大水青蛾
綴るなら先ず文章を考えなきゃな。そうだな...今回は図鑑らしき物にしよう。
「おや、君たち。今日もまたやってくれるのかい?」
「校長先生。」
「その呼び方はやめておくれよ。ここじゃあ只の客さ。」
校長......いやビール腹の紳士が全裸の女性を抱きかかえたまま僕らに話しかけてくる。
「おじさんもこんなことしてるってバレたら人生終わるもんな!」
そうだなあ。と虚ろな目で答える校長先生はお腹をたぷんと揺らした。
「桃簾。時間の浪費は贖罪行きの特急列車に乗るのに等しいよ。」
「しかも持ってるのは片道切符、だろ?」
その通り、と溜息をついて、僕は執筆作業に戻った。
執筆......進まない。大水青蛾から作るか。でもどうするか...。僕は桃簾を無性に殴りたくなった。そうだ!殴ればいいんだ!僕の拳は今や千力の金剛石、プロトタイプの艦上戦闘機!よし、何も怖いものはないぞ。
「桃簾、シャツを脱いで?」
「なんだ?ついに俺の魅力に気づいたか?パパラチアサファイアも尻込みをするほどの美貌だからな。」
「お前が綺麗なのは前から知ってる。早く、もう我慢できない。」
桃簾がシャツの釦を全部開けた。瞬間彼の腹を思いっきり殴り付ける。
「あ"っ......?!」
間髪入れずにもう一発。
「や、めろ.....お"っ」
まだまだ足りない。殴れば殴るほど僕のイマジネーションは活性化し、頭から零れそうになるほど語彙が湧き上がってくる。煌びやかな形容詞と、残虐な主語。頭の中で言葉が踊る様はまさにパレヰド。彼の腹に醜い打撲跡が幾つも残るまで、僕は桃簾を殴り続けた。
「お前......おえ"ぇ"ぇ......あ"っあう"......あ"あ"あ".......」
吐瀉物が僕に少し掛かった。饐えた臭いがする。
「体の中は僕と一緒だね。」
「誰だってそうさ。失望したか?」
「むしろ希望を持った。」
「やっぱお前ってわかんねーな。コミュニケーションエラーだよ。」
桃簾は口元を拭いながら何事も無かったかのように話し始めた。よし、これで大水青蛾も綴った図鑑も完成した。あとはどうしたものか...。
「おおっ!有栖だぞ!」




