「ローソン、サハラ砂漠中央店?」
この作品は、以前におーぷん2chに立てた
彡(゜)(゜)「ローソン、サハラ砂漠中央店?」というSSスレのリメイクです。
ずっと書いてるSFシリーズと似たお話ですが、安価形式のスレだったのでいろいろ思い通りにならなかったり、用意してたことができなかったりで悔いが残ってたので、リメイクして短編に仕立ててみました。トリップとか使ってなかったので元の作品が自分のものだと証明できないのですが…。こういうSFは私以外にあんまり見ないし大丈夫…かな?
八木「(カタカタ)ふー、年に一度の業務報告書か、面倒なモンやなあ」
八木「……ローソンのフランチャイズ店の店長になって十年」
八木「ワイももう45やけど、上納金はきついし、山ほどシフトに入らなあかん……」
八木「たいして貯金もできんし、このままでええんやろうか……」
八木「……だいたいこんな報告書、ちゃんと読んでんのかいな」
八木「ちょっとイタズラしたろ、えーと店長名は八木裕民、年齢は45」
八木「勤務店舗は、サハラ砂漠中央店、と、わはは、どこに店作ってんねん」
八木「何か言われたら適当にごまかしたらええわ」
八木「送信……と」
八木「(バツン)うわ!? 急に電気が消えたで!」
八木「えらいこっちゃ! 今の書類ちゃんと送れたんかいな!?」
八木「いやそれより停電はあかん! 冷蔵庫を確認せんと!」ダッ
八木「…………」ギンギンギラギラ
八木「み……店の外が、砂漠……?」
八木「そ、そんなアホな……」
八木「ちょ、ちょっと外に出てみたろか」
八木「うわあああああ! なんちゅう暑さや!!?」ギラギラ
八木「い、今は真夜中やったはずや、なんでこんな……」
八木「…………」
八木「時差……?」
-30分後-
八木「状況を整理せなあかん……」
八木「これは夢ではない、紛れもない現実や」
八木「ワイはどうやら、コンビニごと砂漠にワープしたようや……」
八木「……信じたくないけど、さっきの書類」
八木「年に一度の決算報告書、あれが関係してるとしか思えへん……」
八木「……あれには一年間の経営計画書が付属してたはずや、日付は一年後の今日まで……」
八木「つまり、一年間ここにおれたら、戻れる、ちゅうことか……?」
八木「……そもそも、ここはホンマにサハラ砂漠なんか?」
八木「鳥取ではなさそうやが……粉っぽい感じはなくて、小さな宝石みたいな砂やな」
八木「あっちに見えるのは砂丘やろか……なんちゅう大きさや、怪獣が横たわってるみたいや」
――サハラ砂漠の砂丘は、大きなもので標高300メートルに達する
八木「(ギラギラ)うう、なんちゅう暑さや、猛暑日なんてレベルやないで……」
八木「……けど仮にサハラ砂漠やとしても、歩いたらそのうちバス停とかあるんちゃうか?」
八木「何かサハラ砂漠について書かれた本ないかな……街の達人には載ってへんか」
八木「お、世界の大自然やて、ちょうどええ本があるわ」
八木「なになに(ぺらっ)」
――サハラ砂漠とは、アフリカ大陸北部にある世界最大の砂漠である。
サハラの語源はアラビア語で〈荒地〉の意。
ナイル川から大西洋岸まで東西約5000km、南北約1500km
ほぼ北緯15°以北のアフリカ全体にまたがる。
八木「南北に1500キロ…」
八木「タクシーやったら5千円ぐらいやろか?」
八木「ちょっと現在位置を調べてみたろ」
八木「携帯は当然圏外やな……。ふっるい携帯やから、GPSも入ってへんし……」
八木「フフフ、マスターキートンを読んだ経験はダテやないで」
八木「まずは地面に棒を立てて、影の動きを観測する……」
-数時間後-
八木「おおよその南中時間が分かったわ」
