができるようだ。
「ワシはお前が死なないように見守る案内人じゃ。イリアにはイリアの案内人がいたはずじゃ。
”いた”ってことは、どういうことかわかるじゃろ?」
いた、ってことは今はいない。ーーつまり、何かをトリガーにしていなくなったってことだ。それはおそらく、前世の記憶を思い出すことではないだろうか。
「ご名答。では、思い出してもらおう」
その言葉と同時に映像が溢れてきた。
ーー京京として生まれて15年。
京家は弓道の流派を持つ歴史と伝統がある家だ。僕はその家の長男として生まれ、京流弓術の後継者として育てられた。
前の世界の最後の記憶の日、僕はその日も弓を引いていた。
弓を引く。的に中る。弓を引く。的に中る。その反復作業を納得がいくまで繰り返し行う。
確か180射目で今までに経験したことのないほど当を得た感覚を感じ、感動した記憶がある。しかし、そこで記憶がない。
そこで記憶がないということは、結果、それがこの世界にきた原因なのだろうか?
前世の記憶は蘇った。さて、選択肢とは何だろうか?
(貴方には、この世界で生き抜くための力が与えられます)
頭に直接言葉が響く。
(貴方には、力を選択することができます。どのような力が欲しいですか?)
選択肢ーーというより自由に欲しい力をもらえるのだろうか?
(いいえ、ある程度の力までなら無条件ですが、強い力を求めると、それに見合った条件が必要となります)
成る程。ところで喋らなくても考えたことがそのまま通じるようだけど、貴方は誰?
(一般的に神と呼ばれている存在です)
神、か。貴方がこの世界に転生させたのだろうか?
(いいえ、違います)
違うのか。さてーー力、か。
僕は考える。今何が必要か。命を取られようとしている今現在の状況を打開するには、相手を倒す、攻撃から身を守る、傷を治し続ける、逃亡するぐらいだろうか。
(それに加え、時を戻すということも考えられます)
そんなことも可能なのか。
(可能です。条件として、これから貴方の下半身は動か無くなります。さらに使える回数は5回までです)
成る程、それじゃダメだ。この島で一生を過ごすことになりそうだ。
では、どんな敵も殺すことができる技というのはどうだろうか?
(可能です。ただし、1日に一度までです。さらに、他の能力を身につけることはできなくなります)
他の能力は、ってことは。複数の能力も可能なのか?
(可能です)
能力と制約の詳細を僕の方で釣り合うように提案することは可能なのか?
(可能です。制約が釣り合っていない場合、修正が自動で入ります)
成る程。ちなみに、能力と制約の基準はどんな感じだろうか?
さっき言っていた”どんな敵も殺すことができる能力”の詳細を教えてくれ。
(相手を視認している状態で、念じるだけで殺すことができます。ただし1日に一度までです。 使うごとに寿命が1年縮まります。他の能力は一切身につかなくなり、成長も見込めなくなります)
結構制約があるな。でも、念じるだけで相手を殺せるというチート級の能力であれば、そうなるのか。
こうしてやり取りしつつ考えている今の状況に僕は焦る。それというのもバクベアが今にも動きそうなほど威圧感が増して来ているのだ。詳細にかつ自分で操れそうなものを僕は急いで考える。
よし、決めたーー。