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読んでくださりありがとうございます。
今回は閑話的なお話です。
お付き合いください。
「リリー様。いい加減起きてくださいまし。」
んん…もう少しくらい寝かせてくれても良くないですか?
最近あんまり寝てなくて疲れがたまってるんです…
「早く起きて頂かないと支度が出来ません。」
「ん…なんの?」
「本日は、王太子殿下とお出かけとなっております。」
え…お出かけですか?
そんな予定ありましたっけ。
「と、言うわけで早く起きて下さい。」
なにが“と言うわけ”なんですかね?
まあ、そういう事を言うと…おそらく…
「おはようございます!お嬢様!」
「ひぃ!寒い!そしてラナンが怖い!」
「怖くないです。通常運行です。さあ、起きて下さい?」
…なにも言ってないのに怒られました。
理不尽です…
「なにが理不尽ですか?お嬢様がいつまでも起きないからでしょう?」
ぐっ…確かにそうですが…
ちなみに、ラナンが私を“お嬢様”と呼ぶのはキレてる合図です。
つまり、ちょうど今、キレてます。
「お嬢様?」
「はい!起きます!」
目の笑っていない笑顔がめちゃくちゃ似合いますね。ラナンさん…
あ、つまり、めちゃくちゃ怖いという事です。
これは、起こすというより最早脅しなのではないでしょうか…
「ぼやーっとしてないで動いて下さい。ドレスはこちらです。」
ボーッとしてたら怒られましたね。
はい。
動きます。
***
「お待たせしてすみません。」
「いや、待ってないから良い。行くぞ。」
え、何処にですか?
本当に気が利きませんね…
あ、話の流れについていけないですか?
ちょっと時間がワープしまして、只今待ち合わせ場所です。
歩いて行く方向からして、おそらく市街地に行くのでしょう。
お供も護衛もうまく隠れてますね。
気配を感じさせない辺り、その辺のプロです。
ちなみに、服装は、私がオレンジのワンピースに薄い黄色のカーディガン。足元は低めのヒールのパンプスです。王太子さんもちょっとラフめの格好です。
お忍びっぽいですね…
「リリー?早くおいで。」
「あ、はい。王太s…」
「名前。」
「リヒト様。」
「うん。」
…見てわかる様に、何故か私は王太子さんの事をリヒト様と呼ぶ事になりました。
婚約者が愛称で呼ぶのは、なにもおかしい事じゃないんですけど、それはあくまで普通の婚約者同士の話です。私たちは普通じゃないですし…
「…」
あ、市街地に着きましたね。
相変わらず賑やかですね…
あら?王太子さんの様子がおかしいですね…?
「なっ…」
な?
「なんなんだここは?!」
「市街地…です…けど…」
どうしたんでしょう。
目をキラキラさせてますね。
もしかして…興奮してる?
「すごいな?すごいな!」
「ですね…」
どうしましょう…めちゃめちゃ年下の子を見てる気分です。
「これはなんだ?もちか?」
「あ、それは串揚げもちって言うんです。みた…じゃない甘辛のタレがついてて、美味しいですよ。」
「へえええ!うまいのか…」
王太子さん、楽しそうですね。
ちなみに、商品名を知ってたのは使用人さんに良く貰うからです。
…流石にこの世界の食事事情までは知りませんって…
「坊ちゃん一ついるかい?」
「うん!」
「ほらよ。」
「…んん!おいひい!」
美味しそうで良かったです。
…ん?お金、払ってなくないですか?
「坊ちゃん、代金!」
「?」
「あ、いくらですか?」
「坊ちゃんのねーちゃんかい?15ペスだよ。」
15ペスですね…確かこの辺にお小遣いがあったはずです…
あ、ありました!
「どうぞ。」
「ん。ちょうどだな。あんがとよ。」
「はい。」
ふぅ…危なかったですね。
このままじゃ、王太子さんが盗みをする所でした。
「リヒト様。いいですか?市街地で物を買うときは、お金という物がいるんです。」
「そうなのか?」
「はい。なので勝手にもって…あーー!」
すでにもってます!
