013
突如、目の前に大型の魔物が現れた。その魔物は空を覆い辺りを闇で飲み込んだ。そんな中でその魔物の眼だけが輝いている。
現れた魔物に驚いているエルドを確認する。
つまり、エルドの索敵に引っ掛からなかったってことで、それは数百メートルの距離を一瞬で無くすほどスピードがあるってことだ。
ーーそんなことが、可能なのか?
いや、今考えるべきはそうじゃない。そんなことは後でいい。今は警鐘を鳴らしているこの本能を押さえ込んで、皆んなで逃げることが一番重要だ。
皆んな、この魔物を倒せないということは本能で理解していて、動けないでいるんだ。だから、僕がなんとかすべきだ。
「ーーここに、人間がいるな?」
目の前の魔物から言葉が発せられた。
「いるな。そこに。そこにーーいるな」
「きゃっ」後ろのガルドの辺りから小さい悲鳴が聞こえた。
イリアの声だっ!
「人間、何をしにきた?その知識を持って、退治をしにきたか?その知恵を持って、封印しにきたか?その勇気を持って、懐柔しにきたか?」
魔物は問い掛ける。
その声に僕らは動けないが、イリアはいつもと変わらない声で会話を始めた。
「これは、バックベアードかしら。……ちょっと無理ね。この戦力じゃ戦えないわ。
降参するから、今回は許して」
「……ほう、私を知っているのか、人間。面白い」
「あらあら、あってたのね。良かった、前世の知識はやっぱり役に立つわね」
前世?何を言っているんだ?
「ほう、生まれ変わりか」
「ううん、転生っていうのかな。違う世界から来たの」
「それは面白い。どれ、その世界の話をしてみろ。それが面白かったら、逃がしてやろう」
「うーん、なかなかハードル高いわねぇ……」
そしてイリアは語り出す。
前の世界では、言葉で相互理解ができる種族は人間だけであること。
魔法や精霊なんて存在はなく、科学という力によって大半のことがなされていること。
しかし、獣人や精霊などは知識体系化されていて、それに興味のあったイリアはこの世界の種族の特性を知識として持っていたこと。
それらの話をじっとバックベアードは聞いていた。
「ーーなるほど。面白い」
「ところで、バクベアは何でここにいるの?」
「それが、”略す”という文化か……。
この島について、か。いいだろう、話すとしよう」




