014
バクベアは自分のことを話す前に、この島について語った。
曰くーー
・この島の名前は”果ての島”。
・名付けはハーレクインが行なった。
・この島はバクベアやその他の魔物によって、この世界にある国からは完全に独立している。
・外の国から1年に一度、生物がこの島に送られてくる。
・我々は生物を送られてきも興味は無い。
・そもそもこの土地はそう容易く訪れていい場合では無い。
「ーーつまりは、お前たちは踏み込んではいけない領域に上がってきている。
だから、ここで死ぬ運命に変わりはない」
バクベアは淡々と僕たちの死を宣言する。
「そ、そんな話が違うじゃないか」
僕はようやく声を出すことができ、バクベアに文句を言う。
「それは違う。私はお前たちに危害を加えない。逃がそう。
しかし、他のものがお前たちを逃がしはしない」
「アルフ、ダメだ」
エルドの顔が真っ青になっている。
バクベアの存在感にばかり気を取られていたが、どうやら僕たちは囲まれているようだ。
「ーーっ!!」
「続けよう。
私がここにいる理由だが、世界の深淵を覗くためだ。それが私の本望であり、本能である。
この島に居続けることができれば、その日はいつかやってくるはずだ。その確信がある」
バクベアはそう言って、大きなその瞳を閉じた。
「ふーん、そうなんだ」
イリアは明るく話す。
「でも多分無理ね。ここでずっといたとしても、今のままじゃぜぇったいにその日は来ないわよ」
その言葉にバクベアは目を見開き、殺気を飛ばしてきた。
「貴様に何がわかると言うのだ!矮小な分際で!」
その殺気に木々が震え虫や動物が一斉に動く気配を感じる。再度僕は身じろぎすら出来ず声を出せなくなる。
「分かるわよ。それはもう貴方よりずーっと詳しいわ」
「何故そんなことを言い切れるのだ!小娘が!」
「そ・れ・はーー」
イリアが答えようとしたところで、別方向から声が飛んできた。
「もうそろそろ殺していいかしら?
命乞いのお話は聞き飽きたわ。早く殺して次の贄を待ちましょう」
恐ろしく、僕らはそちらに顔を向けられない。
バクベアが冷静さを取り戻した口調で言う。
「いや、待て。もう一人、いるな。ここに」
「ええ、そうね。いるわ」
イリアが答える。何のことだ?
「どいつだ?」
「ん〜自分で当ててみたらどうかしら?
といっても、本人はまだ分かってないみたいだし、どうすれば覚醒するかも分からないわ」
「面白い。面白いな。人間。
だがこういう時は大体決まっているのだ、人間。
あの時もあの時もあの時もーー人が人を助ける時に、いつも人間の力は強くなった。
つまりはーー」
喋り終える間際、バクベアの触手がイリアに伸びていく。
明らかな殺意を持って伸びていく触手。誰も動けず、止められないことは明白だった。
イリアが死ぬ。
何も覚えていない僕らをこの島で暖かく迎え入れてくれたイリアが死ぬ。
辛い空気にならないように、懸命に明るく努めていたイリアが死ぬ。
そんなの嫌だ!そんな現実は僕には受け止められない!
何とかしなくちゃ!何とかならないか!何とかーー
「さて、深淵を覗きにいくかのう」
いつの間にか、僕の視界には長老がいた。