八木「グリニッジ標準時刻と比べると、1時間ほど進んでるな」
――経度を求めるために必要なものは太陽の南中時間である
グリニッジ標準時刻と比較して、進んでいれば東経、遅れていれば西経側にいることになる
八木「次は緯度やな、確か夜空を見れば分かるんや」
-数時間後-
八木「よし、一眠りしたら夜になったわ」
八木「こうやって手に糸を結んで、石をぶら下げる」
八木「そして夜空を見上げる」
八木「…………うん」
八木「何を見たらええんや?」
八木「天体観測の本があって助かったわ、北極星を見たらええんか」
八木「えーと、北緯は約22度」
八木「太陽の南中時間が標準時より1時間進んでたからから、東経はおよそ15度」
八木「……チャドの北側、あたりか」
八木「…………」
八木「……星が綺麗やなあ」
八木「ははは……あははは……(ボロボロ)」
-3日後-
八木「あかん、弁当も全部腐ってもうたわ」
八木「アイスも冷凍食品も全部ダメや……凍らせておいた揚げ物のネタまで全滅や」
八木「なんとか全部運び出して捨てたけど、もうクタクタや……」
八木「今日も酒を飲むか……」
八木「そろそろ決断せなあかん……」
八木「荷物を持って、助けを求めにいかんと」
八木「一年経ったら元の場所に戻れる、その予感はある」
八木「せやけど、食料がとうてい持たへん……水だっていつまで持つか…」
八木「かといって、手で持てるだけの食料で、45のワイがどこまで移動できるんや……」
-6時間後-
八木「はあ、はあ……」
八木「あかん、とても長距離は歩けへん」
八木「少し歩いただけで皮膚が火膨れしてるわ、方向もまったく分からへん」
八木「このコンビニを見つけられへんかったら死んでたな……」
八木「やっぱり移動は無理か……」
八木「……」
八木「深く考えてもしゃあないな、酒や酒や」
八木「酒だけは売るほどあるからな、ワインは腐ってもうたけど、ウイスキーや酎ハイはまだ大丈夫や」
八木「ツマミもまだまだ持つし、待ってればそのうち助けが来るやろ!」
-来ないまま1ヶ月経過-
八木「もう終わりや…」
八木「現状確認や……」
八木「腐りやすいチョコや惣菜は真っ先に食べてもうた、水や酒はまだあるけど、食いモンが不安やなあ」
八木「ラーメン類はある……これは腐らへんからな、ガスコンロもカセットボンベもあるし」
八木「せやけど、あと50個……。全部無事に食べられたとしても1ヶ月もつかどうか」
-そして1ヶ月経過-
八木「もうあかん……」
八木「寝込んでしもうた……」
八木「もう何日こうして寝てるんやろ、サプリもあと何があったか……」
八木「暑さと栄養の偏りで頭がクラクラするわ……」
八木「あかん、考えがまとまらへん、店に何があったのか思い出せんわ……」
八木「何か、栄養補給できるもの……」
八木「こ、こんなとき、家やったら卵酒を作るんやが……」
八木「ん、卵……?」
八木「そ、そうや、マヨネーズがあったはずや」
八木「でもこの昼間の暑さや、腐ってんのちゃうか……」
八木「(クンクン)お、大丈夫やん」
――マヨネーズは未開栓なら10ヶ月は常温保存できる
八木「ウイスキーに混ぜて飲んだろ」
八木「プハッ、おお、なんかカロリー取れて体が熱くなってきたで」
八木「遭難者がマヨネーズで命をつないだなんて話があるけど、ホンマなんやなあ」
八木「めんつゆから焼肉のタレまで舐めて、なんとか生きてるわ……」
八木「せやけど、最後のポテチも食べてもうた……いよいよ食料も数えるほどに……」
八木「ん!?」
八木「あれは!? 人や!! ラクダに乗った人がおる!!!」
八木「おーーーい!! こっちやーーー!! 助けてくれーーーー!!」
