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52.余暇

 打ち合わせは、案外あっさりと終わった。あとは今日を含めて3日ある休養の残りを楽しむだけである。お爺ちゃんは不幸にも、今からまる1日を、仕事熱心な眼鏡の確認作業とやらに付き合わされるであろう。でも、それが仕事だし仕方ない。明日、愚痴を聞きに行ってあげよう。

 シェロブに明日の訪いを告げておいてもらう。


 大聖堂を去るその足で、街の散策を始めた。


 裸で突貫した例の服飾屋で、替えの下着と靴下を揃えた。靴下は膝下までのものと、その上に重ね履く踝までのものだ。それと、ハンカチを買った。

 以前この店では、貴族の振りをして衣服を貢がせた。そんな椿が今や、侍女を伴って大金貨で買い物をしているのだ。嘘に現実が追いついたと言ったところか。いや、中身はポーション成金か。

 店長にも自分の言葉で詫びを入れた。気にしていない、とは言ってくれたが、迷惑を掛けたのは事実だ。名刺代わりにキラキラ入りポーションを押し付けておく。


 ハンカチはお礼に使う。椿にはじめての異世界語『はしたない』を伝えた御婦人に、貰った手ぬぐいのお礼をしたいのだ。デキる侍女シェロブさんに、既に住まいを調べさせてある。黒髪のインパクトだけを覚えていた婦人は、椿に手ぬぐいを渡したことは覚えていなかった。でも、あの手ぬぐいは擦り切れるまで使うほど重宝したのだ。御婦人にもキラキラ入りポーションを押し付けた。


 カミラ宅には2度目のお茶の頃に戻った。カミラとは夜まで談笑しながらポーションを量産した。なんせ、霊穴とか呼ばれる物騒な場所に向かうのだ。青鬼やらゴブリンがわんさか居るらしい。備えあればなんとやらだ。

 デキる侍女シェロブと、カミラやその同僚の協力を仰ぎ、ありったけのヨモギを街中からかき集めてきている。


 カミラに、ヨモギを蒸して、裏ごししてからポーションにする方法を披露した。これがカミラのツボにハマったらしく、終始お腹を抱えて笑って居た。ホントに料理みたいだ、馬鹿っぽい、と。そんなカミラであったが出来上がったポーションのケミカルで綺麗な蒼色を見て、イリヤお爺ちゃん張りに食いついてきた。狙い通りでちょっと嬉しい。


 用意した容器をすべて埋めても、ポーションづくりを続ける。何やら、長期保存する方法があるらしく、鍋ごとポーションに変えては、カミラの同僚さんに引き渡していく。同僚さん達曰く、数年分の流通量をこしらえたようだ。なんせ、椿とカミラの合作だ、品質もひとしお。同僚さん達の興奮も。


 霊穴の封鎖に失敗して、大逆流が起きてもフーリィパチの兵で耐えうる量を備えるのだと言う。物騒な単語『大逆流』については聞かないでおいた。想像できるし、失敗しなければいいのだ。


 帰宅後は、カミラと夕飯を作る。今度こそは、と存分にカミラ分を堪能することができた。




 明くる日は、カミラと大聖堂に向かう。カミラの職場が大聖堂だからだ。錬金術ギルドは同じ敷地にあるらしい。カミラは仕事に、椿はお爺ちゃんの仕事の邪魔に向かうわけだ。


 そして、その日いっぱいイオシキーお爺ちゃんの仕事を邪魔する。霊穴の処理とやらの成功率を上げるため、お爺ちゃんの知っていることは余さず聞く。持っている文献も全部出させる。孫に読み聞かすように聖女の伝承を語るお爺ちゃん、とても満足そうだ。このイオシキーお爺ちゃんは、イリヤお爺ちゃんと違い、ダイレクトに孫可愛がりを発揮してくる。完全な異世界顔の椿に対して、どうしてこれだけ孫可愛がりするのか不思議だ。


 流石のシェロブも、こっちのお爺ちゃんをからかうような真似はしない。その代わり、女神官スターシャや、覗き魔女のポーシャなど、部下と思しき面子を並べてきた。普段、偉そうにしている部下の前では、デレデレ出来まいとの目論見だったようだが、お爺ちゃんはお構いなくデレデレしている。


 ウンザリしているスターシャとは裏腹に、お爺ちゃんは大変満足しているようで何よりだ。




 最後の日は、カミラの家から出ずに居た。


 ロムトス国内で霊穴の処理が終われば、次はニジニ国内と言っていた。当分の間、この国に戻らない。まして、魔王さん家まで直行する事になれば、そのままお役御免で送還が叶うかもしれない。


