010
「ねぇねぇ、アルフ。私気づいちゃった!」
元気よくイリアが話かけてきた。
「イリアもか……。それで、何に気付いたの?」
「あのね、指で小さい穴を作って覗くと、ものが見やすくなるの!」
思ったよりしょぼい気づきだった。
「多分、こうすることで目に入ってくる光を絞ることができるんじゃ無いかなぁ、と思ったの。
そしたらその考えは正しかった!えっへん!」
くそ、可愛いな。
「そうか、それは良かったよ」
「あー、あんまり興味なさそうに見えるー。すごい発見だと思ったのに」
「いや十分すごいよ。ほんと」
「むー、ウーフやエルドぐらい喜んでくれてもいいのに」
「その二人にも同じこと言ったの?っていうかエルドが驚くところは想像できないな」
いつも表情が読めないエルドの喜ぶ顔を僕も見てみたいと思った。
「ううん。あの二人には二人の特性について教えてあげたの」
「特性?」
「うん。ウーフって、獣でしょ?獣ってことは、骨の数とか形、役割が人とは違うと思ったんだよね。
だから、体の使い方は二本足じゃなくて手と足を使って四本で行動した方が効率がいいんじゃ無いか、って。
多分、骨の役割的に衝撃を吸収することもできると思ったのよ。だから激しく飛んだりしても大丈夫だろう、って。
エルドに対してはそもそも昼間に行動してることがおかしいと思うのよね。
ヴァンプって、吸血鬼でしょ?吸血鬼なんだから、夜の方が、暗い方が強いでしょ。それに、最高の栄養素は何?処女の血でしょ。ええ、少しだけ上げたわよ。そしたらそしたら、凄い強くなったみたい。ふふ。驚きと喜んだ顔はいま思い出しても面白いわ。
ついでにカルドにも聞いちゃったわよ。あなたは物作りに興味はないのか、って。なんかずんぐりむっくりしているし、職人っぽい空気を感じたのよね。そしたら一心不乱に粘土を捏ね始めたのよ。これぞ我が道と見つけたり、って感じね。
だから私思ったのよ、皆んな何で隠し事するのかなぁ、って。」
「ーー全部お前だったのか!!」
という僕の叫びはだだっ広い海の方に拡散していった。
っていうか、全部イリアの手の平で起こっていた出来事だったのか。この数ヶ月の急激な成長は。何なの、この子。何でそんなことに気づくの。
え、種族は人間だよね。そういや長老が言っていた気がする。
ーー人間は数が多い、と。
もしかするとそれが一番の強さなのかもしれない。
数が多いということは、0.0001%のバグが生まれる可能性が高くなる。つまり、今までに世界に存在しなかったような考えを持つ天才か馬鹿が出てくる確率が高いんじゃないか?それが人間っていう種族集団の力なのかもしれない。
そう考え、僕は何となく合点がいく。
人間の強さは数によるバグ発生なんだ。
「イリア、本当にありがとう。いてくれて良かったよ」
「えへへ、なんか分からないけど褒められた。どういたしましてっ」
そして、可愛い。