八木「おお、来てくれるわ! これで助かるわ!!」
八木「…………」
八木「……な、なんか、銃を構えてるんやけど……」
男「ペラペラペラペラ」
八木「な、何語やこれ、アラビア語っちゅうやつか…!」
男「ペラペラ!!」
八木「ひいい!! な、何を要求されてんやろ!?」
八木「て、抵抗したらあかん、ここは贈り物や、信長の野望でもそうやった」
八木「さ、酒でもどうや?」
八木「とっておきの響やで、うちの店で一番高いやつや」
男「ペラペラ♪」
八木「おお、喜んでくれたわ」
-1日後-
八木「わはは! おもろいやつやんけアドル」
アドル「HAHAHA」
八木「それにしてもアドルがキリスト教徒で助かったわ」
八木「イスラム教徒やったら怒られたんやろなあ」
――チャドの宗教分布はイスラム教50% キリスト教30% その他アニミズム、ブードゥーなどである
-1週間後-
アドル「ペラペラ」
八木「ん? もう行くんか?」
八木「頼むわ、ワイも連れてってくれ」
アドル「ペラペラ……」
八木「……そうやな、言葉もろくに通じん中で、何日もかけて話し合ったんや」
八木「ここから一番近い村まで140キロ……とてもやないが、歩いて行ける旅ではない」
八木「実はアドルだって死にかけてたんや、行商のルートを大きく外れてな……」
八木「このコンビニにたどり着かなければ死んでたやろう……」
八木「ラクダもだいぶ弱っとる、十分な水をあげられんかったからな……」
八木「二人乗りは無理やろう……」
八木「ほたらお土産や、何もないけど酒と、艦これのフィギュアでも持ってってくれや」
アドル「シュクラン (ありがとう)」
八木「ん? 何かくれるんか?」
八木「おお! アドルの銃やんけ! しかも弾もたっぷり!」
-2ヶ月後-
八木「サハラ砂漠にも生物が皆無っちゅうわけやない…」
八木「トカゲやサソリはもちろん、ヤギやラクダ、クサリヘビ、そして甲虫など……」
八木「特にヤギを仕留められたのは幸運やったわ……。一日かけてなんとか解体して、貴重な食料になったわ」
八木「ベア・グリルスのDVDを見ててよかったわ」
八木「せやけど……」
八木「ついに水が尽きてきたなあ……」
八木「アドルに助けを呼んでくれるように頼んでたけど、まだ来ない……」
八木「この場所を見つけられないのか、ワイ一人のために何百キロ先へ助けを出す余裕はないのか……」
八木「あるいは、アドルもこの砂漠に飲まれてもうたのかも知れん……」
八木「ほんまに恐ろしい場所や……。時間も、生物も、この世の全てが砂に埋もれていくかのようや……」
八木「特に、たまに来る砂嵐、あれは地獄のような光景や」
八木「この店舗ももう1メートル近く砂に埋れてるからな……」
八木「せやけど、幸運にもワイはまだ動ける」
八木「動けるちゅうことは、選択できるってことや」
八木「選択肢は2つ……この店舗でひたすら雨を待つか、オアシスを探しに行くかや」
八木「水はあと10リットルほど……。店舗にいれば1週間は持つけど、砂漠を歩けば2日でのうなる」
八木「もっと考えれば、他の手段が浮かぶかも知れへんけど……その時間すら、今は惜しいわ」
-1日後-
八木「熟考の後、ワイは決断した」
八木「ここに残って救助を待つ」
八木「消極的かも知れん……臆病なのかも知れん」
八木「せやけど、このサハラ砂漠を毎日眺めていると、ここが本当に死の世界やと実感する」
八木「ワイはなんて脆弱なんや、コンビニ一軒分の物資があっても、半年でここまで追い詰められるやなんて」
八木「ワイがもっと強かったら……」
八木「いや、ともかく今は、雨や」
