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優しい魔女に恋した王子様  作者: ナツスズ
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再会は突然に


    

『再会は突然に』



王族の住まう宮殿より少し離れた所に『奇跡の森』と呼ばれる壮大な森が広がっている場所がある。

そこは珍しい花々や薬草がありとても美しい湖がその森の奥深くにあると言われている。


湖のほとりに咲いている珍しい薬草『サンジュラ』という葉を取りに来ていた女はそのサンジュラの葉を数枚採取しようとしゃがみ込んで持ってきていた籠に積もうと手を伸ばした。


すると自身の右側の方から「シェリル……?」と小さく呟く声が聞こえて思わず立ち上がってそちらの方を向く。

採取することに気を取られていて近づいてくる人の気配に声をかけられるまで気付かなかった。


「やっぱり、君だった。会いたかった」


そう言葉を零した藍色の瞳に淡いクリーム色の短めの髪を風になびかせてこちらをじっと見つめながらもゆっくりと歩み寄ってくる見目麗しい長身の男に女は驚いて固まっていた。

そんな女を気にもせず男は近づくと少しかがみ、自身よりも小さく小柄な女の左手を取り指先に口付けを一つ落としふわりと笑みを浮かべた。


「あの日からずっと君の事を想っていたんだ。シェリル」


シェリルは彼のどこか無邪気で愛らしさのある笑みを見てはっとした。

もしかして、この人は十年前に私の家に来たレンツィオ殿下なの?

初めてお会いした時はとても笑った顔が可愛らしくて女の子かと思った事があった。


それが今目の前の殿下はあの頃の可愛らしい面影は無く、長身で顔立ちは父であるジュラスト陛下のように凛々しくて見目麗しい美男子へと成長していて、令嬢方がこぞって彼を取り合うだろうと予想出来るほどだわ。

そんな事を考えていると触れられている左手に少し力が込められて慌てて彼を見る。


「あ、あのっ!」

「もしかして私の事、覚えていないのかな?」


少し眉を下げて悲しそうな表情をしているレンツィオにシェリルは焦る。


「!?あ、え、えっと、れ、レンツィオ殿下……?」


恐る恐る彼の名前を呼ぶと目を細めて嬉しそうな表情を浮かべていた。

取られている手の甲を彼の綺麗で細くて長い指先が優しく撫でる。

その仕草にドキリとした。それも目の前に居るレンツィオは容姿端麗である。


そんな異性に触れられて胸がときめくなというのは無理だろうとシェリルは思った。

異性に触れられたりすることに免疫のないシェリルは落ち着かない心臓辺りの服をきゅっと空いている手で握った。


「あぁ、覚えていてくれて良かった。忘れ去られていたらどうしようかと不安だった」


そう言いながら手の甲を撫でるのを止めず藍色の美しい瞳がじっと自分を見つめてくるのがどうにも気恥ずかしくて俯きそうになるシェリル。

普段は頭からローブを被っているが、今はそのローブは被っておらず腰まであるブラウンの髪が風に吹かれてフラリと舞う。

その際に耳まで赤くなっている彼女に気付いたレンツィオは思わず抱き締めようと動きそうになる自身の腕を何とか抑え込み心の中で葛藤していた。


目の前の彼女は昔会った時、年相応で王宮にお茶会や夜会などに来る令嬢達よりも素直でとても可愛らしかった。

髪の色とお揃いでくりくりとした綺麗なブラウンの瞳が純粋に自分に向けられて、花が咲いたようにふわりと笑いかけてきた。


「はじめまして、シェリルともうします」


耳に優しい声音で言葉を紡ぎ、少し照れたようにはにかむ姿に自分の胸がドキリと高鳴ったのを今でも昨日のように覚えている。

あれから十年経った今、彼女は美しくて素敵な女性へと成長していた。


湖のほとりにしゃがみ込みサンジュラへと手を伸ばし白くて細い指先で葉を優しく扱いながら小さく微笑んでいる所を見つけた時は花の妖精でも舞い降りて来たのかと思ったくらいだ。