袋を3つとりんご飴ですか?!
「それ、どこで貰いました?」
「え?これ?あそことあそことあそこと、あそこ。」
ああ!払ってこなきゃです!
「ちょっと待ってて下さいね?!」
あっちにもこっちにも行かなきゃですー!
ああ!お金がないです!
これ、経費で落ちるんでしょうか?!
***
…ふぅ。全部払い終わりましたね。
片っ端から払ったので、お金がすっからかんです。
後で必要経費として落としてもらいましょう。
「リヒト様お待たせしまし…あれ?」
いない?ですね…
え、置いて行かれました?
馬車とかは…
ない、ですね。
はい。
置いておかれましたね。
確実です。
はぁ…
どうしましょう。帰るお金がありません。
残ったお金は30ペス。
乗合馬車でも、家まで片道150ペスかかるので、乗れません。
歩いて帰るにしても、片道15キロ。
とても8歳児に歩ける距離じゃないですね。
帰れません…
はぁ。
あ、花畑があります。
公園みたいになってますね。
綺麗です…
え?現実逃避すなですか?
しょうがないじゃないですか。
帰れませんもん。
「…どうしようかしらね…」
「何してんの?」
え?
後ろで声が聞こえたので振り向いてみましたが…
誰でしょう?
キリリとした顔に、少年ならではのあどけなさが残ってます。整ってますね。よく言うイケメンとやらでしょうか…
「何してんのって聞いてんだけど。」
「あ、花を見てるんです。帰るお金がないので。」
あ、うっかり話しちゃいました。
悪い人だったらどうしましょう…
「そっか。」
「えっと…貴方は?」
「僕は、お忍び旅行中だよ。」
「へぇ…そうなんですね。」
お忍び旅行ですか…身分が高そうですね…
なんか、高貴なオーラが漂ってますし。
「そーだ!お金あげるね。」
「え?」
「帰るお金がないんでしょう?だから…いくら?」
「150ペスです…っでも!悪いですからいいですよ!」
「ダメだって。人助けは大事だし。」
「でも…」
「ほら、僕はお忍びだから。黙っててもらえるように、賄賂。」
「そっそう言うわけには…」
「ダメ?」
「ダメ…じゃないです…けど…」
「じゃあいいじゃん。」
「あ、でも、ちゃんと返すので!あの…お名前を…」
は!ちょっと微妙な顔しました!
そうですよね…お忍びですもんね…
「あ、やっぱりいい…」
「…分かった。僕はレオ。リーレオ。君は?」
「わっ…私は…リリーです。リリアーネ。」
「分かった。いつかちゃんと返してね。」
「はっはい…あ!これ、担保として受け取ってください!」
「え?ペンダント…?」
「はい!宝物なので、必ず取りに来ます。それまで、担保として…」
「分かった。じゃあ、貰っとくね。」
「では…」
「あ!これあげる!」
え?団子…ですか?
あの王太子さんが買っていた団子ですね…
「でも…」
「そろそろ見つかりそうなんだ。僕だけじゃ食べらんないし。これも何かの縁だし、人助けだと思ってもらっといて!」
「あ、はい…」
「ーー様!何をしてるんですか?」
「やべ!じゃあ、そうゆーことで!」
…いい子…でしたね。
貰ったおもち腐らせたらアレですし、食べちゃいましょう。
…おいしいですね。
***
結局、王太子様が私を置いて帰ったのは、私が気に食わない取り巻きさん達の差し金らしいです。
これに懲りて、婚約者を降りろって事らしいです。
でも、私の一存で決められませんしどうしようもないです。
降りることはできませんし、諦めてもらいましょう。
…それに、あの後の花畑での一幕が、夢みたいで…なんかどうでも良くなっちゃってます。
信じられなくて、嘘みたいで…私の空想な気がしてしまいます。
でもあれから無くなったペンダントと、残ったおもちのカラが事実だと示してます。
…今まで食べてきたどんな物よりも、あのおもちが美味しかったんですよね。
なんででしょう…
どうしても入れたかったこのお話。