八木「店舗のあちこちに雨水を集める仕掛けを作った、雨さえ降れば、水は確保できるんや」
八木「雨や……雨を待つんや」
八木「考えてみればもう半年も雨が降ってない、確率的には……」
八木「……そもそも、サハラ砂漠に雨なんか降るんかいな」
八木「いや、どんな場所だってまったく雨が降らないなんてことあるはずない」
八木「待つんや……レジャーシートで体をくるんで、日陰でずっと待ち続けるんや……」
-3日後-
八木「…………」
八木(床に撒いといたハチミツに、黒アリが来てる……)
八木(たくさん食べたらあかん、胃液は水分を浪費するんや、少しだけ食べるんや……)
-7日後-
八木(……尿は飲んだらあかんな)
八木(塩分の排出で、水分を消費してしまうようや……)
八木(マスターキートンに出てきた蒸留装置も作ったけど、気休めにしかならへんわ……)
-1ヶ月後-
八木 (……)
八木(……思えば、なんでこんなことになったんやろ)
八木(何かの罰やろか、それとも神様の気まぐれなんやろか……)
八木 (それとも……)
八木(それともこれは、ワイの願望やったんやろか……)
八木(ワイは、マスターキートンが好きで、ベア・グリルスが好きで……)
八木(忙しくて煩わしい日常から、抜け出したかった……)
八木(そうやな……大自然の風景みたいな本も、天体観測の本も、ワイの好みで仕入れたんやった……)
八木(……そうや、ワイは)
八木(ワイは、砂漠へ来たかったんや……)
-?日後-
八木「…………」
-?日後-
八木「……」
-?日後-
――――ザー
ザーーーーー ザーーーーー
八木「はっ」
八木「雨の音や! 雨が降ってる!!」
ザーーー ザーーー
八木「……え?」
八木「ラジ、オ……?」
ザーーー
店員「てんちょー、深夜シフトだからって寝すぎっスよー」
八木「え……」
-1ヶ月後-
八木「じゃあみんな、仕事は今日までやから」
店員「てんちょー、マジで店しめるんスかー?」
八木「まあな、ワイもまだ45や、まだまだやりたいことがあるんや」
店員「あれっスか、マジで行くんスか、サハラ砂漠」
八木「いや、その前に体力づくりと勉強や、たっぷり1年かけて自分を鍛えるつもりなんや」
八木(あの砂漠の出来事が夢やとは、とても信じられへん)
八木(間違いなく、ワイはあの場所にいたんや、砂漠で半年以上生き延びて、帰ってきたんや)
八木(なぜ一年やなく、半年と少しやったのか……)
八木(それはおそらく、ワイが「死んでしまった」からや)
八木(何の事はない、死ねば終わり、元に戻る、これはそういうルールでの出来事やったんや)
八木(――次は)
八木(次はうまくやる)
八木(コンビニなんか必要ないぐらい、強くなってみせる)
八木(万全な準備をして、1年でも2年でも、砂漠で生き抜いてみせる)
八木(何かの復讐でもない、何が欲しいわけでもない)
八木(ワイはただ、あの場所で生き抜いてみたいんや)
八木(砂漠だけが、ワイが生きていられる場所やったんや!!)
-?年後-
ザッ ザッ
行商人「おい、お前の言ってた場所ってのは、この辺か?」
アドル「ああ……ここに、石でできた店があったんだ」
行商人「何もないぜ、そんなもん無かったか、あったとしても砂の下に埋まったんだろうな」
アドル「だが、俺は確かに見たんだ……石でできた店と、奇妙な男が、ここに」
行商人「夢でも見たんだろう、砂漠は人を化かすからな」
行商人「――おや?」
行商人「おい、誰かこっちに来るぞ、ラクダに乗ってる」
アドル「ラクダに? ここは旅行者の来るような場所じゃないはず……」
アドル「……」
アドル「いや、あれは……」
アドル「親友だ」
(おしまい)