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34.山間の駅

 日は傾いており、間もなく夕闇が迫ってくる。


 椿は、いつものように宿を取った。実験も兼ねて、黒髪を晒して駅に入ってみたが、どの人も変わらない様子だ。うーむ、見ただけでは、どんな人達が黒髪を忌避するのか、さっぱり分からない。女神官は、正に聖職者って格好だった。けれども、剣士は普通の兄ちゃんだった。連中には分かりやすい目印を付けておいて欲しいな。あの、教会の天辺に乗っていた偶像、あれを簡略化した首飾りとかさ。私は敬虔な信徒です、って主張をしておいて欲しい。こっちから避けるから。




 翌朝、久しぶりに水筒の水を入れ替える。大分、使ったはずだが、まだまだ大量の水が入っていた。傷んでいる様子もなく、汲みたてと変わらない。これなら、継ぎ足すだけで良いかもしれない。


 今日はいつもと違った出発である。携帯食料を買ったのだ。宿にこれ見よがしに吊るしてあったのだ、干し肉が。1銀貨で一束買うことができた。勧められるままに、この世界の堅いが美味しい黒パンも手に入れた。パンと肉が手に入ったのだ、あとはスープがあれば完璧なんだが。魔法の水筒をもうひとつ手に入れて、スープ入れに使いたいな。


 それともうひとつ、建材なのであろう2m程の木材を手に入れた。太すぎたので加工するが、どうせならと薙刀の形に仕上げてみる。薙刀としては少し短いが、石突を太く付けてみたりと、稚拙な改造を施す。意外と良い出来に満足だ。やっと長物が手に入った、これで道中の安全も向上すると言うものだ。


 加工用にナイフを貸してくれた兵が、そんな変なものを何に使うんだ? みたいな顔をくれた。

 ならばと兵に、ここまで持ち歩いてきた教会のベンチだった木片を構えさせる。木製は強化しても壊れない、って奴が木の種類を問わないのか、確認するためにも実演してみよう。そして強化した新しい木製の薙刀も、例を漏れず白く発光する。脛、胴と振るい、最後に面の積もりで袈裟に斬り、兵に持たせた木片をバラバラに切断した。


 兵からはヒューッ、と紛れもなく称賛のリアクションを頂く。


 武器の強化に関しても大分、加減が分かってきて無駄に光らなくなったよ。


 椿は、ほぼ1ヶ月ぶりに振るう薙刀が嬉しくてたまらない。何度か振るうと、その度にひゅんと小気味よく空を切る音がする。思わず鍛錬でもするように、素振りを始めてしまった。

 素振りをする椿の姿が珍しいのか、数人の兵が集まってきた。自画自賛ではないが、薙刀の形は美しいと思う。10分ほど素振りをした椿に、兵達が拍手を寄越してくる。なんとも気恥ずかしい事よ、見世物になるほどか。薙刀はないにせよ、この世界にだって、槍術なんかはあると思うんだが。


 先程、木片を持たせた兵に、もう一度ナイフを借りた。バラした木片をナイフの形に成形する。強化して使うことが前提だが、短い刃物も欲しかったのだ。竹ナイフならぬ、木製ナイフだ。イメージ的には、竹の方が強化したときに鋭くなりそうなんだけどな。ないものは仕方ない。1本を仕上げたところでナイフを返し、2本目を木製ナイフで成形する。


 うむ、木で木を切れる。凄いな、強化魔法は。




 なんだかんだと午前も遅くまで時間を潰してしまった。宿に戻り早い昼食にする。女将さんに、あんたまだ出てなかったのかい、って顔をされたよ。必要なだけ飯を腹に入れ、余分なものを腹から出す。トイレがある内に済ませておかないとね。でもそろそろ、野糞の方法も確立しないと…… いつか腹を壊すこともあるだろうし。日本はトイレに恵まれすぎなのだ。


 トイレと言えば何故、人は尻を拭くのか。それは二足歩行になった弊害だそうだ。2本の足で体重を支え、時には高いところに登ったりする。そんな行動が臀部を発達させ、ふたつに割れるなどと形容される形となった。このお陰で、肛門が尻の谷間に隠れてしまったらしい。糞が尻に触れずに出せなくなったのだ。ああ、悲しい進化の代償よ。


 犬や猫は、糞をするときに直腸が裏返るように一緒に出て、尻を汚さないらしい。人間は、直立した身体から糞が落ちないように肛門を締める。鍛えられた肛門は固く、裏返らなくなり、ますます汚さずに済まなくなったそうな。


 そんな事を考えつつも、昼前には駅を発つ。やはり、独りで出ていこうとする椿を心配するように、兵達が馬を連れてきたりと世話を焼いてくる。山間部では、危険も増すのだろうか。


 やんわりと断りを入れて、変わらず徒歩で進む。まあ、今日は発展型の身体強化で走ってみるつもりだ。




 しかし道中は、想定していたほど思い切り走ることができなかった。山道なので、曲がりくねっていたり、起伏が邪魔をしたりで、進行方向に十分な視線を確保できなかったのだ。それでも、十分に早かった。体感では30分も掛からずに、次の駅に着いた。時速60kmは出たんじゃなかろうか? 熊並みだぜ、熊並み。魔ッチョ襦袢の厚みを考えると、確かに熊並みではあるな。


 あとは、やたら風の抵抗を受けてしまう、このスカートや外套を何とかできれば、更に早くなるだろう。


 まだ昼過ぎなので、駅はそのまま通過した。


 徒歩だと、駅の移動に5時間は掛かる。つまり、昼を過ぎて遅くなった頃に出ると、常識的には日が暮れるまでに次の駅に辿り着けないのだ。それまでの時間であれば、怪しまれず、もとい心配されずに通過できる。まあ、入ってくるときに独りかよって驚かれ、出ていくときに独りかよって心配されるのだが。




 道沿いから木々が離れていき、その木々も疎らになってきた。木の種類も針葉樹が目立つ、杉とか檜とかに似ている木の割合が増えてきたのだ。いつの間にか、標高が高くなってきたか、気候が乾燥したものになってきたのだろう。この服装で居ることに、危機感を覚えてきた。しかし、通行人がいないので、参考にできるものがない。ここを通る人々は、どのように防寒をしているのだろうか。


 まあ、最悪は王都まで引き返して東ルートだな。




 そう言えば、動物の姿は鳥くらいしか見かけない。巧く姿を隠している小動物がいるかもしれないが、それに気付くこともない。思い出したが、王都の周りには猪っぽいのが居たし、草原には鹿っぽいのが居た。

 山間部なら狼やら、山羊やらが居るだろうか? それこそ熊とかも出る可能性がある。後は、ゴブリンやら青鬼やらだ。あれは、どんな所に巣食っているんだろうか? 人が作ったこの道は、とうぜんそういった危険な場所を回避して作られていると想像できる。しかし、ゴブリンやらが馬鹿ではない場合、この道で待ち伏せすれば人が来るって分かるはずだ。ゴブリンだけではないな、山賊とか、人間も襲ってくるかもしれないのだった。


 にわかに、前方から何かが聞こえてきた。大勢の人が騒いでいる感じがする。青鬼の件がある、少し躊躇したが近付いて見ることにした。


 すると、女性の頭と胴体に、鳥の翼と足を持った化物が飛び交い、商隊を襲っているのが見えた。


 うぉい、折角、長物を手に入れたのに、空を飛ぶ相手とは……

糞魔女が使ったような、魔法の遠距離攻撃を研究していない椿さん。

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