012
翌日、僕ら5人は森の入り口に来ていた。
「じゃあ、確認しよう。
ウーフは前衛だ。魔物が出た時は攻撃を頼む。
エルドは索敵をして敵がどこにどれぐらいいるか教えて欲しい。
その次はオリビアね。強そうな敵は強力な魔法で、それ以外は精霊と協力してウーフを攻撃面で支援して。
僕は状況の管理と回復や身体強化の魔法をかけるよ。
ガルドは一番後ろで後ろを守りつつ、危険があったら他のメンバーの前に立って守って欲しい。大丈夫かな?」
皆んなから返事があり、作戦内容は伝わっているようだ。
森の中を本格的に探索するのは初めてだから、何が待ち受けているか分からない。
闇を飲む混む緑の葉っぱが不気味に揺れ、嗤うように誘っている。茶色い太い幹の側から魔物が今にも飛び出してきそうだ。
命の危険を感じたらすぐに退くことを確認し、森の中に入っていく。
ーー森の中に入って1時間。
僕らは、いや、僕は皆んなの実力を侮っていたのかもしれない。
いや、そうではなく、本当はこの森の中に住んでいる魔物は大したことなかったのかもしれない。
そう思えるほどに森の探索は順調に進んでいった。
ウーフは木の間を飛び回り魔物を駆逐していく。
素早さは申し分ないことは知っていたがそれ以上に凄いと思ったのは、手に装備した爪型の刃物だ。ガルドお手製のウーフ専用のその爪は魔物を次々に切り裂いていく。
魔物の探知はエルドが的確に行い、常に先制攻撃を仕掛けることができている。僕はその情報をキャッチすると身体強化をウーフにかけるだけだ。
小さく数が多い魔物がいる時はオリビアが風の精霊を使って一つにまとめ、魔法で仕留めていった。
ガルドは背中に背負った直径1.5mほどの盾を使う機会がないことを退屈そうにしている。
「こんなに順調にいくとは思っていなかった」
ポツリ、と言葉が漏れる。
「うむ。こうも順調だとは思わなかった」
ガルドも同意する。
「エルド、魔物を結構倒したとは思うけど、実際に探知に引っかかる数って減っていってる?」
「減ってる、確実に」
突発的に無限に湧くようなことはないようだ。やっぱり魔物も生き物で、一から産まれてくるのだろう、と僕は思う。
「じゃあ、ある程度倒したら今日は引き上げようか。あまり長くいるとイリアも心配するだろうし」
「お……っと、そうだの。次はイリアも連れてきて良さそうだしの」
「?そうだね。この様子なら大丈夫そうだ」
と、僕はガルドに返事するが、それでもイリアにはやっぱり森に入ってきてほしくない。
危険な場所なのには変わりないのだ。
「オリビア、疲れはない?」
「大丈夫なの。なんか、この森の中凄いの。力が湧いてくるの」
「へー、そうなんだ。何か精霊の王様とかいたりするのかな?」
「分からないの。魔力の素っていって良いのか分からないけど、それが濃密な気がするの
ねっとりと、いやらしいの」
「ふーん。ウーフとエルドは何か感じる?」
「いや、あー、ただなんか満月の夜みたいな感じに絶好調だ。森の奥に入るほどどんどん調子が良くなっていくぜ」
「かなり、良い。夜中、みたいだ」
皆んな調子がいいみたいだ。僕自身は調子が良くなっているような気はしない。単純に種族による差なのだろう。
しかし、こういった順調でどんどん調子が良くなるってことが、なんか凄い怖い。
嵐の前の静けさというか、順調な時ほど何かを見落としがちになるというか、嫌な予感がする。
長老も言っていた気がする。
ーー失敗は常に振り返ったらそこにいるぞ。
振り返る。ガルドが怪訝な顔で見返してきた。
僕はそろそろ引き上げることを決意し、皆んなに伝えようとしたーーその瞬間、目の前に闇が現れた。




