継ぎ接ぎの道化師
桃簾の横で、何かが爆発した。
「やあやあ皆様!此方の箱から出でし遠赤外線の憧憬、バナジウムの悲恋!捨てられた蛍石のダンボールと中傷!小生は名もなき道化師!ラングドシャは宙を舞い、落雁は地に伏せる!皆様の胃袋が歓喜の声を上げはち切れた頃だと思い馳せ参じました!初めにご覧いただくのは美少年の綱渡り!純度100%のスグレモノ!一切綱渡りの教育は行っておりません!さあさあ!寄ってらっしゃい見てらっしゃい!」
斜視で目の焦点の合わない道化師がぐにゃぐにゃと話し出す。群衆がどやどやと詰め掛ける。どうやら大きなプレゼント箱が爆発したようだ。道化師の周辺に腕や脚や脳髄が転がっている。
「翠!見ようぜ!」
「了解。」
桃簾に腕を引かれて一番前を陣取る。桃簾をよく見ると片手の手首から先がなかったが、大して気にしていないようだ。
「それ、不便じゃない?」
「利き手じゃないから問題無し。」
いつの間にか天井近くに白くて大きな綱が張られている。一番端の台に立つのは純白の服を着た僕だ。ご丁寧に白いごてごてした帽子まで被らされている。
「さあ悲劇の少年よ!傀儡になりて進め!」
道化師の声に合わせて、僕が足を踏み出した。勿論僕には綱渡りの心得などない。僕は僅か2歩でバランスを崩し、頭から落ちていった。真下には僕の血溜まりができた。僕は桃簾と2人でそれを眺めて、群衆と一緒に大喝采した。感激の拍手は鳴り止まず、叩き続ける掌から出てきた血が赤い絨毯をさらに赤くする。
「さあさ皆様、これはまだ序の口。これより様々な藝術をお見せしましょう。」
だが群衆はもう興味を失っていた。喚き続ける道化師は自らを鉄の処女に閉じ込め、出られなくなった。桃簾が囁く。
「おい翠、条件どうするんだよ。」
「勿論、大水青蛾を用意しなくちゃね。そうだ、今回は桃簾がしてよ。」
「そういうのはお前の役割じゃないのかよ。」
「僕は『清爽』ではないからね。」
僕はポケットに突っ込んでいる小説の続きを書き始めた。しまった。漢字を間違えた。どうしようかな。刹那の永遠に綴らなくてはならない。文字にして表すには少々億劫だ。綴る......そうだ。綴れば良いのだ。




