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「ああ、いい人生だったな...」
この声、どこかで...
そう思い、どこで聞いたかななどとぼんやりと考えていると
「エーベルト!...おい、エーベルト!しっかりしろ!」
見覚えのある顔が目の前にあった。ゼンだ。
「すまない...俺は...?」
「あの後急に倒れて、そのままギルドの医務室に俺たち職員が担ぎこんだんだ。...本当にどうしちまったんだ?」
珍しくゼンが心配した表情をしている。それほど珍しいことなのだろう。かく言う俺もギルドで気を失ったやつは久しく見ていない。
「まあ、俺が言うのもなんだが...今度こそ、教会に行ってみるのはどうだ?」
「...教会だって?」
ゼンがあの忌々しい連中の組織名を口にする。
すでに20年以上前だが、俺も教会に足を踏み入れたことがある。その時にあいつらの対応と言ったら...
"神に見放された浮浪者風情が我々の聖域に足を踏み入れるでない"だの"神への信仰を持たぬ獣め殺してくれる"だの子供だった頃の俺に散々な言葉を浴びせ挙句石まで投げてきやがった。
「いや、悪かった。...だが、教会に行けばお前の症状だって診断できるはずだ。違うか?...なんたってあのイザーシャ様がいらっしゃるんだ。」
...そういえばいたな。教会のやつらの中で、唯一俺たちみたいな奴らにもまともな態度で接してくれる人がいる。
神官のイザーシャ=ウェルビリエ、皆はイザーシャ様と呼ばれている女性だ。この地域一帯にある教会の最高権力者だが何より美人ということもあり有名で、《治癒術》が使える非常に稀有な才能の持ち主だと聞いた。
俺も教会で石を投げられたとき、まだ俺より2つか3つ年上だというのにすでに教会の権力者として君臨していた彼女に助けられたことがあるが...
「ほーら、大丈夫だよー。お姉さんが助けてあげますからねー」
優しく声をかけてくれたイザーシャに対して、
「...触るな!どうせお前も俺から大切なものを奪っていくんだろ!?盗賊と何一つ変わらないただの豚が!」