46 ユーチューバー
ネットのスレッド型掲示板の書き込みにおいて、一つのネタが語り尽くされ一段落した頃、静けさを嫌う者が空気を読んでだ新たな話題を振るのだが、だいたいは疑問形で始まる。そしてその書き込みを閲覧した者は、その質問内容のクオリティに左右はされるが、食い付く者が多ければ書き込み (レス)件数はもちろん増加するし、時にはそれが炎上に発展する事もある。
ーー今回のいけモンチャンネル見た? あの動画ガチなのかな?
この書き込みにはどんな内容の動画を見て、どんな感想を抱いたかなど書き込んでいないが、この掲示板の雑談板でそのナントカチャンネルが話題になれる事を見越した書き込みであり、この書き込みに対してある程度のレスが付く事を見越している「あざとい」内容ではあるのだが、書き込みが減った事で空気が淀んでいた掲示板が、これをきっかけとしてあっという間に活性化してしまう。つまり、潜在的な閲覧者たちが黙ったままその書き込みを流せないパワーワードであったのだ。
ーーあんなの合成だよバカ
ーー嘘を嘘だと見抜けないとは
ーー昔はこじつけ心霊写真が主流だったけど、動画主流の今はCGでどうにもなるからな。あれはCGだよ
ーープロレスと同じ。最初に台本ありきだと思えば何も不思議じゃない
先ず疑問形や質問に対して早い段階でレスが付くのは否定的な意見。
一刀両断とも言うべき即答でバッサリ切り捨てるものの、そのコメントの高圧的な雰囲気が閲覧者の神経を逆なでするのか、その否定的な意見に対して多少の論理的考察を交えた肯定派の逆襲が始まる。
ーーあの人影はガチだと思う。あれだけ画面がブレてるのにCGはめ込みすれば加工バレバレだろ
ーー同意、岡山の廃病院の回は全く現れずに終わったけどそれはそれで面白かった。そもそもいけモンチャンネルの心霊シリーズは出る出ないが問題じゃないだろ
ーーチームいけモンのあのビビりな大騒ぎが面白いのであって、幽霊がガチかどうかは語るもんじゃない
ーー以前のやってみたシリーズなんか見る気も無かったけど、心霊探訪はリアクションが面白いからチャンネル登録した
ーーあれは警察沙汰になって炎上したからね、廃墟でビビるシリーズは誰にも迷惑かけてないし、それっぽい映像があってもネタとしては有り
こうして肯定派や中庸派が巻き返しを図る書き込みを行なって掲示板自体は均衡を保つ事となる。書き込まれる議論の内容がどれだけ閲覧者たちの琴線に触れるかは、それこそその場の流れと空気次第だが、伸びる、伸びないと言うキーワードはこの様なケースに使われる言葉であろう。
ところでこれらの書き込みで話題になっていた「いけモンチャンネル」とは一体何なのか。
察しの良い方々ならすぐ気付くとは思うのだが、今どきの子供たちが希望する将来なりたい職業の上位に輝く「ユーチューバー」である。
ユーチューバーとは、動画配信サイトのユーチューブを利用して自分たちのチャンネルを開設して独自映像を配信しつつ、その広告収入で生計を立てる集団又は個人の事を指し、誰でも安易にチャンネルを開設出来る事から、職業として成立するかどうかは別としても、芸能人の様に一攫千金のチャンスは確かにある。
ただ、一攫千金のチャンスがあると言う事はその逆もまた然りで、全く視聴回数が増加せず、広告収入も無く、光が当たらないまま埋没して行く者も多い。
芸能界よりも敷居は低いが、成功するためには星の数ほどいる同業者たちとの生存競争を勝ち残らなければならず、視聴回数を増やそうとして法に抵触するような非合法な動画を配信する者も後を耐えない。
この、いけモンチャンネルも開設当初は三人組の本名の一字を取って「いけいけモンチャンネル」と言う名称でスタートし、視聴回数とチャンネル登録者を増やす事を目的に、マナーの悪い動画を配信しては視聴者の反感を買いつつ、視聴回数を増やした過去がある。つまりネットの炎上を利用したチャンネル登録者稼ぎである。
しかし、過激動画はエスカレートすればするほど視聴者の眼も肥えて来る事から、更に過激な動画を追い求めて作成していたところ、とうとう法に触れて行政処分を受けてしまう。マナーが悪いとか倫理的にどうかと言う問題ではなく、法に抵触すると言う一線を越えてしまった。
回転寿司店にチームで訪れ、コンベアに乗って回っている寿司にオモチャの寿司を乗せて誰が一番最初に気付くかと言うイタズラ動画を撮影し、回転寿司店から警察に被害届けが提出されたのである。つまり威力業務妨害で訴えられたのだ。
店側に対して全面的に謝罪し、民事裁判を経て多額の損害賠償金を支払い、謝罪動画を配信する事とチームのリーダーが引退する事で社会的制裁を受けるまでに至ったいけいけモンチャンネルは、一度閉鎖のピンチに追い込まれるのだが残ったメンバー二人が起死回生の路線変更を断行し、長い低迷期間の後に見事返り咲いた。
「いけモンチャンネルの全国心霊探訪シリーズ」
メンバーの“いけちゃん”こと小池亮平と“モンちゃん”こと土門竜司が全国の心霊スポットを巡るおっかなびっくりの旅。このシリーズが好評を博し、起死回生の一打となっていけモンチャンネルは復活したのである。
その結果、広告収入が潤い安定軌道に乗った事で、カメラマン兼構成作家の吉川誠治を新たなメンバーに加え、映像演出の向上を図る事も可能となった。
ーーさっき配信された雑談動画で次は長野に行くって言ってたな
ーー心霊探訪またやるの? ちょっと楽しみだね
ーーモンちゃんまたチビらないかな、あのビビりは草生える
ーーだけど長野はヤバイよ、地元民だけど回りが霊場だらけだからちょっと心配
ーー撮れ高上がるならそれはそれで美味しいじゃん
ーーいけちゃんのツイッターだと長野の北方面に行くらしいよ
ーー駅前うろついてればいけモンに会えるかもな
これらの書き込みを見るとどうやら、いけモンチャンネルのメンバーは長野で心霊スポット探訪のロケを敢行するらしい。
果たしてそれは彼らにとって、また視聴者にとって記憶に残る良い動画作品となったのであろうか……?




