011
僕がこの島で暮らし始めて半年。
この島に来た理由、経緯などは一切覚えていない。
体の大きさからして記憶を覚えていない年齢では無いはずなのだが、消去されたかのように、全くそれまでの記憶が無い。
これはイリア、ウーフ、エルド、オリビア、ガルドの全員共通しており、島に来るまでの記憶は無いようだ。
この島には他にも住人はいる。小屋が10軒ほど建っており、それぞれの小屋に数人はいっている。
ただしお互い干渉をしないようにしている。そういった空気なのだ。
僕らが一緒になった理由は、イリアが誘ってくれたからだ。
イリアの話によると、イリアは1年ほど前からこの島にいるらしく、ガルド、ウーフ、オリビア、エルド、僕の順番で島にやってきたようだ。小屋が空いていて一人で住んでいたけど寂しかったから誘った、と言っていた。
記憶がなく、これからどうすればいいか分からない、そんな状況で「大丈夫、安心して」と笑顔で手を差し伸べてくれたイリアに皆んな等しく感動したと思う。
だから僕は——僕らはイリアに感謝している。
「明日、みんなで森に入ってみようか」
僕は明日、森に入ることを提案する。
みんなは頷いた。
「じゃあ、イリアはお留守番しててね」
「えー、何で何で、私も行くよ〜」
「危ないから……」
「危ないのは皆んなも同じでしょ。人数は少しでも多い方がいいんじゃないかな」
「いや、だって、イリア……一番体力ないよね。遅いし力もないし、多分明日は何かあった時に助けるような余裕ないと思うんだよね」
「体力のことを言われると……でもでも、やっぱり助け合いは重要だと思うんだよ」
「でもなぁ」と僕がどう納得してもらおうか考えていると。
「イリアはお家で待ってるのがベストなのよ。
何故なら、帰れる場所がある、っていうのが安心なのよ。死んでも帰るのよ」
オリビアが説得を試みる。
「うー、それでも一緒に行きたいなぁ」
「その気持ちは受け取ったの。今回だけはお願いなの。お家にいて欲しいの」
「オリビアちゃんがそこまで言うなら……考える」
「そう、それは良かったの」
そう言ってオリビアは寝だす。
おお、納得してくれた!と僕は喜んでいると、イリアがオリビアに近づいていく。
何をする気なんだ、と見ているとオリビアの耳元で何か喋っているようだ。
僕は少し近づき耳を澄ましてみる。
「……明日はイリアも行こう。大丈夫だから。明日はイリアも行こう。大丈夫だから……」
ん?これは何をしているんだろう?
「イリア、何をしているの?」
「ううん、何もないよ」
「いや、今明らかに何か刷り込んでいたよね?」
僕は確かに聞いた。
「うー。えっとね、こうやって寝ている間に刷り込んでいくことができるの。個人差はあるんだけど、オリビアは睡眠学習の申し子ね。
寝ている間も魔法が使える、精霊を呼べるよ、って刷り込んでいったら、寝ながら浮游したり精霊を使役したりできるようになったみたい。
なんかそれで魔力もかなり高まったとか。
こんなに簡単に育つなんて凄いよね。まぁ24時間学習しているようなものだから、私たちの2倍、3倍は特訓しているようなものだもんね」
「オリビアの状態もイリアのせいだったのか!」
僕らは明日、森に入る。そこに待っているのは希望か、絶望か。
何にせよ家にはイリアが待っていてくれる。だから危険な時はすぐに撤退することを決め、明日に備えた。