 名残を惜しむように、大きな窓の工房と仕事をしているカミラの姿を目に焼き付けておく。


 そして、あっと言う間に出発の日を迎えてしまった。


 この3日間をそうしてきたように、日の出の少し前に起きる。カミラと朝食を作るが、今日はそこに出立の準備が加わった。特別な会話もないまま食事を終えると、この世界の社会人達の一日が始まる時間を迎える。仕事に向かうカミラと共に、お勝手から通りへ出た。


『ツバキ、また何時でもおいで』


『うん、いってきます』


 ヒラヒラと手を振ってカミラと別れる。南の大門に向かいながら何度か後ろを振り返ると、カミラも同じようにこちらを見ていた。お互いに肩越しに笑い合って、今度こそ足を速めた。




 大門には、シェロブを始め神殿侍女まで加わって、椿を待っていた。ニジニ軍の先頭は、もう既に動き始めているらしい。イオシキーお爺ちゃんが用意したという馬車に案内された。


 新しい馬車は、割りかし頑丈そうなものだ。ニジニの間諜こと御者くんが合流しており、再び椿の馬車の担当となった。しかし、護衛はシェロブを始めとする、神殿侍女3人衆である。白い変態、笑う変態、覗く変態だ。これらの変態達が、お嬢様にふさわしくないとか難癖をつけてニジニ兵を遠ざけてくれた。グッジョブである。


 やっぱり、隊列としては殿しんがりに付けられたので、これらの面子で役割分担をしておく。


 スターシャは神都にいる間、椿が延々と組手に付き合わせた、それも半年間みっちりだ。平行して、彼女の同僚から盾の扱いも教わっていたそうで、棍盾スタイルの堅牢な戦士となった。椿と同じものではないが身体強化魔法を使えるので、壁役として存分な活躍が見込める。スターシャの両脇を椿とシェロブが固め、周囲の索敵はポーシャが務める。割と手堅い小隊に仕上がったかな?


 うん、ゲームの4人パーティみたいだ。


 フーリィパチから神都へ向かう最初の駅に居たあの、ごっつい男で実験した他人への強化魔法も各々に施している。椿の物を強化する魔法を行使するには、対象にずっと触れていなければならない。対して他人の身体強化では心石が増幅器のように働き、魔力を循環させ続ける限りは多少離れていても持続するようだ。


 この魔力の循環、シェロブは自力で体得していたし、スターシャは半年かけてなんとか形に。ポーシャは元々魔女の異名を持つほど魔力の扱いに長けている、こないだの火球の威力を上げる実験でなんなく体得してしまった。火球の魔法はてんでだったが、覗き魔法の方で無意識に循環を利用していたのかもしれない。


 これで、椿の100人分は優に超える無駄な魔力を、3人に使って貰う形で運用することができる。


『なあ、あんたら皆、魔法使いなのか?』


 連携の確認をしている椿たちに、御者くんが声を掛けてきた。


『茜みたいに攻撃的じゃないけど』


『そのくせ、青鬼オーガを一騎打ちで仕留めるんだよな。

 魔法使いは、後ろでこそこそやってるもんだと思ってたよ』


 ああ、そう言えば、ニジニは脳筋の国だったか。


『茜のやってるアレが、魔法使いっぽい行動じゃないの?』


『マーリンさんも、ああやって遠くからぶっ飛ばすんだよな。

 まともに使える魔法使いは、かなり少ないんだが、その全部があんな人ばっかりなんだよ』


 魔法の使い方も脳筋なのか……


 椿のモノを強化する魔法や、シェロブの壁抜け、ポーシャの覗き魔法など、固有魔法とか呼ばれていたが、ニジニでは一般的ではないのだろうか? いや、メガネの鑑定って奴はそれっぽいが。


 そう言えば、茜の個性はどんな形で表れるのだろうか。


 なんか、破壊に極振りしたような魔法が現れそうだな……


『あの、雷がそうでは?』


『あぁ、そう言えば自分で開発したと言っていたな』


 シェロブも、茜の魔法は確認していたらしい。


 破壊一辺倒とか、茜はニジニと相性ぴったりだったんだな。


 独りで喚ばれてくれればよかったものを。

勇者だから回復魔法とか、瞬間移動魔法とかも開発してしまいそう。

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