おかげで声をかける事を忘れて見惚れてしまっていたのだ、まだまだ青いそんな自分に苦笑いしてしまう。


そんなことを心の中で考えているレンツィオに気付いていないシェリルの視線はいまだに地面の方を見ている。

彼女の足元には薬草を摘む籠があり、先ほどサンジュラの葉に手を伸ばしていたのを思い出して彼女に問いかけた。


「先ほどサンジュラの葉を見ていたようだけれど……」


レンツィオの言葉にシェリルは思い出したように我に返り視線をレンツィオに向けた。


「実は、薬を作ろうと思っていまして。それでサンジュラが必要で採取しようと……」

「そうか……。君の薬や占いがとても良いと耳にしているよ」


レンツィオのその言葉に固まってしまう。

シェリルが薬を作れる事は知っているのは分かる、けれど占いがとても良いと耳にしているとはどういう事だろうか。誰から聞いたのだろうかと疑問が浮かぶ。


色んな事が頭の中で浮かんだがシェリルは考える事を放置した。

それよりも混乱していて今まで忘れていたけれど何故殿下がここにいるのだろうと不思議に思った。

普通なら近くに護衛の者がいるはずだがそれらしき人は近くには見当たらない。

周りを探るような視線に気づいたのかレンツィオは少し首を傾げて訪ねてきた。


「どうしたの?」

「あ、いえ、その、護衛の方は近くにいらっしゃらないのかと……」

「あぁ、側近を連れてきているから他は居ないんだ。まぁその側近も少し離れた所で待機しているけれどね」


シェリルは王太子殿下の護衛が側近だけで大丈夫なのだろうかと心配になった。

本当に何故ここに居るのだろうか、息抜きをするためにしてもここに来るまでに時間がかかるたろう。

そう思ったが自分はただの一般の民で少し顔見知りであるだけの者である。


そんな親しい友人でも恋人でも何でもない私が知る権利も問う権利も無いと疑問を頭の中から消し去った。

シェリルのその胸中など気づきもせずレンツィオはいまだに握っている己よりも白くて小さい手を名残惜し気に一撫でして離し、一緒にしゃがむように促しながらシェリルに一つ提案した。


「もし迷惑でなければ、私に薬草を摘む手伝いをさせてくれないか?」


シェリルはレンツィオのいきなりの申し出に思考が停止してしまい、言葉の意味を理解するのに時間がかかってしまった。

え、今なんて言われたのだろう?

殿下に薬草を摘むのを手伝わせる?……。それは物凄く駄目な事よね!?

不敬などになってしまうのではと思うと殿下に手伝いをしてもらうなど怖くて無理だと考えてやんわりと失礼にならないように言葉を選んだ。


「迷惑などではっ!ですが殿下のお手を煩わせるなど……」


出来ません、そう続く筈だった言葉はレンツィオの人差し指がシェリルの唇に触れた事で紡げなくなってしまった。


「私がやりたくて君に聞いたんだ。昔のように君の話を聞きながらね。固くならず気楽に接してほしいな」


ふわりと優しく微笑まれておまけに唇に触れている指先にじわりと羞恥心が湧いて、段々と顔に熱が集まってきて言葉に詰まっていた。

答えられずにいると指先が離れていったことにシェリルは少し安堵したのだが、レンツィオからの視線に負けてしまい、一緒に薬草を摘んでもらう事をお願いすることに。

その際、あまりにも恐れ多くて俯きがちで声も小さくなってしまった。


「……で、でんかがおいやで……なければ……。」

「ありがとう。あとできれば友人に接するように気楽にしてほしいかな?」


レンツィオの後半の言葉に反射的にブンブンと首を横に振っていた。

いくら殿下の許可が下りてもそれだけは!本当に!恐れ多い事なので!

同じ年でも彼は王族で次期国王陛下になられるお方なのだと、本当は薬草を摘んでもらう事も駄目なのだが。


「お、恐れ多い事ですっ!」


あまりにも慌ててしまっているのが面白かったのか、レンツィオは手を口元に当てて笑いだしてしまった。

その姿は初めて出会った幼い頃の彼を思い出させ、シェリルの胸は温かくなった。


「それはまぁ、これから親しくなっていけば良いか。さぁシェリル、サンジュラはどれくらい必要?」


前半の言葉はとても小さくて聞き取れなかったシェリル


「?サンジュラは三十枚あれば足ります」

「三十枚だね、分かった。どれが良いのかな?やはり大きめで綺麗なものが良いのだろうか?」


サンジュラの葉に触れて虫に喰われていないか、大きさを比べてみたりとしているとシェリルからすぐ隣に近づいてきた。


「大きさは掌に収まるくらいの大きさで、色が濃ゆいものが良いですね。あ、これとか大丈夫です」

「そうか、ありがとう。これを見本にして集めることにしようかな」


レンツィオのその言葉に嬉しそうに頷くシェリルを見て、あの頃の事を思い出した。

レンツィオとシェリルが初めて出会った十年前の事を。



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